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その血が、剣を泣かせた
師匠が逝く三日前、俺を地下室に呼んだ。
「剣を抜け」
古びた台座に乗った、錆びだらけの剣。
柄を握った瞬間、指先がじくりと痛んだ。
「なぜ血が?」
師匠は目を細めて言った。
「お前の血が、あの剣を呼んでいるからだ」
意味がわからなかった。
「お前の曾祖父は、この剣に魂を刻んだ。血筋が途絶えぬ限り、その力は眠り続ける。そしていつか、正しい後継者の血に触れると……」
剣が震えた。
錆が音を立てて剥がれ落ちた。
刀身の奥から、淡く青い光が滲み出た。
「泣いてる」と俺は言った。
師匠が笑った。
「そうだ。お前の血が、長い眠りを終わらせた」
俺は剣を抜いた。
刃は風を切り、光の粒が部屋に散った。
師匠の目から涙が一筋こぼれた。
嬉しいのか、悲しいのか、俺にはわからなかった。
「血統とはな、呪いだ。同時に、守られ続けた約束でもある」
三日後、師匠は眼を閉じた。
俺は剣を抱いたまま、その手を握り続けた。
剣はまだ、かすかに震えていた。




