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伝説になる前夜、勇者が泣いていたのを俺だけが知っている
魔王城の手前、俺たちは野営をした。
焚き火を囲む仲間たちは笑っていた。
「明日で終わりだな」「故郷に帰れる」「俺、結婚するんだ」
勇者だけが黙って空を見上げていた。
俺は隣に座った。
「怖いか?」
勇者は少し間を置いてから言った。
「怖くないわけがない」
「勝てる、と思ってるか?」
「わからない」
その答えが、かえって安心した。
俺たちの勇者は、無敵のふりをしない。
「なあ、勇者。俺はお前が怖くても前に進む奴だから、ここまでついてきた」
勇者が俺を見た。
「英雄だから、じゃないのか」
「英雄なんざ知らん。お前が諦めなかったから、俺も諦めなかった。それだけだ」
焚き火がぱちりと鳴った。
勇者は目を伏せた。
それから静かに言った。
「ありがとう」
翌朝、勇者は一番に立ち上がった。
振り返りもせず、城門へと歩いた。
俺たちは黙ってついていった。
その背中を見ながら思った。
英雄とは、怖くても歩ける人間のことだ。




