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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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第二十八歩目 「聖女と女冒険者の旅館バイト」



 朝。


 宿屋の厨房。


「ユウ!」


「はい!」


「パンが足りない!」


「今焼きます!」


「スープも!」


「はい!」


「あと二階の客が水を――」


「今行きます!」


「……」


 勇者は食堂の隅で朝食を食べながら、遠い目をしていた。


「なあ、女魔法使い」


「何?」


「俺たち、世界の命運を背負ってるんだよな?」


「そうね」


「なのに、なんでユウは宿屋で働いてるんだ?」


「本人に聞いて」


「聞いたら『バイトなので』で終わるんだよ!」


 女魔法使いは笑った。


「もう慣れたでしょう?」


「慣れたくない……」


 その時。


 宿屋の扉が開いた。


「こんにちは」


 柔らかな声。


 一人の少女が入ってくる。


 白い修道服。


 胸元には聖印。


 そして――


「聖女様!」


 宿屋の女主人が驚く。


 勇者が振り返る。


「聖女?」


 女魔法使いも立ち上がる。


「どうしてここに?」


 聖女は少し困ったように笑う。


「王都から逃げてきました」


「……」


「宰相が、私まで拘束しようとしているみたいなので」


 勇者の表情が険しくなる。


「やっぱり王都は本気で動いてるな」


 聖女は頷いた。


「それから――」


 聖女の後ろから。


「お腹空いた!」


 元気な声。


 革鎧。


 短剣。


 大きな荷物。


 一人の女冒険者が入ってきた。


「朝飯ある?」


 女主人が呆れる。


「あなたね……」


「だって三日まともに食べてないんだもん」


「また無茶な依頼を?」


「まあね」


 女冒険者は笑った。


 そして。


 ユウを見る。


「……あれ?」


「?」


「あなた」


「はい?」


「どこかで会ったことない?」


「……」


 ユウは少し考える。


「宿屋で働いているので、たぶん初対面です」


「そうかなあ」


 女冒険者は首を傾げた。


「なんか、昔から知ってるような……」


 ユウも。


 なぜか同じ感覚を覚えていた。


⸻


1 聖女と女冒険者


 朝食の席。


 勇者。


 女魔法使い。


 聖女。


 女冒険者。


 そしてユウ。


 五人が揃っていた。


「改めて」


 勇者が言う。


「俺たちは王国の陰謀を調べている」


「聞いています」


 聖女が答える。


「だから私も協力します」


「助かる」


 女魔法使いが頷く。


「私は……」


 女冒険者が手を上げる。


「お金がもらえるなら協力する」


「即物的ね……」


「冒険者なんだから当然でしょ」


 ユウが皿を置く。


「どうぞ」


「ありがとう」


 女冒険者は食べ始める。


「うまっ!」


「ありがとうございます」


「あなた料理もできるの?」


「前世で少し」


「前世?」


「……」


 女魔法使いが咳払いする。


「この人は色々できるのよ」


「へえ」


 女冒険者は興味深そうにユウを見る。


「面白い人ね」


「よく言われます」


「本人は否定しないんだ……」


 聖女が微笑む。


「でも、ユウさん」


「はい」


「あなたのことを王都が探していると聞きました」


「はい」


「怖くないんですか?」


「怖いですよ」


「……」


「でも」


 ユウは笑う。


「皆さんも一緒なので」


 聖女は少し驚いた顔をした。


 そして。


「……そうですか」


 優しく笑った。


⸻


2 女冒険者の能力


「ところで」


 女冒険者が尋ねる。


「王都から追われてるなら、どうやってここまで来たの?」


「地下道を使いました」


「へえ」


「王都の古い地下道です」


「それなら、私も知ってる」


「え?」


 女冒険者は得意そうに胸を張る。


「冒険者だよ?」


「……」


「ダンジョンなら任せて」


 ユウが少し興味を持つ。


「地下道の構造、分かります?」


「大体ね」


「地図は?」


「頭の中」


「……」


 ユウの目が輝いた。


「すごいですね」


「でしょ?」


「じゃあ、王都の地下道を――」


「案内できる」


 女冒険者は即答した。


「よし」


 ユウが立ち上がる。


「お願いします」


 勇者が止める。


「何を企んでる?」


「王都へ戻ります」


「戻るのかよ!」


「証拠を探すためです」


「危険だぞ!」


「だから彼女に案内してもらいます」


「そういう問題じゃない!」


 女冒険者が笑う。


「面白そうじゃん」


 聖女も頷く。


「私も行きます」


 女魔法使いがため息。


「……決まりね」


 勇者は頭を抱えた。


「なんで全員こんなに行動力あるんだ……」


⸻


3 聖女の秘密


 その夜。


 ユウは宿屋の裏庭で薪を割っていた。


「……」


 聖女が近づいてくる。


「ユウさん」


「はい」


「少し、よろしいですか?」


「どうぞ」


 聖女は迷いながら言う。


「私には、前世の記憶があります」


 ユウの手が止まった。


「……」


「全部ではありません」


「そうですか」


「でも」


 聖女は胸元の聖印に触れる。


「昔の自分が、あなたを知っていた気がするんです」


「俺を?」


「はい」


 ユウは黙る。


「どの前世かは分かりません」


「……」


「でも、あなたのそばにいると安心するんです」


 ユウは少し笑う。


「俺もです」


「え?」


「聖女さんを見ていると――」


 胸の奥が温かくなる。


「昔、誰かに助けてもらったような気がします」


 聖女は微笑んだ。


「なら」


 一歩近づく。


「きっと、また会えたんですね」


「……」


 二人の間に。


 不思議な沈黙が流れた。


 その時。


「ユウ!」


 女冒険者が走ってくる。


「明日の朝、王都へ向かうよ!」


「分かりました」


「それと!」


 女冒険者が聖女を見る。


「あなたも来るんでしょ?」


「はい」


「よし!」


 女冒険者は笑う。


「女同士、仲良くしようね!」


 聖女も笑う。


「はい」


 その様子を見て。


 ユウは少しだけ嬉しくなった。


⸻


4 新しい仲間


 翌朝。


 五人は宿屋を出る。


 勇者。


 女魔法使い。


 聖女。


 女冒険者。


 そしてユウ。


 女冒険者が先頭を歩く。


「王都まで三日!」


「早いな」


 勇者が言う。


「冒険者だからね」


 女魔法使いが笑う。


「聖女は大丈夫?」


「はい」


「ユウは?」


「大丈夫です」


「じゃあ行こう!」


 五人は歩き始める。


 その後ろ姿を。


 宿屋の女主人が見送っていた。


「ユウ!」


「はい?」


「またいつでも働きに来てね!」


「はい!」


 勇者が振り返る。


「戻ってくるなよ!」


「なんでですか?」


「いや、戻ってきてもいいけど、世界を救ってからにしてくれ!」


「分かりました!」


 女魔法使いが笑う。


「本当に仲間が増えたわね」


「そうですね」


 ユウは歩きながら。


 新しく加わった二人を見る。


 聖女。


 女冒険者。


 どちらも。


 どこか懐かしい。


 だが。


 まだ思い出せない。


 自分の何番目の前世で。


 彼女たちと出会っていたのか。


 その答えは。


 まだ記憶の奥に眠っている。


 そして。


 五人が王都へ向かって歩き出した頃。


 王都では。


 あの転生者研究の責任者が報告を受けていた。


「聖女が逃亡しました」


「……」


「さらに、女冒険者も一行に加わった模様です」


 男は机の上の資料を見る。


 そこには。


 勇者。


 女魔法使い。


 聖女。


 女冒険者。


 そして――


 ユウ。


「五人……」


 男は小さく笑う。


「ようやく揃い始めたか」


「何がです?」


「三百年前の仲間たちだ」


 部下が驚く。


「まさか……」


「ああ」


 男は資料を閉じた。


「彼らは偶然集まっているわけではない」


 窓の外。


 王都の巨大な英雄像を見つめる。


「何度生まれ変わっても――」


「同じ者たちが、同じ場所へ集まっている」


 そして。


 その中心にいるのは。


 いつも英雄ではなかった。


「今回もまた――」


 男は呟く。


「あの少年が、全員を集めている。」


 その事実を。


 まだユウ本人だけが知らなかった。

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