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魔物の巣穴で商売を
冒険者を引退した日、俺は全財産をはたいて廃ダンジョンを買った。
周囲には正気を疑われた。
地下三階建て、魔物の残骸だらけ。
罠は錆びつき、壁は崩れかけていた。
だが俺には見えていた。
この場所が持つ可能性が。
まず一階を整備した。
罠を撤去し、床を磨き、松明の代わりに魔石灯を並べた。
受付を置いて、冒険者向けの休憩所にした。
最初の客は、かつての仲間だった。
「何やってんだお前」と笑いながら、エールを三杯飲んだ。
二階は宿泊用に改装した。
地下だから静かで、夏は涼しい。
意外にも、長期滞在する魔術師に好評だった。
三階は残した。
弱い魔物が自然に湧くので、新人冒険者の訓練場として開放した。
入場料を取る代わりに、回復薬を一本つける。
噂が広まるのは早かった。
「あの廃ダンジョン、宿屋になったらしい」
「訓練もできるって?」
「飯がうまいって聞いた」
半年後、王都の商業ギルドから視察が来た。
担当者は地下を一巡りして、ぽつりと言った。
「これは新しい業態ですね」
俺は笑った。
新しくも何ともない。
冒険者が本当に欲しいものを、冒険者だった俺が知っていただけだ。




