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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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11/28

第十一歩目 「魔術学院の図書室と、禁書の整理」



 冒険者ギルドを辞めた翌朝。


 ユウ・タナカは、王都魔術学院の門前に立っていた。


「大きいな……」


 王都でも有名な魔術師育成機関。


 高い塔。


 広い中庭。


 魔法陣の刻まれた石壁。


 そして――


「図書整理のバイトか」


 ユウは求人票を確認する。


 静か。


 屋内。


 力仕事も少なそう。


 完璧だった。


「今日からよろしくお願いします」


「よろしくね」


 図書室の司書がユウを迎える。


「基本は本の整理。古い本は傷つけないようにね」


「分かりました」


「魔法書は勝手に開かないこと」


「はい」


「特に地下書庫は絶対に一人で入らないように」


「分かりました」


 ユウは素直に頷いた。


 そして仕事を始めた。


 棚から本を取り出す。


 分類する。


 埃を払う。


 元の場所へ戻す。


「……」


 だが。


「これ、場所が違います」


「え?」


 司書が振り返る。


「この本は三階ではなく二階です」


「どうして分かるの?」


「魔法の系統が違うので」


「君、魔法学も分かるの?」


「昔、魔法使いだったので」


「……」


 司書は黙った。


「もういいわ」


「はい?」


「あなたの『昔』は聞かないことにする」


 昼過ぎ。


 学院内が騒がしくなった。


「勇者様が来たぞ!」


 ユウの手が止まる。


「……」


 まさか。


 図書室の扉が開く。


「失礼する」


 勇者だった。


 その後ろに女魔法使い。


「…………」


 女魔法使いがユウを見る。


「…………」


 ユウも見る。


「……やっぱり」


「こんにちは」


「なんでいるのよ!」


「バイトです」


「知ってるわよ!」


 勇者が笑い出した。


「もう慣れてきたな」


「私は慣れたくない!」


 司書が困惑している。


「お知り合いですか?」


「まあ……」


 勇者が答える。


「旅先で何度も会う少年だ」


「へえ」


 司書はユウを見る。


「あなた、面白い子ね」


「普通ですよ」


「その返しも聞き飽きたわ」


 勇者たちが学院へ来た理由は、魔王軍について調べるためだった。


「魔王軍が使っている古代魔法について調べたい」


 女魔法使いが司書に説明する。


「それなら地下書庫ですね」


「地下書庫?」


「ええ。ただし、古代魔法関連は禁書扱いになっています」


「閲覧許可は?」


「学院長から頂いています」


 ユウは聞いていた。


 地下書庫。


 禁書。


 少し嫌な響きだ。


 だが、自分には関係ない。


 そう思って本の整理に戻った。


 しばらくして。


「……あれ?」


 一冊の本を持ったユウの手が止まる。


 背表紙の文字。


 見覚えがある。


「この文字……」


 前世の一つ。


 大賢者の弟子だった頃に学んだ古代文字だった。


「……懐かしいな」


 ユウは本を開く。


 古代魔法の記録。


 その中に――


 魔王軍の補給路について書かれた記述があった。


「……」


 ユウの表情が変わる。


「これ、今の地図と違う」


 古い地図。


 魔王軍の拠点。


 地下道。


 古代遺跡。


 そして――


 勇者たちが次に向かおうとしている場所。


「まずいな」


 ユウは本を持って走った。


「勇者さん!」


「どうした?」


「この道、使わないほうがいいです」


 勇者が地図を見る。


「この地下道が?」


「はい」


「理由は?」


「昔の魔王軍が使っていた道ですが、今は封鎖されているはずです」


「それなら問題ないんじゃない?」


 女魔法使いが言う。


「違います」


 ユウは本を指差す。


「封鎖されたんじゃなくて、魔法で隠されているだけです」


「……!」


 女魔法使いの顔色が変わる。


「どうして分かるの?」


「この魔法式、知ってます」


「古代魔法よ?」


「昔、勉強しました」


「また昔!」


 ユウは続ける。


「この道を使うと、魔王軍の本拠地近くまで行けます」


「なら、便利じゃないか」


「そうじゃありません」


 ユウは地図の一点を指した。


「ここ」


「何?」


「罠です」


 古代魔法。


 地下道。


 大量の魔力。


「この道を通った軍隊が一定数を超えると、入口が閉じる仕組みになっています」


 女魔法使いが息を呑む。


「つまり……」


「入ったら出られません」


 勇者は地図を見つめた。


「……危なかった」


 ユウは本を閉じる。


「じゃあ、気をつけてください」


「君のおかげで助かった」


「本を整理してただけです」


「いや、それはもう――」


 勇者が苦笑する。


「聞くのも疲れてきた」


 その時。


 地下書庫の奥から――


 カチッ。


 小さな音がした。


「……?」


 ユウが振り返る。


 本棚の隙間。


 そこに小さな魔法陣が浮かんでいた。


「これ……」


 ユウは近づく。


 魔法陣を調べる。


「誰かが触った?」


 女魔法使いが警戒する。


「どういう意味?」


「分かりません」


 ユウは魔法陣を見つめた。


 大賢者の弟子だった頃の記憶。


 魔法陣の構造。


 術式。


 発動条件。


「……これ、さっきの地下道と繋がっています」


「え?」


「誰かが今、地下道の封印を解除しようとしてる」


 勇者が剣に手をかける。


「魔王軍か?」


「たぶん」


 その瞬間。


 地下書庫の奥から、低い声が響いた。


『――見つけた』


 ユウの背筋が冷える。


 勇者が剣を抜く。


「誰だ!」


 暗闇の奥から、黒いローブを着た男が現れる。


 手には魔法陣が刻まれた杖。


「魔王軍の魔術師……!」


 女魔法使いが杖を構える。


 しかし男は笑った。


「勇者よ。ここで会うとはな」


 勇者が前へ出る。


「魔王軍か」


「そうだ」


 男が魔法を放つ。


 巨大な火球が飛ぶ。


 女魔法使いが防御魔法を展開する。


「任せて!」


 激しい衝撃。


 図書室の本棚が揺れる。


「本が!」


 ユウが叫ぶ。


「そこ!?」


 女魔法使いが思わずツッコむ。


「貴重な本なので!」


「今そこを気にする!?」


 ユウは本棚を支える。


 その間に勇者が魔術師へ斬り込む。


 魔術師が後退する。


「ぐっ……!」


 しかし、その足元に魔法陣が浮かぶ。


「逃げる!」


 ユウが叫んだ。


「追うぞ!」


 勇者が走る。


「待って!」


 ユウは床を見る。


「そこ、踏まないでください!」


 勇者が止まる。


 床一面に、無数の魔法陣。


「……罠か」


「はい」


 ユウは本を一冊持ち上げる。


「この本に書いてあります」


「今度は本か!」


 女魔法使いが叫ぶ。


 ユウは魔法陣を一つずつ確認する。


「右から二つ目」


「何?」


「そこだけ安全です」


 勇者が走る。


 魔術師へ迫る。


「終わりだ!」


 剣が閃く。


 魔術師は魔法で防御する。


 しかし――


 バキンッ!


 結界が砕けた。


「なに!?」


 勇者の剣。


 ユウが鍛えた剣が、結界を一撃で切り裂いた。


「そんな……!」


 魔術師は驚愕する。


 その隙を勇者は逃さない。


「――そこだ!」


 魔術師は倒れた。


 戦闘終了。


 図書室は静かになった。


「……」


 勇者は自分の剣を見る。


「本当にすごい剣だ」


 ユウはそれを見て笑った。


「ちゃんと役に立ってよかったです」


 女魔法使いがユウを見る。


「ねえ」


「はい?」


「あなた、自分が何をしたか分かってる?」


「図書室のバイトを守っただけです」


「違う!」


 女魔法使いが叫ぶ。


「あなたのおかげで王都への侵入者を捕まえたの!」


「そうなんですか?」


「そうなの!」


 ユウは少し考える。


「……じゃあ、今日の仕事は終わりですね」


「そこなの!?」


 司書が遠くから恐る恐る近づいてくる。


「……本棚は?」


「大丈夫です」


「本は?」


「全部無事です」


 司書は胸を撫で下ろした。


「よかった……」


 ユウは満足そうに頷いた。


 その日の夕方。


 学院長からユウに礼金が渡された。


「こんなに?」


「学院を守った報酬だ」


「でもバイト代は別に――」


「それも含めてだ」


「ありがとうございます」


 ユウは素直に受け取った。


 そして夜。


 求人掲示板を見る。


「……」


 新しい求人が出ていた。


『王都騎士団・厩舎清掃および馬の世話』


「馬か」


 ユウは考える。


 前世で騎馬兵だったこともある。


「これならできるな」


 求人票を剥がす。


 その背後で、勇者たちが学院を出ていく。


 女魔法使いが振り返る。


「……また次の仕事を探してる」


 勇者が苦笑する。


「次はどこだ?」


「騎士団の厩舎らしいわ」


「……」


 二人は顔を見合わせた。


「俺たちも明日、騎士団に行くんだけどな」


「…………」


「もう偶然って言うの、やめたほうがいいんじゃないか?」


 女魔法使いは少しだけ笑った。


「本人が気づくまでは、黙っておきましょう」


 その頃。


 ユウは一人、宿へ向かって歩いていた。


「明日は馬の世話か」


 楽しそうに呟く。


「久しぶりだな」


 その口元には――


 本人も気づかないほど小さな笑みが浮かんでいた。

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