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異世界住人譚~ショートショート集~  作者: mizuhashi


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刻まれた終わりを生きる(命の刻印)

私の背中には、生まれたときから紋章がある。

左の肩甲骨のあたりに、黒いツタのような模様がうっすらと浮かんでいる。

この世界では、誰もが生まれた瞬間に「命の刻印」を体のどこかに刻まれる。

それは寿命を示し、死因の暗示を含んでいると言われている。


私の刻印は「蔦」だった。

村の刻印読みの老婆に見せたとき、老婆は一瞬だけ目を伏せた。

そしてこう言った。


「蔦の刻印は、絡みつかれて動けなくなる死を意味する。病か、呪いか、あるいは誰かへの執着か。いずれにせよ、自由を失ったとき、おまえの命は尽きる」


五歳の私には、その意味がよくわからなかった。

ただ、母が泣いていたことだけは覚えている。


この世界では、刻印の形によって人生がおおよそ決まる。

「炎」の刻印を持つ者は戦士になることが多い。

「水」の刻印を持つ者は治癒師に向いている。

「風」の者は旅人や商人。

「土」の者は農民や鍛冶師。

そして「蔦」のような不吉な刻印を持つ者は、人々から距離を置かれる。


私は十二歳になるまで、村の外れでひっそりと暮らしていた。

母は私を愛してくれたけれど、村の人たちは違った。

「蔦の子」と呼ばれ、井戸の水を汲むときも順番を最後に回された。

祭りの日には、家から出ないようにと言われた。

蔦の刻印が他人に「絡みつく」と信じられていたからだ。


ある冬の日、村に一人の老剣士がやってきた。

銀色の髪に、深い皺が刻まれた顔。

腰には古びた長剣を提げていたが、その佇まいには静かな威厳があった。


老剣士は村の酒場で一杯の麦酒を頼み、暖炉の前に座った。

私はそのとき、酒場の裏で薪を運ぶ仕事をしていた。

重い薪を抱えて通りかかったとき、老剣士と目が合った。


「おまえ、蔦の刻印か」


突然そう言われて、私は薪を落としそうになった。

刻印は服の下に隠しているはずなのに、なぜわかったのか。


老剣士は自分の左手の甲を見せた。

そこには、私と同じ黒い蔦の紋章が刻まれていた。


「わしも蔦だ。七十年、この刻印と一緒に生きてきた」


七十年。

村の刻印読みは、蔦の者は長く生きられないと言っていたのに。


私は思わず聞いた。

「怖くないんですか。いつ絡みつかれるか、わからないのに」


老剣士は麦酒を一口飲んで、静かに笑った。


「怖かったよ。若い頃は、毎日怖かった。何かに縛られて死ぬんじゃないかと」


「だがな、あるとき気づいた。蔦というのは、絡みつくだけの植物じゃない。蔦は、壁を登る。崩れかけた石垣にしがみついて、上へ上へと伸びていく。あれは絡みつきじゃなくて、しがみつきなんだ。生きることへの、必死のしがみつきだ」


その言葉が、胸の奥に落ちた。

ずっと「呪い」だと思っていた刻印の意味が、少しだけ変わった気がした。


老剣士は三日間、村に滞在した。

その間、私は毎日老剣士のもとを訪ねた。

薪運びの仕事が終わると、酒場の隅で老剣士の話を聞いた。


老剣士はかつて、王国の騎士団に所属していたらしい。

蔦の刻印を持ちながら騎士になった者は、記録に残る限り彼だけだったという。


「入団試験のとき、審査官に刻印を見せたら露骨に嫌な顔をされた。『蔦の者は仲間を巻き込む』と言われた。だが、わしは剣を抜いて、こう言った」


「『蔦は確かに絡みつく。だが蔦が絡んだ壁は、崩れにくくなる。俺は仲間を縛るんじゃない、支えるんだ』と」


審査官は黙り込んだという。

そしてその場にいた騎士団長が、静かに拍手をした。

それが、老剣士の騎士としての始まりだった。


三日目の夜、老剣士は私にひとつの短剣をくれた。

柄に小さな蔦の模様が彫り込まれている。


「これはわしが騎士団を去るときに、団長からもらったものだ。おまえに預ける」


「私に?」


「同じ刻印を持つ者同士、わかることがある。おまえの目は、まだ諦めていない目だ。蔦は暗い場所でも伸びる。光がなくても、壁があれば登れる。おまえもそうだ」


私は短剣を両手で受け取った。

手のひらに伝わる冷たい金属の感触が、不思議と温かく感じた。


翌朝、老剣士は村を発った。

私は村の入り口まで見送りに行った。


老剣士は、私を見て、声をかけてくれた。


「蔦の刻印の本当の意味を教えてやる。あれはな、『手放すな』という意味だ。命を、希望を、大切な者を、絶対に手放すな。しがみついてでも離すな。それが蔦の生き方だ」


あれから五年が経った。

私は今、王都の騎士養成学校にいる。

入学試験のとき、審査官に刻印を見せた。

案の定、嫌な顔をされた。


でも私は怯まなかった。

腰に提げた短剣の蔦の模様に触れて、こう言った。


「蔦は絡みつくんじゃありません。しがみつくんです。崩れそうなものを、支えるために」


審査官は少し驚いた顔をして、それから小さく頷いた。


私の背中の蔦の刻印は、今も黒く静かに広がっている。

でも、もうそれを隠そうとは思わない。


この刻印は呪いじゃない。

これは私の生き方そのものだ。


手放さない。

しがみついてでも、前に進む。

それが、蔦の刻印を持つ者の生き方だと、あの老剣士が教えてくれた。


刻まれた終わりは変えられないかもしれない。

でも、終わりまでの道のりは、自分で選べる。


私はこの蔦とともに、壁を登り続ける。

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