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老ドワーフは、最後の剣を打つのに三年かかった
師匠は寡黙だった。
「鉄の気持ちを聞け」
「炎の声を聞け」
「ハンマーは怒らせるな」
意味がさっぱりわからなかった。
五年目の春、師匠が倒れた。
心臓が弱っていた。もう鍛冶場には立てない、と医者が言った。
師匠は聞かなかった。
翌朝、一人で炉に火を入れた。
俺が止めると、師匠は静かに言った。
「最後の一本を打たなければならない。死ぬ前に、あいつに届けなければならない」
あいつ、というのは師匠の息子だった。
戦で失った、二十年前に。
「亡くなっているのに、届けるのですか?」
師匠は答えなかった。
三年、かかった。
師匠は毎朝炉に立ち、毎夕倒れながら打ち続けた。
完成した剣は、不思議なほど軽かった。
刃文は波のように揺れ、光を受けると青く輝いた。
師匠はその剣を息子の墓に立てた。
「あいつが使うはずだった剣だ」
師匠の目から涙は出なかった。
ただ、長い間そこに立っていた。
鍛冶とは、形に残せない想いを金属に閉じ込める仕事だと、俺はその日わかった。




