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停戦交渉の通訳に選ばれたのは、孤児の俺だった
俺はどちらの言葉も話せた。
父が人間で、母が獣人だった。
どちらの村にも、完全には馴染めなかった。
でも今日、それが役に立った。
交渉の場に、両陣営の代表が座った。
人間側の将軍と、獣人側の族長。
どちらも最初から怒っていた。
目が合うたびに、言葉より先に殺気が出た。
俺は通訳をしながら、少しだけ言葉を変えた。
将軍が「あの野蛮な連中に」と言ったとき、俺は「向こう側の者たちに」と訳した。
族長が「人間どもは信用できない」と言ったとき、俺は「人間と本当に話せるか不安だ」と訳した。
嘘ではない。
ただ、表と裏を同時に訳した。
交渉は三日かかった。
最終日の夕方、将軍が言った。
「お前は何者だ。通訳が上手すぎる」
俺は正直に答えた。
「どちらでもない者です。だからどちらの言葉も、少しだけわかります」
将軍は黙った。
それから静かに言った。
「どちらでもない者が、一番遠くが見えるのかもしれないな」
停戦が成立した日、どちらの民でもない俺が、初めてどちらの民の役にも立てた日だった。




