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言葉より先に
召喚されて三年が経っていた。
言葉も覚えた。
習慣も学んだ。
それでも、隣国との会議だけはうまくいかなかった。
相手の使節団は一言も口を開かなかった。
こちらが提案するたびに、静かに首を横に振るだけだった。
通訳に聞くと、こう教えられた。
「あの国では、言葉より先に『敬意の沈黙』を示すのが礼儀です」
意味が分からなかった。
その夜、宿の食堂で使節団の副団長と偶然同席した。
私は何も言えなくて、ただ黙って座っていた。
すると相手が、初めて口を開いた。
「あなたは今日、正しく挨拶してくれた」
会議室で何も言わなかった時間のことだと、その時初めて分かった。
翌日の交渉は、驚くほど静かに進んだ。
協定の文書に署名を終えて、副団長がこっそり言った。
「言葉は意志を伝える。でも沈黙は、信頼を作る」
私は元の世界でも、交渉が苦手だった。
常に言葉を埋めようとしていた。
その理由が、ようやく分かった気がした。
伝えることより先に、まず聴く覚悟を見せることだ。




