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【第一章 氷の音】第一間奏 一頭の牛と牧場
疲れた牛は、草を探して歩いていた。立ち止まると、自分の息がよく聞こえる。
柵の向こうで別の牛が鼻を鳴らした。振り向くまでの間に、乾いた草が風に擦れた。牛はその音を聞いていたのか、鼻を鳴らす方を先に感じていたのか、自分でも知らない。
地下のホームにも、ときどき電車より早く風が来る。靴の縁をなで、紙袋を膝へ寄せる。振り向く人と振り向かない人がいる。
風が過ぎたあとにも、誰かのコートの裾は少し揺れている。牛は草を一口噛み、もう一度柵の方へ顔を向けた。




