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兄上は、俺に負けたふりをした
剣の試合で、俺が兄上に勝った日のことを覚えている。
群臣が沸いた。
「第二王子の剣技、見事なり」と。
俺は誇らしかった。
でもその夜、侍女を通じて手紙が届いた。
兄上の筆跡だった。
「よく気づかなかったな。俺は三度、隙を作った」
読んだ瞬間、膝が折れそうになった。
翌朝、兄上の部屋を訪ねた。
「なぜ、負けたふりを」
兄上は窓の外を見ながら言った。
「お前に王座が必要だからだ」
俺は意味が分からなかった。
「俺より兄上の方が、王に向いている」
兄上は静かに笑った。
「王に向いているのはお前だ。俺は、頭が切れすぎる。切れすぎる頭は、正義より策略を好む。俺が王になれば、この国は強くなるが、民は疲れる」
窓の外では、城下の炊煙が上がっていた。
「俺がお前の剣術師範になれば、それで十分だ」
俺はその日初めて、兄上という人間の深さを知った。
そして思った。
この人のそばで戦える王になろう、と。
王座に就いた日、俺の隣には兄上がいた。
剣を抜いて、守る立ち位置に。




