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世界の終わりに、俺は朝食を作っていた
神々が「世界の終焉まで三日」と告げたのは、朝のことだった。
街は混乱した。
泣く者、逃げる者、略奪する者。
俺は台所に立った。
卵を炒め、豆のスープを煮た。
隣人のばあさんが戸を叩いた。
「あんた、正気か?世界が終わるんだぞ」
「だから腹に入れておかないと」
ばあさんはしばらく俺を見ていた。
それから「私にも食わせろ」と言って入ってきた。
二人で食べていると、また戸が鳴った。
今度は子供が三人立っていた。
親とはぐれたらしかった。
全員に椀を出した。
噂を聞いて、また人が来た。
俺の家はいつのまにか、二十人近くになっていた。
それから三日、俺はずっと料理を作り続けた。
食料はどこからか集まってきた。
誰かが野菜を持ってきた、誰かが薪を割ってくれた。
三日目の夜が明けた。
世界は終わらなかった。
神々の告げた理由は、今もわからない。
ばあさんが言った。
「試されたのかもしれないね」
俺は思う。
終わりの前に何をするか、それがその人間の正体だ。
俺は、腹を満たしてやりたかった。それだけだった。




