↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/25

第二十一歩目 「魔王城の厨房バイトと、魔王の晩餐」



 魔王城へ向かう道中。


 ユウ・タナカは荷馬車の中で求人票を眺めていた。


『魔王城・厨房補助員募集』


「……」


 勇者が隣から覗き込む。


「それ、まだ持ってたのか?」


「はい」


「捨てろ」


「どうしてですか?」


「魔王城だぞ」


「だから仕事があるんですよ」


「そういう問題じゃない!」


 女魔法使いがため息をつく。


「もう諦めましょう。あの子に常識を求めるほうが間違ってるわ」


 魔王城。


 それは、魔族の国の中心にそびえ立つ巨大な城だった。


 黒い石壁。


 巨大な門。


 空を覆うほどの塔。


 その門前には、無数の魔族兵が並んでいる。


「勇者一行、到着!」


 門が開く。


 勇者が剣に手をかける。


 女魔法使いも杖を構える。


 そしてユウは――


「厨房はどこですか?」


「今それ聞く!?」



 城内。


 勇者一行は大広間へ通された。


 玉座には――


 一人の男が座っていた。


 黒い衣。


 長い角。


 鋭い眼差し。


 魔王。


 その存在だけで、空気が重くなる。


「勇者よ」


 魔王が口を開く。


「よく来た」


「魔王……!」


 勇者が剣を抜く。


 兵士たちがざわめく。


 だが魔王は手を上げた。


「剣を収めろ」


「何?」


「今ここで戦うつもりはない」


 勇者が警戒する。


「では、なぜ呼んだ?」


 魔王は答えなかった。


 視線だけを動かす。


 勇者の後ろ。


 そこにいるユウを見る。


「……」


 ユウも魔王を見る。


「……」


 二人の視線が重なる。


 魔王の表情が変わった。


「やはり……」


「?」


 ユウは首を傾げる。


 魔王が立ち上がる。


「お前か」


「俺?」


「……」


 魔王はゆっくり近づく。


「何度目だ?」


「何がですか?」


「その姿で、私の前に立つのは」


 ユウの顔から笑顔が消える。


「……」


 勇者が振り返る。


「ユウ?」


 魔王は続ける。


「大賢者の弟子だった時も」


「……」


「剣聖の一族だった時も」


「……」


「北の海で漁師をしていた時も」


 女魔法使いが息を呑む。


「狩人だった時も」


「……」


「商人だった時も」


 魔王は静かに笑った。


「お前はいつも――英雄の後ろにいた」


 ユウは黙っていた。


「どうして……」


 魔王が尋ねる。


「なぜ毎回、英雄を助ける?」


 ユウは答えられない。


 自分でも分からない。


「……分かりません」


 魔王は少し驚いた。


「分からない?」


「はい」


「ならば今世ではどうだ?」


「……」


「また英雄を助けるのか?」


 ユウは勇者を見る。


 そして。


「たぶん」


「なぜ?」


「……」


 少し考えて。


「放っておけないので」


 魔王は目を細めた。


「変わらないな」


 その時。


 ――ぐぅぅぅ。


 大広間に腹の音が響いた。


「……」


 全員がユウを見る。


「すみません」


 ユウが腹を押さえる。


「朝から何も食べてません」


「…………」


 魔王の側近が頭を抱えた。


「この状況で空腹になるのか……」


 ユウは魔王に尋ねる。


「食事って出ますか?」


「……」


 魔王はしばらく黙った。


「出せ」


「はい!」


 側近が叫ぶ。


「何を召し上がりますか?」


 ユウが答える。


「厨房を見てもいいですか?」


「……」


「料理の手伝いをしたいので」


 魔王は目を閉じた。


「好きにしろ」


「ありがとうございます」


 ユウは厨房へ向かった。


「待て!」


 勇者が叫ぶ。


「俺たちも行く!」


「なぜ勇者が厨房に……」


 女魔法使いもついていく。


「もう慣れたわ」



 魔王城の厨房。


 巨大だった。


 魔族の料理人が何十人も働いている。


 だが――


「……」


 ユウは食材を見る。


「もったいない」


「何?」


 料理長が振り返る。


「この野菜、葉を捨ててますよね?」


「ああ」


「食べられます」


「本当か?」


「はい」


 ユウは包丁を持つ。


 農夫。


 料理人。


 商人。


 漁師。


 様々な前世の経験が組み合わさる。


「肉はこの部分を煮込みに」


「魚は骨で出汁を取れます」


「豆はスープに」


「パンは少し硬くなってるので、焼き直しましょう」


 魔族の料理人たちは呆然としていた。


「……」


「……」


「……」


 やがて。


 厨房から良い香りが漂い始めた。


 勇者が皿を見る。


「これは?」


「魔王領の野菜と魚の煮込みです」


「うまそうだ」


「勇者、今は敵地よ」


「腹が減ってるんだ」


「私もだけど」


 料理が完成する。


 大広間。


 魔王。


 勇者。


 女魔法使い。


 ユウ。


 そして側近たち。


 食卓を囲む。


「……」


 魔王が一口食べる。


「……」


 沈黙。


「どうですか?」


 ユウが尋ねる。


「うまい」


「よかったです」


 魔王は皿を見つめる。


「……何百年ぶりだ」


「?」


「お前の料理を食べるのは」


 ユウが固まる。


「俺が?」


「そうだ」


 魔王は遠い記憶を見るように言った。


「お前は昔、私に魚を焼いてくれた」


「……」


 ユウの記憶が蘇る。


 漁師だった前世。


 海辺。


 幼い魔族の少女。


 そして――


 一人の若い魔王。


「……あなた」


 魔王が笑う。


「思い出したか」


「少しだけ」


 勇者と女魔法使いは黙って二人を見る。


 魔王は言った。


「お前は、あの時も名乗らなかった」


「……」


「私は名を尋ねた」


「何て答えたんですか?」


「『ただの漁師です』」


 ユウは苦笑する。


「……俺らしいですね」


 魔王も笑った。


 だが。


 その笑顔が消える。


「だからこそ、今度は聞きたい」


「何を?」


「なぜ、お前は何度も生まれ変わる?」


 ユウは黙った。


「そしてなぜ――」


 魔王は勇者を見る。


「毎回、英雄の後ろに立つ?」


 ユウは答える。


「分かりません」


「……」


「俺は、ただ……」


 勇者を見る。


「この人たちを放っておけないだけです」


 魔王は目を閉じた。


「そうか」


 そして。


「ならば、お前に一つ伝えよう」


 魔王は立ち上がった。


「この世界で、勇者と魔王が戦うことになった理由を」


 空気が変わる。


「……」


 勇者が剣に手を添える。


 女魔法使いも表情を引き締める。


 魔王は静かに言った。


「この戦争は――」


 一拍。


「私が始めたものではない」


「……何?」


 勇者が驚く。


「では、誰が?」


 魔王は答えなかった。


 ただ。


 ユウを見る。


「お前なら知っているはずだ」


「俺が?」


「お前の前世の中に――」


 魔王の目が鋭くなる。


「この戦争の始まりを知る者がいる」


 ユウの胸がざわつく。


 前世の記憶。


 数え切れない人生。


 その中に――


 自分でも忘れていた何かがある。


 魔王は言った。


「思い出せ」


「……」


「お前が英雄の後ろに立つようになった、本当の理由を」


 その瞬間。


 ユウの頭の中に――


 一つの記憶が浮かんだ。


 知らない少女。


 燃える村。


 泣き叫ぶ人々。


 そして。


 幼い自分が、誰かに言った言葉。


『次に生まれたら――』


 そこで記憶が途切れた。


「……!」


 ユウは頭を押さえる。


「どうした!?」


 勇者が立ち上がる。


「大丈夫です」


 ユウは息を整える。


「……思い出せません」


 魔王は静かに頷いた。


「それでいい」


「え?」


「今はまだな」


 魔王は玉座へ戻る。


「いずれ思い出す」


 そして。


「その時、お前自身が選べ」


 ユウは魔王を見つめた。


「英雄の後ろに立つのか」


 一拍。


「それとも――」


 魔王の視線が鋭くなる。


「今世では、自分自身の物語を歩くのか」


 誰も答えなかった。


 ただ。


 その夜。


 魔王城の厨房では――


「ユウさん!」


 料理長が叫んでいた。


「明日の朝食も作ってくれ!」


「いいですよ」


「本当か!」


「バイト代は?」


「もちろん払う!」


「じゃあお願いします」


 勇者が頭を抱える。


「……結局そこに戻るのか」


 女魔法使いが笑う。


「でも、少し安心した」


「何が?」


「ユウはユウよ」


 ユウは鍋をかき混ぜる。


「……」


 魔王に言われた言葉。


 そして、蘇った記憶。


 まだ何も分からない。


 けれど。


 今世の自分が選ぶ道は――


 まだ決まっていない。


 その頃。


 魔王城の最上階。


 魔王は一人、窓から夜空を見ていた。


「……今度こそ」


 小さく呟く。


「お前自身の人生を生きろ」


 そして。


 玉座の裏に隠された古い肖像画を見る。


 そこには――


 何百年も前。


 魔王の隣で魚を焼いて笑う、一人の名もなき少年が描かれていた。


 その少年の顔は。


 今のユウと、まったく同じだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。