【第二章 白い風】第四話 白い風
次の夜も、地下へ降りる。
白いLED。乾いた空気。歩き疲れた人たち。
同じ場所のはずなのに、少し景色が違って見えた。
前を歩く人が咳をする。
横を通り過ぎる人が、長い息を吐く。
遠くで誰かが笑い、その声は人波の中へ消えていく。
一人ひとり、歩く速さが違う。
手にした紙袋の揺れ方も違う。
それでも、ばらばらには見えなかった。
ホームへ下りる。
電車はまだ来ていない。
線路の奥にも、光は見えない。
けれど、白い風が先にホームへ入ってきた。
人々の髪が揺れる。コートが揺れる。新聞の端が小さくめくれる。
黄色い線の近くに立っていた人が、半歩下がる。
その後ろの人も、少しだけ位置を変える。
誰かが合図したわけではない。
それでも群れの形がゆっくり変わり、降りる人のための細い道が生まれた。
風のあとから、レールの振動が靴の底へ届く。
少し遅れて、暗闇の中に二つの光が現れた。
電車がホームへ滑り込む。
扉が開き、人が降りる。
待っていた人たちは左右へ分かれ、さっき生まれた道を空けている。
声をかけ合うことはない。
目を合わせることもない。
けれど、その道は最後の一人が降りるまで消えなかった。
電車に乗る。
窓に映る顔が、トンネルの光に合わせて濃くなり、薄くなる。
人の輪郭は、思っていたより柔らかい。
肩が触れそうになり、少し離れる。
誰かの咳に、別の誰かが顔を上げる。
開いた扉から入った空気が、座席の下を通り抜ける。
完全には混ざらない。
完全には離れない。
次の駅が近づく。
また、風が来る。
今度も、電車が動くより少しだけ早かった。




