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魔王軍の兵士は、人間と同じ顔で泣いた
戦場で負傷した俺を助けたのは、魔族だった。
「なぜ助ける」と俺は聞いた。
魔族の若い兵士は傷の手当てをしながら答えた。
「俺も、誰かに助けてもらったから」
それが人間だったとは、思わなかった。
「十年前、俺が子供だった頃、村が焼けた。逃げ遅れた俺を助けたのは、人間の行商人だった」
「なぜその人間が魔族を助けた」
「わからない。でも俺を抱えて走りながら言った。『子供に種族は関係ない』と」
俺は黙った。
「俺は魔王軍に入った。食うためだ。誇りとか使命とか、そんなものじゃない」
彼の目は普通の人間の目と同じだった。
疲れていて、でも諦めていない目。
「お前は、戦いたいか?」と俺は聞いた。
「戦いたくない」
俺も、戦いたくない。
どちらからともなく、笑ってしまった。
翌朝、俺たちは別れた。
次に会えば、また敵同士だ。
でも俺はその日から、剣を抜くとき少しだけ躊躇う。
その躊躇いが、正しいことだと思っている。




