32/57
魂は、どこに宿るのか
私は錬金術師だった。
師匠の体はもう限界で、癒しの魔法も薬草も、彼女の命の炎を守ることができなかった。
だから私は、禁忌に踏み込んだ。
十年かけて作り上げた完璧なゴーレムの体。
傷一つつかない素材で仕上げた、人の形をした器。
魂の転写に成功した夜、師匠は目を覚ました。
師匠「……これが私の手か」
静かな声だった。
鏡で自分の顔を見て、しばらく黙っていた。
やがて、ぽつりと言った。
「違う。」
「師匠……?」
「肌から風を感じない。食事の温かさが伝わらない。お前を見ても、心が震えない」
師匠は穏やかに続けた。
「命は器に宿るんじゃない。感じることで、初めて生きている」
私は何も言えなかった。
師匠は十日後、自ら魂の転写を解いた。
元の、壊れかけた肉体に戻って。
最後に一度だけ、土の匂いを吸って。
「ああ、これだ」と笑って、逝った。
私は今も錬金術を続けている。
でも、完璧な器を作ろうとは思わなくなった。
傷つき、老い、いつか消える体でしか、人は本当のことを感じられないのかもしれない。




