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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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13/25

第十三歩目 「商隊のバイトと、英雄の荷物」



 王都を出て三日目。


 ユウ・タナカは、国境へ向かう商隊の中にいた。


「今日から護衛補助をしてもらうユウ君だ」


 商隊を率いる商人が紹介する。


「よろしくお願いします」


「若いのに大丈夫か?」


「たぶん」


「たぶん?」


「昔、商人をしていたので」


「……」


 商人は少し黙った。


「まあ、荷物運びと見張りを頼む」


「分かりました」


 商隊には十台ほどの荷馬車があった。


 食料。


 衣類。


 武器。


 薬。


 そして国境の町へ届ける物資。


 ユウは荷物を確認していく。


「……」


 一台目。


「これ、積み方を変えたほうがいいです」


「何で?」


「重い物が片側に寄ってます」


 二台目。


「この箱、紐を締め直してください」


「そんなに危ないか?」


「道が悪いので、落ちます」


 三台目。


「この薬品は日陰へ」


「分かるのか?」


「熱に弱いので」


 商人は頭を抱えた。


「君、本当にただの護衛補助か?」


「バイトです」


「いや、そういうことじゃないんだが……」


 出発して半日。


 街道は次第に険しくなっていった。


 国境が近い。


 魔王軍との戦いが続いている地域だ。


 道端には壊れた荷車。


 遠くには焼けた村。


 商隊の空気も重くなる。


「ここから先は注意しろ」


 護衛の隊長が言った。


「最近、魔物だけじゃなく盗賊も出る」


「分かりました」


 ユウは周囲を見る。


 森。


 丘。


 崖。


 そして――


「止まってください」


 突然、ユウが叫んだ。


「どうした?」


「この先、進まないほうがいいです」


「何か見えたのか?」


「いえ」


 ユウは地面を見る。


「音が違います」


「音?」


 ユウはしゃがみ込む。


 地面に耳を当てる。


「……」


「何が分かる?」


「地下が空洞です」


 掘削が得意だった奴隷の少年だった前世。


 地下鉱山で何年も働いた経験。


 土の音。


 岩の響き。


 空洞の振動。


 ユウには分かる。


「ここを馬車で通ったら、崩れます」


「そんな……」


 護衛隊長が疑いながらも確認する。


 一本の棒を地面に突き立てる。


 ――ズブッ。


 驚くほど深く沈んだ。


「……本当だ」


 商人が青ざめる。


「迂回するぞ!」


 商隊は別の道へ進んだ。


 その直後。


 元の街道が大きく崩れた。


 ドォォン!


「……」


 全員が言葉を失う。


「助かった」


 護衛隊長がユウを見る。


「君がいなければ、何台か落ちていた」


「昔、こういう場所で働いていたので」


「……またか」


 商人が苦笑する。


「君の『昔』には一体何種類あるんだ?」


「色々です」


 その日の夕方。


 商隊は小さな村で休むことになった。


 ユウが荷物を整理していると――


「おい!」


 商人が叫んだ。


「一箱足りない!」


「何がですか?」


「国境守備隊へ届ける薬だ!」


 全員で荷物を確認する。


 一箱だけ、なくなっている。


「盗まれた?」


 護衛隊長が周囲を見る。


 ユウは荷馬車を一台ずつ調べた。


「……違います」


「何が?」


「盗まれたんじゃありません」


「じゃあどこに?」


 ユウは最後尾の荷馬車を見る。


「これです」


 底板を叩く。


 コンコン。


 他とは音が違う。


「二重底になっています」


 板を外す。


 そこには――


 隠された薬箱。


「なんでこんなところに?」


 商人が青ざめる。


「俺は知らないぞ!」


 ユウは薬箱を開ける。


「……これ、毒です」


「何?」


「薬に見せかけた毒」


 その場が凍った。


 誰かが国境守備隊へ毒を届けようとしていた。


 つまり――


 商隊の中に、裏切り者がいる。


「全員動くな!」


 護衛隊長が叫ぶ。


 護衛たちが剣を抜く。


 商人も怯えた顔で周囲を見る。


「誰がやった……?」


 ユウは黙って馬車を見る。


 そして。


「この箱、誰が積みました?」


「荷物担当の男だ」


 護衛隊長が一人の男を見る。


 男は逃げようとした。


「待って!」


 ユウが叫ぶ。


 男がナイフを抜く。


 ユウは一歩下がる。


 商人だった前世。


 狩人だった前世。


 剣聖の孫娘だった前世。


 様々な経験が身体を動かす。


 ナイフを避ける。


 腕を掴む。


 男の懐から別の小瓶を取り出す。


「これも毒です」


 男は目を見開いた。


「なぜ……」


「匂いで分かります」


「そんな馬鹿な!」


 ユウは小瓶を護衛隊長に渡す。


「これで全部です」


 裏切り者は捕らえられた。


 商人は深々と頭を下げた。


「本当に助かった」


「仕事ですから」


「いや、君の給料では割に合わん」


 商人は報酬を上乗せしようとした。


「結構です」


「なぜ?」


「バイト代だけで十分です」


「君は欲がないのか?」


「ありますよ」


「何が欲しい?」


 ユウは少し考える。


「……新しい靴」


「え?」


「穴が開きそうなので」


 商人は笑った。


「分かった。靴を買ってやる」


「ありがとうございます」


 その夜。


 ユウは焚き火のそばで、新しい靴を眺めていた。


「ちょうどいいな」


 その時。


 遠くから馬の蹄の音が聞こえた。


 商隊の護衛が警戒する。


「誰だ!」


 暗闇から、一台の馬車が現れる。


「……」


 ユウは目を細める。


 見覚えのある馬車だった。


「まさか……」


 馬車が止まる。


 扉が開く。


「やっぱりいた!」


 女魔法使いの声。


「…………」


 ユウは固まった。


「こんにちは」


「こんにちはじゃない!」


 勇者が馬車から降りてくる。


「お前、今度は商隊か!」


「はい」


「国境に何しに来た?」


「バイトです」


「分かってる!」


 女魔法使いが頭を抱える。


「もう偶然じゃないでしょう、これ!」


「偶然ですよ」


「本当に?」


「はい」


 ユウは本気でそう答えた。


 勇者は苦笑する。


「まあいい。実は頼みがある」


「何ですか?」


「国境の砦まで物資を届けたい」


「この商隊で?」


「ああ」


 商人が頷く。


「ちょうど目的地は同じだ」


 ユウは少し考えた。


「じゃあ、一緒に行きますか」


「助かる」


 こうして――


 商隊と勇者一行は、同じ道を進むことになった。


 だが。


 国境まであと一日。


 夜の森で、ユウは一人だけ気づいていた。


 遠くから聞こえる。


 無数の足音。


 金属音。


 馬の嘶き。


「……多いな」


 ユウは森を見る。


「魔物じゃない」


 軍隊だ。


 しかも――


「魔王軍……」


 その数は、数百。


 そして彼らが向かっている先には。


 勇者たちが向かう国境砦があった。


 ユウはしばらく黙って森を見つめた。


「……」


 いつものように。


 偶然、近くにいるだけ。


 ただのバイト。


 そう思っていた。


 けれど。


 なぜか今回は――


 その森から目を離せなかった。

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