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その原石を見つめて ~クビにされた人材登用官の英雄発掘譚~  作者: 緑地亭かっぱ


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第8話 二人だけの叙任式

ヴァルトが団長室を出ていった後、エルナと二人きりになる。

その横顔からは、ようやく安堵の色が見えた。


慌ただしかったことも終わり、ほっとしたのだろう。

俺のほうも、さすがに何も伝えずに、ここまで事を進めたことに罪悪感を覚えていた。


うん、それくらいの感情は俺にもあるのだ。


ヴァルトを見送り、しばらく立ち尽くしていたエルナが振り返る。


「レイグ様……いろんなことが急すぎましたね。それにいなくなった時は、本当に心配しました」


「すまん。悪いとは思っている」


「ええ……分かっていただけたなら、有難いです」


俺の一連の行動を責めるわけでもなく、団長として、そして俺を招いた者にとっての本心だと思えた。


「これからは、できれば相談してください。レイグ様の意図は極力、汲みたいと思いますので」


怒られるよりも、こうやって言われるほうが堪えるなあ。

俺としても、まさか初日にああいう形で歓迎されるのは予想外だったけども。

まあ、この場で蒸し返すようなことを言うべきではないだろう。


「なるべく善処していく」


キリっとした顔で言った。


「ええ。お願いしますね」


赦すように微笑んだ顔を見て、照れくさくなってしまう。

こういう時、気の利いたことでも言えるといいのだけど、それは俺に求めすぎってもんだ。


だけど、どこかでエルナのことを安心させたいとも思っていた。


ふと、疑問を口にした。


「そういえば、騎士団での俺の立場ってどうなる? 騎士になるのか?」


「いえ。私が別枠で招いた方なので騎士ではありません。団長付きの事務方という扱いですね」


そうか。言われてみれば叙任式もなく、駐屯地に来たわけだし当然か。


……であれば、こういうのもありかな?


「えっと……団長?」


「は、はい」


俺は一歩前へと出る。

右膝を床につき、背筋を伸ばした。

エルナは目を丸くしたまま固まっていた。


「レ、レイグ様……?」


「騎士じゃないなら、騎士の叙任式は受けられない」


何を思われているだろう。だけど、お構いなしに言葉を続けた。


「でも、俺なりのけじめはつけておくことにする」


左胸に拳を当て、真っすぐエルナを見上げた。


「アルケイン王国騎士団の登用官として、レイグ・ローウェルは――」


ゆっくりと言葉を重ねていく。


「俺なりのやり方になるが、職責を全うすることを誓う」


部屋が静まり返る。


これは……やってしまったか……?もしかして、外してしまったかも?

気持ち悪い自己満足野郎になってしまうか。次第に恥ずかしくなっていく。


言い終えた後、頭を垂れている時間が長く感じられた。

やがて、小さく息を呑む音が聞こえた。

恐る恐る顔を上げると、エルナは両手で口元を押さえ、瞳を潤ませていた。


「ず、ずるいですよ……」


「ん? あと、これからは『様』はつけなくていいぞ。エルナの部下だからな」


「そんなことを急にされて、言われたりしたら」


その笑顔は、さっきまで抱えていた不安が消え、晴れやかなものだった。

彼女が安心できたのなら、なによりだ。慣れないことをやってみるのも、たまにはいいもんだな。


エルナの様子を見て、立ち上がろうとする。


「あ、待ってください。もう少し、そのままで――」


エルナはゆっくりと腰に携えていた剣を抜いた。

そのまま、剣の腹をそっと俺の左肩、次に右肩を軽く打っていった。


「アルケイン王国騎士団長、エルナ・フォン・フェルディアの名において――」


「あなたを我が右腕として迎えます」


これからの決意が込められた言葉を言い終え、照れくさそうにしている。

その姿は張り詰めた騎士団長ではなかった。年相応のどこか儚げな女性だった。


……その横顔を見ていると忘れそうになる。もう一つの大事なことを。


「あーっと……エルナ」


次は何を言うのか、輝かせた目から期待感のようなものが滲み出ている。


うーん、どうしよう。正直、言いづらいがけど、こういう時はサラっと言うに限る。

手元をもじもじさせながら、伝える。


「その……金、貸してくれないか」


二人の時間が一瞬、止まる。


「……え?」


うんうん。そういう反応になるよな。

言葉を撤回しない俺を見て、疑問が呈された。


「ここに来る途中に、お渡ししましたよね? 生活費を……」


そうなのだ。俺は決して少なくない金額を受け取っていた。

それなのに金の無心をしているのは、さぞ疑問であるだろう。


「ちょっと野暮な使い方をしたんだよ」


詳細な用途は言いたくなかった。

頼むから、黙って最低限の金を用立ててくれれば御の字だ。


「なる……ほど?」


仕方ないですねと、苦笑いしながら肩をすくめる。

深入りする気はないようで心底、ほっとした。


「とりあえず、これで」


数枚の金貨を手渡される。ここだけを切り取ると、なんとも情けない姿だ。


「助かる。そのうち返すから」


「そうしていただけると助かります。あと、こういうのが頻繁だと困りますからね」


うう、年下女性からの正論に言い返せないよう……。

代わりに、目力を込めてエルナを見つめる。俺を信じろと。

ここは言葉ではなく真摯な態度で応じておくことにした。


「では、私はこれで失礼します。さすがに今日は疲れました」


「おやすみなさい。レイグ……さん」


また明日という言葉を残して、エルナも去っていった。


「そういえば寝る場所、どうしよ」


一人になった団長室でこれからの生活に思考を巡らしていた。

寝泊りする場所は自分で見つけるのかな? 飯も自前か? 


本当はもっと聞いておくことがあったと今さらになって思いつく。


でも、今はかなりの睡眠不足で眠たい。疲労感が心地よいところまできている。

やるべきこと、考えるべきことはいくらでもあるが、今日くらいはいいか。


団長室の椅子の配置を変えて、足を伸ばして寝転がる。


「ふぃー。よく働いたぁっ!」


次第に、どうしても口元が緩んでしまう。


「フヒ……フヒヒ」


いかん、いかん。

昔からこういう癖がある。

いい仕事ができた時は一人で浸ってしまう。傍から見たらただの変質者だ。


だけど、暗い真夜中に一人で酔うこの瞬間がどうしようもなく好きだ。


久しく忘れていた感覚と手ごたえを味わいながら、まどろみに身を任せた。


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【レイグの現在の所持金】

金貨:2枚

銀貨:3枚

銅貨:3枚

借金:人生数回分


――エルニック、妹さんよくなるといいな。

(治療費に充てろと強引に押し付けた)

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