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全前世でモブだった俺、今世も英雄の後ろで暗躍します  作者: まーサンタ
モブバイト編

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10/25

第十歩目 「冒険者ギルドのバイト」



 農園の仕事を終えた翌日。


 ユウ・タナカは、王都へ戻ってきた。


「冒険者ギルドの受付か」


 掲示板に貼られた求人票を眺める。


『臨時受付係・募集』


 仕事内容は簡単だった。


 依頼書の整理。


 冒険者の受付。


 報酬の計算。


 簡単な案内。


「これならできそうだな」


 ユウは受付へ向かった。


 採用は、その場で決まった。


「字は読める?」


「はい」


「計算は?」


「できます」


「冒険者の知識は?」


「少し」


「……また『少し』か」


 受付嬢は苦笑した。


「まあ、今日からお願いね」


「はい」


 ユウは受付カウンターに座った。


 最初の仕事は依頼書の整理だった。


「薬草採取」


「ゴブリン討伐」


「護衛依頼」


「荷物運び」


「迷子の猫探し……」


「猫探し?」


 ユウは依頼書を見つめる。


「これ、報酬が高すぎません?」


「え?」


「猫一匹で銀貨五枚はおかしいです」


 受付嬢が確認する。


「……本当だ」


「依頼主の名前も変です」


「……」


「これ、たぶん盗賊の囮です」


 受付嬢が顔を引きつらせた。


「どうして分かるの?」


「商人だったことがあるので」


「……また?」


 ユウは笑った。


 依頼書は即座に取り下げられた。


 その日の昼。


 ギルド内が騒がしくなった。


「勇者様たちが戻ってきた!」


 受付嬢たちが慌てる。


 ユウは顔を上げた。


「……」


 入口を見る。


 勇者。


 女魔法使い。


 女冒険者。


 聖女。


 いつもの四人。


「……」


「……」


 勇者がユウを見つける。


「お前か」


「こんにちは」


「…………」


 勇者はゆっくりと隣の女魔法使いを見る。


「なあ」


「言わないで」


「まだ何も言ってないぞ」


「どうせ『またいる』でしょ」


「……そうだ」


 ユウは首を傾げる。


「何か用ですか?」


「依頼を探しに来た」


「では、こちらへどうぞ」


 ユウは受付係らしく案内する。


 勇者が苦笑する。


「君、何でもできるな」


「受付の仕事ですから」


「それもバイトか?」


「はい」


「……」


 勇者はもう笑うしかなかった。


 ユウは依頼書を並べる。


「現在、皆さんにおすすめなのはこちらです」


「どれだ?」


「魔王軍の補給路に関する調査依頼です」


 勇者たちの表情が変わる。


「詳しく」


「最近、この辺りで魔王軍の動きが活発になっています」


 ユウは地図を広げた。


「でも、こちらの街道は避けています」


「なぜだ?」


「この地域の食料が急に減っています」


 勇者が地図を見る。


「つまり――」


「魔王軍が別のルートを使っている可能性があります」


 女魔法使いが目を見開く。


「この情報、どこから?」


「農園です」


「農園?」


「働いてたので」


「…………」


 女魔法使いは額を押さえた。


「もう驚かないわ」


 勇者たちは依頼を受けることにした。


 その直後。


 ユウは依頼書の裏を確認した。


「……」


「どうした?」


「この依頼、報酬が安すぎます」


「え?」


「危険度と合ってません」


 ユウは依頼書を裏返す。


「ここ」


 小さな印が押されている。


「これ、魔王軍の紋章です」


「なに!?」


 ギルド内が騒然となる。


 受付嬢が依頼書を奪い取る。


「そんな……」


「依頼を出した人間が、魔王軍と繋がっている可能性があります」


「なぜそんなことまで分かる?」


 勇者が尋ねる。


「商人だったので」


「それ、もう理由になってないだろ」


 女魔法使いが突っ込んだ。


 依頼は即座に凍結された。


 ギルド側が調査を始める。


 結果――


 その依頼を出した人物は、魔王軍に情報を流していた協力者だった。


 勇者たちは危うく罠にかかるところだった。


「助かった」


 勇者がユウに言う。


「受付の仕事ですから」


「君は本当にそれで全部済ませるつもりなんだな」


「はい」


 その日の夕方。


 ユウが受付の仕事をしていると、ギルドの扉が勢いよく開いた。


「緊急依頼だ!」


 冒険者が叫ぶ。


「西の街道が襲われた!」


 ギルド内がざわめく。


「負傷者は?」


「多数!」


「魔物の種類は?」


「分からない!」


 受付嬢たちが慌ただしく動き始める。


 ユウも依頼書を作る。


「救護班を三組」


「え?」


「薬師を二人。荷馬車を一台」


 周囲が止まる。


「あと、討伐隊はこの道を使わないでください」


 地図を指す。


「ここは狭いので挟まれます」


「じゃあ、どこへ?」


「こちら」


「……分かった!」


 ユウの指示通り、冒険者たちが動き出す。


 数時間後。


 救援部隊が戻ってきた。


「助かった!」


「犠牲者は最小限だ!」


 受付嬢がユウを見る。


「あなた……」


「何ですか?」


「受付係、今日から正式採用にしない?」


「短期バイトでお願いします」


「そこは譲らないのね……」


 夜。


 勇者たちはギルドの酒場で食事をしていた。


 勇者が呟く。


「今日もあの少年に助けられたな」


 女魔法使いが答える。


「もう偶然じゃない気がする」


「でも本人は本当に偶然だと思ってるみたい」


「……それが一番怖いのよ」


 聖女が微笑む。


「もしかしたら、本人も気づかないところで私たちを助けたいと思っているのかもしれません」


「無意識に?」


「ええ」


 勇者は考える。


「……そうなのかもな」


 その頃。


 受付カウンターのユウは、一枚の新しい求人票を見ていた。


『王都魔術学院・図書整理補助』


「……図書館か」


 ユウは紙を剥がした。


「静かそうだし、ここにしよう」


 そして翌朝。


 ユウは冒険者ギルドを辞めた。


 受付嬢は最後まで惜しんだ。


「本当に行っちゃうの?」


「はい」


「次はどこ?」


「魔術学院です」


「……」


「どうしました?」


「いや」


 受付嬢は苦笑した。


「勇者様たちも、そろそろ魔術学院へ行くって言ってたなぁと思って」


「……そうなんですか?」


「うん」


 ユウは少し考えた。


「まあ、王都ですし」


「そうね」


 受付嬢は笑った。


「王都って広いものね」


 ユウも笑った。


「さすがに、次は会わないでしょう」


 ――その言葉が、フラグだったことを。


 ユウはまだ知らなかった。

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