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俺は、誰の命を生きているのか
俺が初めて鏡を見たのは、九歳の時だった。
翼、鱗、四本の腕。
どこにも、人間の面影はなかった。
研究者たちは俺を「実験体17号」と呼んだ。
鷲の俊敏さ、蛇の耐毒性、熊の膂力を持つ「完成品」として。
だが俺には、一つだけ問いがあった。
俺の中にいる命たちは、今も怒っているのだろうか。
消えた鷲は、空を飛べなかったことを恨んでいるか。
切り取られた蛇は、孤独に眠りたかっただろうか。
ある夜、研究施設から逃げた。
森の中で初めて、雨に打たれた。
翼が濡れて、重かった。
それでも空に向かって跳んだ。
落ちた。
また跳んだ。
また落ちた。
三度目に、少しだけ浮いた。
その瞬間、胸の中で何かが震えた。
鷲が、喜んでいる気がした。
俺はその日から決めた。
渡された命なら、全部使い切ってやる。
俺の体に刻まれた命たちが、「無駄じゃなかった」と思えるように。
名前はない。
でも生きていく理由は、もう十分ある。




