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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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20/26

第二十歩目 「魔王領の鉱山バイトと、勇者が知らない道」



 魔王領の街を出て、二日。


 勇者一行と商隊は、山間の街へ入った。


「ここで一泊します」


 商人が言う。


「この先は山道だからな」


 ユウ・タナカは周囲を見回した。


 山。


 鉱山。


 積み上げられた鉱石。


 荷車。


 そして――


 掲示板。


 ユウは足を止めた。


「……」


『鉱山作業員急募』


「……」


 ユウは求人票を見る。


「鉱山か」


 その横から女魔法使いが覗き込む。


「まさか……」


「はい」


「やるの?」


「経験があります」


「前世で?」


「はい」


「でしょうね!」


 勇者が苦笑する。


「本当に何でもできるな」


「何でもじゃないですよ」


「何ができないんだ?」


「歌」


「……」


「歌だけは、前世を含めても苦手です」


「そこなのか」


 ユウはさっそく鉱山へ向かった。



 鉱山の入口。


「臨時作業員か?」


「はい」


「経験は?」


「あります」


「どのくらい?」


「……まあ、それなりに」


 鉱山主はユウを採用した。


 ユウは坑道へ入る。


 湿った空気。


 薄暗い道。


 岩盤。


 足元。


「……」


 ユウは壁に手を当てる。


 前世。


 掘削が得意な奴隷の少年。


 毎日、暗い地下で岩を掘った。


 何年も。


 誰にも名前を呼ばれず。


 ただ、掘った。


 その記憶が、今も身体に残っている。


「ここ、危ないです」


「何?」


 鉱山主が振り返る。


「この先は掘らないほうがいい」


「なぜ?」


「岩盤が薄い」


「そんなことが分かるのか?」


「音で」


 ユウが岩を叩く。


 コン。


 コン。


 ――ゴン。


「ここです」


 掘削を止める。


 その直後。


 ――ドォン!


 少し離れた場所で岩盤が崩れた。


「……」


 鉱山主が青ざめる。


「もし、あそこを掘っていたら……」


「生き埋めですね」


「……」


 ユウは何事もなかったように工具を持つ。


「こっちを掘りましょう」


 その日の作業。


 ユウは驚異的な速さで鉱脈を見つけた。


「ここにあります」


「本当か?」


「はい」


 掘る。


 鉱石が出る。


「……」


 鉱山主は絶句した。


「君、本当に臨時作業員か?」


「はい」


「もっと長く働かないか?」


「バイトなので」


「そこは譲らないんだな……」



 夕方。


 ユウは宿へ戻った。


 勇者たちが待っていた。


「おかえり」


「ただいま」


「どうだった?」


「鉱山でした」


「見れば分かる」


 ユウの服は真っ黒だった。


 女魔法使いが笑う。


「何か見つけた?」


「鉱石を少し」


「そうじゃなくて」


「……」


 ユウは黙る。


「何かあったの?」


「いえ」


 昨日の魔族の老人。


 ――お前は毎回、英雄の近くにいる。


 その言葉が頭から離れない。


 すると。


 宿の主人が声をかけてきた。


「お客さん」


「はい?」


「山の奥に行くなら気をつけてくれ」


「何かあるんですか?」


「昔から使われている古い坑道があるんだ」


「古い坑道……」


 ユウの目が変わった。


「どこですか?」


「北側だ」


「見せてもらえますか?」


「いいが、危険だぞ」


「大丈夫です」


 勇者が立ち上がる。


「俺も行く」


「私も」


 結局、三人で山へ向かうことになった。



 山の奥。


 古い坑道。


 入口には崩れた門がある。


「……」


 ユウは周囲を見る。


「ここ、誰かが最近使ってます」


「分かるの?」


「足跡があります」


 狩人だった前世。


 ユウには一目で分かった。


「魔族です」


「魔王軍?」


「たぶん」


 三人は坑道へ入る。


 しばらく進む。


 やがて。


 地下に巨大な空間が現れた。


「……これは」


 女魔法使いが息を呑む。


 そこには大量の鉱石。


 そして。


 魔王軍の武器が積まれていた。


「武器庫?」


 勇者が剣を抜く。


「待って」


 ユウが止める。


「これは武器庫じゃない」


「何?」


「輸送拠点です」


 地面を見る。


 車輪の跡。


 荷物を引きずった跡。


「ここから鉱石を運んで、武器を作っている」


 ユウはさらに奥を見る。


「……道があります」


「どこへ続く?」


「分かりません」


 だが。


 掘削の記憶が告げている。


「かなり長い」


 ユウは壁に手を当てる。


「この坑道は、山を抜けています」


「どこまで?」


「たぶん……」


 地図を取り出す。


「魔王城の近くまで」


 勇者が息を呑む。


「魔王城?」


「はい」


 女魔法使いが地図を見る。


「つまり、この道を使えば……」


「魔王城へ入れる」


 三人は顔を見合わせる。


 勇者が笑った。


「これは大きいな」


「でも、罠かもしれません」


 ユウが言う。


「慎重に行きましょう」


 その時。


 ――カン。


 遠くで音がした。


「誰かいる」


 勇者が剣を構える。


 女魔法使いが杖を構える。


 ユウは工具を握った。


「……」


 暗闇から魔族が現れる。


 鎧を着た兵士。


「人間か!」


 戦闘になる。


 勇者が前に出る。


「任せろ!」


 剣と槍がぶつかる。


 女魔法使いの魔法が坑道を照らす。


 ユウは――


「……」


 壁を見る。


 そして。


「勇者!」


「何だ!」


「右!」


 勇者が横へ飛ぶ。


 ――ドゴォン!


 壁が崩れた。


「なっ……」


「この坑道、古いです」


 ユウが叫ぶ。


「魔法を強く使うと崩れます!」


「先に言ってくれ!」


「今分かりました!」


「遅い!」


 女魔法使いが叫ぶ。


「二人とも、漫才してる場合じゃない!」


 魔族兵が逃げる。


 勇者が追おうとする。


「待って!」


 ユウが止めた。


「追わないほうがいいです」


「なぜ?」


「この先、落盤します」


「……」


 数秒後。


 ――ズズズズ……。


 坑道の奥が崩れた。


「……」


 勇者は無言になった。


「君、何なんだ?」


「鉱山作業員です」


「そういう意味じゃない!」



 坑道から戻った三人は、街へ戻った。


 そして夜。


 宿の屋根の上。


 ユウは一人、空を見ていた。


「……」


 まただった。


 自分は偶然ここへ来た。


 鉱山でバイトをした。


 古い坑道を見つけた。


 その先が魔王城へ繋がっていた。


 偶然。


 そう考えることはできる。


 でも。


 昨日の老人の言葉が頭から離れない。


『お前は毎回、英雄の近くにいる』


「……俺は」


 ユウは自分の手を見る。


「本当に偶然なんだろうか」


 その時。


「ここにいたのか」


 勇者だった。


「はい」


「眠れないのか?」


「少し」


 勇者は隣に座った。


「今日の坑道」


「はい」


「助かった」


「何がですか?」


「俺たちが死なずに済んだ」


「……」


「それだけじゃない」


 勇者は笑う。


「君がいなかったら、俺たちは魔王城への道を見つけられなかった」


「でも、俺はただ――」


「バイトをしていただけ?」


「はい」


「そうだな」


 勇者は空を見る。


「じゃあ、これからもバイトしてくれ」


「はい」


「俺たちの後ろで」


 ユウは少し笑った。


「分かりました」


 その時。


 山の向こうから――


 巨大な鐘の音が響いた。


 ゴォォォン。


 ゴォォォン。


 街中の魔族たちが騒ぎ始める。


「何だ?」


 勇者が立ち上がる。


 宿の主人が外へ飛び出した。


「魔王城からの召集だ!」


「何があった?」


「勇者が来たらしい!」


「……」


 勇者とユウが顔を見合わせる。


「俺?」


 勇者が呟く。


 だが。


 宿の主人が続ける。


「いや――」


 首を振る。


「魔王が、勇者一行を招いている」


 沈黙。


「……魔王が?」


 女魔法使いも外へ出てくる。


「罠ね」


「たぶん」


 勇者が剣を握る。


 ユウは黙っていた。


 そして。


 ふと、山を見る。


 あの古い坑道。


 魔王城へ続く道。


「……」


 もし、あの道を使えば。


 魔王城へ行ける。


 だが。


 ユウはもう一つ気づいていた。


「勇者」


「何だ?」


「魔王城へ行く前に、少しだけ時間をください」


「何をする?」


 ユウは笑った。


「鉱山の仕事を終わらせます」


「…………」


 女魔法使いが叫ぶ。


「今それ言う!?」


 そして翌朝。


 勇者一行は魔王城へ向けて出発する。


 その荷馬車の後ろには――


 一人の臨時鉱山作業員が乗っていた。


 本人は知らない。


 その先で待っている魔王が。


 ユウの「今世」ではなく――


 何百年も前の、名もなき前世の一人を知っていることを。


 そして、魔王が勇者を呼んだ本当の理由は――


 勇者ではなく。


 その後ろにいる少年だった。

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