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地図より、壁の傷を読め
ダンジョンの最深部で、俺は仲間を置いてきた。正確には、置いてきたわけじゃない。
「先に行け」と言われたんだ。脚を岩に挟まれた彼は、静かに笑いながら言った。
「俺がいたら全員死ぬ」
俺は叫んだ。
「一緒に帰れる」と。
彼は首を振った。
「嘘をつくな。お前ももう、分かってるはずだ」
確かに分かっていた。彼を動かせば出血が止まらない。ここからの道程、間に合わない。でも知りたくなかった。
彼は俺の手を握って、続けた。
「壁の傷を覚えておけ。俺が刻んだ傷だ。この先にまた来ることがあったら、俺の印を探せ」
俺は震える手で、ひとつ頷いた。
地上に戻ったのは俺だけだった。
あれから三年が経つ。
俺は今日もダンジョンに潜る。
新人の後衛に、口癖のように言っている。
「地図より、壁の傷を読め。古い冒険者が命懸けで残したものだから」
新人は不思議そうな顔をする。
俺は答えない。ただ、あの壁の傷を見つけたとき、少しだけ心が楽になる。
彼はまだ、この先にいる気がして。




