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その肉を食らうのは、悼むためだ
師匠は魔物の肉を調理しながら、静かな声で言った。
「食わなかった者は、次も殺すしかない」
俺には意味が分からなかった。
師匠は続けた。
「命をいただいただろう。なら、きちんと体に取り込んで自分の一部にしてやれ。そうすることで、お前の中でその命は生き続ける」
俺が初めて大型の魔獣を討伐した夜のことだ。
血の臭いが消えない手で、師匠が焼いてくれた肉を受け取った。
熱かった。
食べた瞬間、泣きそうになった。
なぜ泣くのか自分でも分からなかった。
師匠は俺の顔を見て、小さく頷いた。
「それでいい。その涙は、殺した命への礼儀だ」
俺はその日から変わった。
魔物を討伐するたびに、必ず肉を食らうようにした。
仲間に「気持ち悪い」と言われたこともある。
ただ捨ててしまえばいい、と。
でも俺には、どうしてもそれができなかった。
奪った命を、自分の血肉に変えてやることが、俺にできる唯一の供養だと思っていたから。
師匠が死んだ日も、その言葉を思い出した。
弟子である俺が、師匠の残した最後の肉料理を、ひとりで食べた。
塩っぽかった。
涙のせいだった。




