【第二章 白い風】第十一話 夜を補う人
歩道橋を降りる。
角のコンビニだけが、昼間と同じ白さで光っている。
自動ドアが開く。
温められたパンの匂いと、冷蔵棚の冷気が一緒に出てくる。
水を買うために店へ入る。
客はほとんどいない。
奥で、店員がペットボトルを一本ずつ棚へ並べている。
空いた場所へ入れ、ラベルを正面へ向け、少し離れて列を見る。
一本だけ奥へ引っ込んでいる。
店員はそれを手前へ出す。
小さな動きだった。
それでも、棚の白い列が静かに整う。
レジへ向かう。
前には、作業着の男が立っている。
さっき歩道橋にいた男だった。
男は温かい缶のコーヒーと、小さな菓子パンを置いた。
店員が袋を広げる。
「そのままで」
男は二つをポケットへ入れ、店を出ていく。
入れ替わるように、自分の水が読み取られる。
短い電子音。
硬貨の落ちる音。
レシートが切られる音。
夜の底では、こんな小さな音が街を補っている。
空いた棚へ水を足す人。
汚れた床を拭く人。
眠る人のために車を走らせる人。
誰にも見られなくても、欠けたところへ何かを戻している。
店を出る。
自動ドアが閉じ、白い光がガラスの向こうへ戻る。
歩道橋の男は、交差点の端で缶を開けていた。
一口飲むと、肩がわずかに下がる。
それから、赤信号の向こうを見た。
自分も水を一口飲む。
冷たさが喉を通り、身体の内側へ細い道を作る。
信号が青になる。
男は右へ、自分は左へ歩き出す。




