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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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26/51

第二十六歩目 「英雄の銅像修理バイトと、三百年前の真犯人」



 王都を脱出したユウたちは、魔王領へ戻る道を急いでいた。


 勇者は馬を走らせる。


 女魔法使いも後ろからついてくる。


 そしてユウは――


「……」


 荷馬車の中で、求人票を読んでいた。


『国境の町・銅像修理助手募集』


「……」


 勇者が振り返る。


「捨てろ」


「まだ何も言ってませんよ」


「顔に書いてある」


「仕事があるなら仕方ないです」


「仕方なくない!」


 女魔法使いが笑う。


「もういいじゃない。あなた、働いてないと落ち着かないんでしょう」


「そうかもしれません」


「認めた……」


 しかし。


 ユウは求人票を眺めながら、少しだけ考えていた。


 ――自分は、本当にただのモブなのだろうか。


 昨日。


 三百年前の自分を知る老人と出会った。


 そして。


 自分の最初の人生が、ただの村人だったことを思い出した。


 何も持っていなかった。


 何者でもなかった。


 だからこそ。


 誰かを助けようと思った。


「……」


 ユウは求人票を折りたたんだ。


「それでも、俺は俺ですね」


「何?」


「いえ」


 いつもの笑顔に戻る。


「銅像修理、やってきます」


「そこは戻るんだ……」


⸻


国境の町


 魔王領と王国の境にある町。


 そこには大きな広場があった。


 広場の中央。


 巨大な銅像が立っている。


 剣を掲げた英雄。


 その足元には――


『魔族から人々を救った偉大なる英雄』


 と刻まれていた。


「……」


 ユウは銅像を見る。


「この人」


 勇者が言う。


「知ってるのか?」


「知りません」


「じゃあ、なんでそんな顔をする?」


「なんとなく」


 ユウは銅像の台座を調べる。


「これ、壊れています」


「本当?」


 女魔法使いが近づく。


「どこが?」


「内部」


「見えるの?」


「音で分かります」


 掘削の前世。


 金属加工をしていた前世。


 鍛冶を手伝った前世。


 様々な記憶が重なる。


「中に空洞があります」


「空洞?」


「しかも、後から作られています」


 ユウは工具を取り出した。


「少し開けます」


「おい」


 勇者が止める。


「これ、英雄の銅像だぞ?」


「だから慎重にやります」


 ユウは台座の裏を調べる。


 小さな亀裂。


「ここです」


 工具を差し込む。


 カチリ。


 石板が外れた。


「……」


 中には――


 一枚の金属板が隠されていた。


「何これ?」


 女魔法使いが取り出す。


 そこには古い文字。


「三百年前の文字ね」


 ユウは読む。


「……」


 そして。


 顔が変わった。


「どうした?」


 勇者が聞く。


「これ……」


 ユウは金属板を握る。


「俺が最初の人生で見たものと同じです」


「……!」


 女魔法使いが息を呑む。


「じゃあ、これが証拠?」


「たぶん」


 そこには。


 魔族の村を襲撃した軍の命令書が刻まれていた。


 命令者。


 軍団長。


 目的。


 そして――


 戦争を起こすための偽装工作。


「……」


 勇者が拳を握る。


「これで、証明できる」


 ユウは首を振った。


「まだです」


「なぜ?」


「命令した人間の名前がありません」


 金属板には。


『上層部の命令』


とだけ記されていた。


「証拠としては弱い」


「そうね」


 女魔法使いが頷く。


 その時。


 広場の向こうから声が響いた。


「その銅像に触れるな!」


 兵士たちが走ってくる。


「王国兵?」


 勇者が剣を抜く。


 ユウは金属板を隠す。


「逃げます?」


「いや」


 勇者が前へ出る。


「ここで話す」


 兵士の後ろから、一人の男が現れた。


「話す必要などない」


 白い軍服。


 胸には王国の紋章。


「……」


 ユウは男を見る。


「あなたは?」


「王国軍の将軍だ」


 将軍は銅像を見上げる。


「その英雄像は、この国の誇りだ」


 ユウが尋ねる。


「この英雄は、本当に魔族から人々を救ったんですか?」


「当然だ」


「三百年前の戦争で?」


「ああ」


「では」


 ユウは金属板を見せる。


「これは何ですか?」


 将軍の顔が――


 初めて崩れた。


「……どこでそれを」


「銅像の中です」


「……」


 将軍が兵士へ命じる。


「捕らえろ」


「やっぱり」


 勇者が剣を抜く。


「そういうことか」


⸻


英雄の銅像


 戦いが始まった。


 兵士たちが襲いかかる。


 勇者が剣を振る。


 女魔法使いが魔法を放つ。


 ユウは――


「こっちです!」


 逃げ道を探していた。


「逃げるのか!」


 勇者が叫ぶ。


「はい!」


「即答!」


「俺、戦闘担当じゃないので!」


「十分強いだろ!」


「剣は苦手です!」


「前世で剣聖だっただろ!」


「孫娘です!」


「そこ重要!?」


 ユウは広場の構造を見る。


 噴水。


 屋台。


 銅像。


 石畳。


「……」


 そして。


「勇者!」


「何だ!」


「銅像の足元へ!」


「なぜ!?」


「倒します!」


「英雄像だぞ!」


「今は障害物です!」


 ユウが銅像の台座を蹴る。


 グラッ。


「え?」


 銅像が傾く。


「うそ……」


 勇者が慌てて逃げる。


 ――ドォォォン!


 英雄の銅像が倒れた。


「……」


 広場が静まる。


 女魔法使いが呟く。


「英雄像……」


 ユウは頭を掻く。


「修理のバイトだったんですけど」


「壊してるじゃない!」


「結果的に」


「結果的にじゃない!」


 しかし。


 倒れた銅像の内部から――


 大量の古い書類が転がり落ちた。


「……」


 勇者が固まる。


「なんだ、これ」


 ユウが一枚拾う。


 そこには。


 王国の古い印章。


 軍事命令。


 そして。


 明確な署名。


「……あった」


 ユウが呟く。


「何が?」


「命令した人の名前です」


 女魔法使いが覗き込む。


「誰?」


 ユウは読む。


 そして。


「……初代英雄」


 勇者の顔から笑みが消える。


「英雄……?」


「この戦争を始めたのは」


 ユウは書類を見る。


「魔王じゃない」


 一拍。


「初代英雄です」


⸻

英雄の血筋


 将軍が叫ぶ。


「そんなものは偽物だ!」


 ユウが顔を上げる。


「でも、あなたは知っていましたね」


「……」


「この書類がどこにあるか」


「黙れ!」


「だから銅像を守っていた」


 将軍が剣を抜く。


「貴様らには分からない!」


「何が?」


「英雄の名を汚すことが、どれほどの罪になるか!」


 勇者が言う。


「だったら、真実を隠すことは正しいのか?」


「黙れ!」


「俺は英雄だ」


 勇者は剣を下ろさない。


「でも、嘘の上に英雄なんて必要ない」


 将軍が震える。


「……」


「英雄ってのは」


 勇者が言う。


「誰かを踏み台にしてなるものじゃない」


 ユウは勇者を見る。


 その言葉が。


 胸に響いた。


 自分はずっと。


 英雄の後ろにいた。


 英雄を支えてきた。


 けれど。


 今の勇者は。


 誰かの後ろに隠れようとしていない。


 真実の前に立っている。


「……」


 ユウは微笑んだ。


「やっぱり」


「何だ?」


「あなたを支えてよかったです」


 勇者が笑う。


「今さら?」


「はい」


「遅いな」


⸻


そして、現在の英雄


 将軍が倒れた後。


 町の人々が集まってきた。


 倒れた英雄像。


 散らばった書類。


 真実を知った人々。


「……」


 誰も言葉を発しない。


 そこへ。


 一人の老人が歩いてきた。


「その書類を見せてくれ」


 ユウが渡す。


 老人は震える手で読む。


「……」


 涙が落ちる。


「祖父から聞いた話と同じだ」


「……」


「ずっと、おかしいと思っていた」


 老人は銅像を見る。


「だが、誰も信じてくれなかった」


 ユウは黙っていた。


 すると。


 別の町人が言った。


「じゃあ……」


「何だ?」


「魔族は、本当に悪くなかったのか?」


 誰も答えない。


 ユウは少し考えて。


「悪い人もいます」


「……」


「人間にも」


 そして。


「魔族にも」


 勇者が頷く。


「でも」


 ユウは続ける。


「種族で決める必要はないと思います」


 静かな言葉だった。


 それでも。


 誰かの心に届いた。


⸻


 夕方。


 ユウたちは町を出る準備をしていた。


「なあ」


 勇者が言う。


「何ですか?」


「お前、最初の人生からずっとモブだったって言ってたよな」


「はい」


「でも」


 勇者は笑う。


「今日、英雄像を倒したぞ」


「……」


「すごいことじゃないか?」


「修理バイトだったんですけど」


「そこじゃない!」


 女魔法使いが笑う。


「でも、確かにそうね」


 ユウは倒れた銅像を見る。


 昔の英雄。


 嘘の英雄。


 それを支えるために作られた像。


「……」


 そして。


 自分はその像を倒した。


 偶然。


 いや。


 今回は違う。


 自分で選んだ。


「……少しだけ」


 ユウが呟く。


「英雄の後ろから出た気がします」


 勇者が笑った。


「じゃあ、これからは横に来るか?」


「……」


 ユウは少し考える。


「それは……」


 すると。


 町の掲示板が目に入った。


『宿屋スタッフ急募』


「……」


「おい」


「……」


「ユウ」


「はい」


「見るな」


「でも」


「見るな!」


 女魔法使いが吹き出す。


「もう諦めなさい」


「俺は英雄なんだぞ……」


「英雄でも宿代は払わないとね」


「そういう問題じゃない!」


 ユウは求人票を眺める。


「……宿屋か」


 勇者がため息をつく。


「次はどこで働く気だ?」


「さあ」


 ユウは笑った。


「偶然、仕事があれば」


「絶対わざとだろ!」


「本当に偶然です」


 ――その言葉が。


 自分でも少しだけ可笑しかった。


 なぜなら。


 ユウ自身にも。


 もう分からなくなっていたからだ。


 英雄の近くに行きたいから仕事を探しているのか。


 仕事を探していたら英雄がいるのか。


 それとも。


 何百年も前から。


 自分自身が、英雄たちのいる場所へ歩いているのか。


 答えはまだ分からない。


 ただ一つ分かるのは。


 今世のユウは――


 初めて。


 自分の足で物語の中心へ歩き始めたということだった。


 そしてその頃。


 王都では。


 一人の男が、倒れた英雄像の報告書を読んでいた。


「……初代英雄の記録が流出したか」


 男は静かに笑う。


「ならば、予定を早めるしかない」


 机の上には。


 ユウ・タナカの肖像画。


 その横には――


 『最初の人生から、すべての転生記録』


 と書かれた極秘文書が置かれていた。


「今度こそ」


 男は呟く。


「奴を英雄の後ろから引きずり出す」


 物語は。


 ついに王都の闇へ――


 踏み込もうとしていた。

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