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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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第二十九歩目 「王都地下迷宮の探索バイトと、聖女の前世」


 王都へ向かう旅は、思ったより順調だった。


 ……最初の半日までは。


「止まって!」


 女冒険者が叫ぶ。


「前に魔物!」


 勇者が剣を抜く。


「数は?」


「十匹くらい!」


 女魔法使いが杖を構える。


「任せて!」


 魔法が炸裂する。


 ――ドォン!


「倒した!」


 女冒険者が駆け出す。


「待って!」


 ユウが叫ぶ。


「何?」


「それ、食べられる魔物です」


「……」


 女冒険者が振り返る。


「食べるの?」


「はい」


「……」


「宿代の節約になります」


 勇者が頭を抱えた。


「お前、どんな状況でもバイトに繋げるな」


⸻


1 王都到着


 数日後。


 五人は王都へ到着した。


 だが。


「……」


 門前には大量の兵士。


「警備が厳しいわね」


 女魔法使いが呟く。


「ユウを探しているんでしょう」


 聖女が答える。


 女冒険者が笑う。


「じゃあ、どうやって入る?」


 ユウは少し考える。


「働きます」


「……」


 全員が同時に振り返った。


「何で?」


「王都地下迷宮の管理人を募集しています」


「なんでそんな仕事があるの!?」


「危険だからです」


「それを普通に選ぶな!」


 女冒険者が笑い出す。


「面白そう!」


「賛成するな!」


 勇者のツッコミが響いた。


⸻


 王都地下迷宮。


 正式には「旧王都地下遺構」。


 三百年前の戦争以前から存在する巨大地下施設だ。


 ユウは管理人の制服を着ていた。


「似合ってる」


 女冒険者が笑う。


「ありがとうございます」


「褒めてないよ」


「そうですか?」


「褒めてるんだけど!」


 聖女も微笑む。


「ユウさんは、どんな仕事でも似合いますね」


「ありがとうございます」


 勇者がぼそっと言う。


「褒められてるのか、心配されてるのか分からないな……」


⸻


2 地下遺構


 五人は地下へ降りる。


 古い石壁。


 崩れた通路。


 壁に刻まれた紋章。


「……」


 ユウが立ち止まる。


「どうしたの?」


 女冒険者が聞く。


「この紋章」


 ユウは壁に触れる。


「見覚えがあります」


「前世?」


「たぶん」


 大賢者の弟子だった頃。


 古い文献で見た記憶。


「三百年前の王国軍が使っていた紋章です」


 女魔法使いが驚く。


「ここが軍の施設だったってこと?」


「はい」


 ユウは周囲を調べる。


「しかも、かなり重要な場所です」


 女冒険者が壁を叩く。


「……奥に空間がある」


「分かるんですか?」


「冒険者だからね」


「すごいですね」


「でしょ?」


 ユウが壁を見る。


「じゃあ、開けます」


「どうやって?」


「掘ります」


「また掘削……」


 ユウは道具を取り出した。


 数分後。


 壁の一部が崩れる。


「開きました」


「早っ!」


 その先には。


 巨大な地下室。


 大量の古い武器。


 そして――


 壁一面に描かれた人物たち。


「……」


 勇者が息を呑む。


「これ……」


 そこには。


 勇者。


 魔法使い。


 聖女。


 冒険者。


 そして――


 一人の少年。


「……俺?」


 ユウが呟く。


 女冒険者が近づく。


「この少年……」


 聖女も見る。


「私たちに似ています」


「似てるんじゃない」


 女魔法使いが言った。


「たぶん、同じ人物よ」


 ユウの胸がざわめく。


⸻


3 聖女の記憶


 突然。


 聖女が壁に手を触れた。


「……!」


 身体が震える。


「聖女?」


「大丈夫です」


 だが。


 次の瞬間。


 彼女の目から涙が落ちた。


「……思い出しました」


 全員が振り返る。


「何を?」


 聖女は壁を見る。


「この場所」


 声が震えている。


「私は、ここにいました」


「三百年前?」


「はい」


 聖女は目を閉じる。


 記憶が蘇る。


⸻


 白い法衣。


 まだ幼い少女。


 隣には勇者。


 魔法使い。


 冒険者。


 そして。


 一人の少年。


『もうすぐ王都に着く』


 勇者が言う。


『本当に戦争を止められるのかな』


 聖女が不安そうに尋ねる。


『止める』


 勇者は笑う。


『みんなで行けば大丈夫だ』


 少年は後ろを歩いていた。


『……』


 聖女が振り返る。


『どうしたの?』


『何でもない』


 少年は笑った。


『俺は後ろにいるから』


 聖女は頬を膨らませる。


『またそれ?』


『うん』


『いつも後ろじゃない』


『そのほうが安心だから』


 聖女は笑った。


『じゃあ、私も後ろにいる』


『どうして?』


『あなたが一人にならないように』


⸻


 聖女が目を開ける。


「……」


 涙が頬を伝っている。


 ユウは何も言えない。


「思い出しました」


 聖女はユウを見る。


「私は三百年前も、あなたと一緒にいました」


「……」


「あなたはいつも、私たちの後ろにいた」


 ユウは苦笑する。


「やっぱり俺、昔からそうなんですね」


「違います」


 聖女は首を振る。


「あなたは後ろにいたんじゃない」


「……?」


「私たちを――」


 聖女は微笑む。


「後ろから守っていたんです」


 ユウは黙った。


⸻


4 忘れられた少年


 地下室の奥。


 一つの石碑がある。


 女冒険者が近づく。


「名前がない」


 勇者が見る。


「本当だ」


 英雄たちの名前は刻まれている。


 勇者。


 聖女。


 魔法使い。


 冒険者。


 だが。


 少年の名前だけがない。


 ユウは石碑を見る。


「……」


 なぜか。


 悲しくなかった。


「これでいいんです」


 勇者が振り返る。


「いいのか?」


「はい」


 ユウは笑う。


「昔の俺は、名前を残すためにいたんじゃない」


「……」


「みんなが生き残るためにいた」


 聖女が静かに頷く。


「そうでした」


 女冒険者も腕を組む。


「でも」


「?」


「今回は名前を残してもいいんじゃない?」


 ユウは少し驚く。


「……俺の名前?」


「そう」


「恥ずかしいです」


「何でよ!」


 女魔法使いが笑う。


「あなた、本当に自分を評価しないわね」


 勇者も笑う。


「それがユウなんだろ」


 ユウは頭を掻いた。


「……そうかもしれません」


⸻


 その時。


 地下室の奥から音がした。


 ――カチッ。


「……?」


 女冒険者が武器を構える。


「誰かいる」


 足音。


 暗闇から一人の男が現れる。


 黒いローブ。


 王都の研究者。


「やはりここに来たか」


 ユウが警戒する。


「あなたは……」


「転生者研究の責任者だ」


 男は微笑む。


「ユウ・タナカ」


「……」


「ようやく会えた」


 勇者が剣を抜く。


「何が目的だ?」


「彼を連れて帰る」


 男はユウを見る。


「彼は、この国の歴史を変える存在だ」


 聖女が前へ出る。


「渡しません」


 女冒険者も並ぶ。


「私も」


 女魔法使いが杖を構える。


「同じく」


 勇者が剣を構える。


「俺もだ」


 ユウは四人を見る。


 胸が熱くなる。


 三百年前。


 自分はいつも後ろにいた。


 そして今。


 同じ仲間たちが。


 自分の前に立っている。


「……」


 ユウは一歩前へ出る。


「皆さん」


「何?」


「今回は」


 ユウは笑う。


「俺も前に出ます」


 勇者が笑った。


「やっとか」


 女魔法使いが微笑む。


「遅いわよ」


 聖女が頷く。


「待っていました」


 女冒険者が短剣を構える。


「じゃあ、行こう!」


 五人が並ぶ。


 その瞬間。


 壁に刻まれた三百年前の文字が――


 淡く光った。


『五人で見つけた真実。五人で守る未来。』


 ユウは目を見開く。


「……五人?」


 だが。


 三百年前の壁画には――


 確かに。


 五人の姿が描かれていた。


 そして。


 その中央にいる少年の顔は。


 今のユウと――


 まったく同じだった。

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