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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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12/26

第十二歩目 「騎士団の厩舎と、英雄の馬」



 翌朝。


 ユウ・タナカは王都騎士団の厩舎にいた。


「今日からよろしくお願いします」


「よろしくな」


 厩舎を任されている厩番が、ユウに仕事を説明する。


「馬の餌やり、掃除、水やり。それから体調の確認だ」


「分かりました」


「騎士団の馬は気性が荒いのもいる。無理に近づくなよ」


「はい」


 ユウは一頭目の馬に近づいた。


 馬が鼻を鳴らす。


「……」


 ユウは首筋を撫でる。


 馬が大人しくなる。


「へえ」


 厩番が目を丸くした。


「その馬、昨日からずっと機嫌が悪かったんだが」


「少し疲れてますね」


「分かるのか?」


「馬に乗ってたことがあるので」


「また昔か?」


「はい」


「……もう驚かないぞ」


 ユウは馬の脚を見る。


「この子、蹄鉄が合ってません」


「え?」


「右前脚に負担がかかってます」


 厩番が確認する。


「……本当だ」


「交換したほうがいいです」


「よく見てるな」


「馬は好きなので」


 ユウは笑った。


 その日の仕事は順調だった。


 馬の世話。


 厩舎の掃除。


 飼料の整理。


 どれも難しくない。


 昼過ぎ。


 騎士団の門が騒がしくなった。


「勇者一行が来たぞ!」


「……」


 ユウは手を止めた。


「まさか」


 厩番が嬉しそうに外へ向かう。


「勇者様たちの馬も預かるんだ!」


 ユウも続く。


 門の前には、勇者たちがいた。


「…………」


「…………」


 勇者がユウを見る。


「……いると思った」


「こんにちは」


「もう驚かないぞ」


 女魔法使いが笑う。


「私はちょっと面白くなってきたわ」


「何がですか?」


「あなたが次にどこへ現れるか」


「バイト先ですよ?」


「分かってる!」


 勇者たちは騎士団長との打ち合わせに向かった。


 その間、ユウは馬車の馬を預かる。


「この子は――」


 ユウが一頭の馬を見る。


「かなり疲れてますね」


「昨日も長距離を走ったからな」


 勇者の仲間が答える。


「今日は休ませたほうがいいです」


「でも明日には出発する」


「無理です」


「……」


 ユウは馬の脚を確認する。


「左後ろに軽い炎症があります」


「そんな……」


「このまま走ったら、途中で歩けなくなるかもしれません」


 女魔法使いが心配そうに馬を見る。


「どうする?」


「別の馬を借りればいいんじゃないか?」


 勇者が言う。


 だがユウは首を振った。


「この子なら大丈夫です」


「治せるの?」


「休ませれば」


 ユウは厩舎の奥から薬草を持ってきた。


「これを少し混ぜてください」


「薬草?」


「炎症を抑えます」


 聖女が薬草を見る。


「……この組み合わせ、私も知りません」


「昔、馬の治療をしてたので」


「馬の治療まで……」


 女魔法使いが呆れた顔をする。


「前世、何個あるのよ」


「たくさんです」


「たくさんって……」


 その夜。


 ユウは厩舎の戸締まりをしていた。


 その時。


 ――ヒヒィン!


 馬たちが一斉に騒ぎ出した。


「……?」


 ユウは顔を上げる。


 何かがおかしい。


 馬の耳が、同じ方向を向いている。


 ユウは厩舎の外へ出た。


「誰かいる?」


 返事はない。


 しかし。


 遠くから、かすかな金属音が聞こえた。


 カチャ。


 カチャ。


「……武器?」


 ユウは音のする方へ向かう。


 騎士団の馬具置き場。


 そこに男がいた。


「……」


 男が振り返る。


「誰だ!」


「こっちの台詞です」


 男は剣を抜いた。


「見られたか」


「何してるんですか?」


「お前には関係ない!」


 男が襲いかかる。


 ユウは避ける。


 剣の軌道。


 足運び。


 力の入れ方。


 剣聖の孫娘だった前世の感覚が、一瞬で相手の動きを見抜いた。


「……弱い」


「なっ!」


 ユウは腕を掴む。


 ひねる。


 剣が落ちる。


 男は地面に倒れた。


「騎士を呼びますね」


「くそっ!」


 男が懐から何かを取り出す。


 小さな魔石。


「それは――」


 ユウが気づいた瞬間。


 男が魔石を握り潰した。


 ――ドンッ!


 厩舎の一部が吹き飛んだ。


「うわっ!」


 煙が広がる。


 馬たちが暴れ始める。


「危ない!」


 ユウは走った。


 馬を一頭ずつ落ち着かせる。


「大丈夫」


「怖くない」


「こっちへ」


 暴れていた馬たちが、少しずつ静かになる。


 最後の一頭。


 勇者の馬が怯えていた。


 ユウは近づく。


「大丈夫だ」


 馬の首を撫でる。


「……そうだ」


 その時。


 遠くから勇者が走ってきた。


「何があった!」


「侵入者です」


「無事か?」


「はい」


 勇者は厩舎を見る。


「……君一人で?」


「たまたま見つけました」


 勇者がため息をつく。


「またか」


「はい」


「君の『たまたま』は、そろそろ信用していいのか分からなくなってきた」


 捕まった男を調べると、魔王軍の協力者だった。


 狙いは騎士団の軍馬。


 魔王軍との戦いを前に、騎士団の機動力を奪うつもりだったらしい。


 だが、その計画は失敗した。


 翌朝。


 騎士団長がユウの前に立った。


「昨夜の件、聞いた」


「はい」


「君のおかげで軍馬が守られた」


「馬を落ち着かせただけです」


「それが重要だったんだ」


 騎士団長は一枚の紙を差し出す。


「正式に騎士団で働かないか?」


「ありがとうございます」


「給金もかなり出すぞ」


「……」


「どうだ?」


「短期バイトなら」


「そこだけは譲らんのか!」


 厩番が笑う。


「この子、本当に面白いな」


 勇者たちも出発の準備をしていた。


「ユウ」


「はい?」


「次はどこで働く?」


「まだ決めてません」


「そうか」


 勇者は笑った。


「じゃあ、また会うかもしれないな」


「偶然ですね」


「……ああ」


 勇者はもう否定しなかった。


 馬車が王都を出ていく。


 ユウはそれを見送った。


「さて」


 仕事も終わった。


 次の求人を探さなければならない。


 ユウは王都へ戻る。


 掲示板を見る。


 そして――


 一枚の紙に目が止まった。


『国境方面・商隊護衛補助員募集』


「国境か……」


 ユウは少し考える。


 護衛補助。


 荷物管理。


 道案内。


 危険地域への同行。


「……悪くないな」


 求人票を剥がす。


 その頃。


 勇者たちは、国境へ向かっていた。


 魔王軍との本格的な戦いが始まる場所へ。


 そしてユウもまた――


 なぜか同じ場所へ向かうことになる。


 本人はまだ、それを知らない。


 ただ一つだけ。


 求人票を剥がした瞬間。


 ユウの胸に、ほんのわずかな違和感があった。


「……国境、か」


 なぜか。


 そこへ行かなければならないような気がした。


 だがユウは、その感覚を深く考えなかった。


「まあ、バイトだし」


 そう呟いて。


 また歩き出した。

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