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聖女は祈れと言われたので、全員で帰省します ~搾取神殿が三日で崩壊するまで~  作者: 月代


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第10話 神殿、混乱の二日目


旅は、二日目に入った。


私たちは、荷車と徒歩を繰り返しながら、南へ進んだ。


体は、限界に近かった。

でも、不思議と心は軽かった。


国境に近い、宿場町に着いた。


そこは、人の往来が多かった。

旅人。

商人。

いろんな話が、飛び交っていた。


「王都は、もう大変らしいぞ」


酒場の前で、商人が話していた。


私は、足を止めた。


「結界が、どんどん弱ってる。

貴族たちが、神殿に押しかけてるとか」


「大司祭は、何してるんだ」


「それがな」

商人は、声を潜めた。

「神殿の中で、内輪揉めが始まってるらしい。

書記官が、帳簿を盾に、大司祭に楯突いてるって」


私は、息を呑んだ。


イサークだ。


彼は、約束を守っている。

内側から、神殿の悪事を暴こうとしている。


「無事でいて」

私は、心の中で祈った。


私たちのために、残ってくれた人。

どうか、無事で。


宿場町で、休もうとしたときだった。


一人の男が、近づいてきた。


旅装の、目立たない格好。

でも、立ち居振る舞いが、ただ者ではなかった。


「聖女様方、とお見受けします」


私は、身構えた。


「違います」

とっさに、否定した。


「ご安心を」

男は、声を潜めた。

「私は、敵ではありません。

カルディア公国の、使いの者です」


カルディア。


聞いたことのない、国の名だった。


「隣の、国?」

私は聞いた。


「東の隣国です」

男は、うなずいた。

「我が主、ユーリ・カルディア殿下が。

あなた方の身を、案じておられます」


ユーリ。

王弟、だという。


「殿下は、長く憂えておられました。

ラスティルの神殿が、聖女を使い潰す有様を」


私は、警戒した。


話が、うますぎる。


「殿下は、あなた方の保護を申し出ておられます。

カルディアへ来れば、安全を保証する、と」


保護。


その言葉に、私は身構えた。


「断ったら?」


「無理強いは、いたしません」

男は、首を振った。

「あくまで、申し出です」


マレナさんが、私の耳元でささやいた。


「気をつけなさい。

保護なんて言って、また縛られるかもよ。

神殿と、同じことの繰り返しかも」


私も、同じことを思っていた。


王都の神殿だって、最初は「栄誉」と言って、私たちを縛った。


今度は、隣国が「保護」と言って、また縛るのかもしれない。


「ありがとうございます」

私は、男に言った。

「でも、すぐには決められません」


「ほう」

男は、興味深そうに私を見た。


「私たちは、まず故郷に帰ります。

自分たちの足で、立ち直りたい。

誰かに守られる前に」


私は、まっすぐ言った。


保護されるだけの存在には、戻りたくなかった。


ここまで、自分たちの意志で来たのだ。

最後まで、自分で選びたい。


男は、しばらく私を見つめた。


そして。

ふっと、微笑んだ。


「賢明なお答えです」

彼は言った。

「殿下に、そのままお伝えします」


男は、頭を下げた。


「では、こうお伝えしましょう。

『ならば、故郷ミレルでお会いしよう』と」


私は、驚いた。


ミレル。

私の村の名を、もう知っている。


「殿下は、いずれ自ら、あなた方を訪ねるでしょう」


そう言い残して。

男は、人混みの中へ消えていった。


私は、しばらく立ち尽くした。


「どう思う?」

コラリーが、不安げに聞いた。


「分からない」

私は、正直に答えた。

「でも、まずはミレルに帰ろう。

話は、それからだよ」


私たちは、再び歩き出した。


故郷は、もうすぐだ。


東の空の向こうに。

見知らぬ国の王弟が、私たちを待っている。


味方なのか。

それとも、新たな縛りなのか。


それを見極めるのも。

自分の足で立ってから、だ。


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