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異世界で芋を植えたら、葉しか茂らなかった。~元・種芋屋の俺が三個の芋から飢えない北辺を作るまで~  作者: 他力本願寺


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第14話 失敗を隠さない

トゥーリ村の集会所として使われている教会の薄暗い礼拝堂には、村中の大人たちが押し合いへし合いして詰めかけていた。


 人々の顔には、不安と怒り、そして飢えによる苛立ちが色濃く張り付いている。ざわめきが低く渦巻く中、堂の中央に一人だけぽつんと立たされているのは、ユアンだった。


 村人たちの敵意に満ちた視線が、一斉に彼に突き刺さる。それはまるで、重大な罪を犯した罪人を断罪する法廷のようだった。


「皆も知っての通り、ガーヴ殿の孫娘であるニアが、ユアン・ケルドの持ち込んだ芋を口にして倒れた」


 バルド助祭が、祭壇の前に立って重々しく口を開いた。彼の神経質そうな顔には、自らの「芋は地の毒である」という主張が証明されたという暗い確信が浮かんでいた。


「幸い命に別状はなかったが、これは見過ごせぬ事態だ。得体の知れない南の作物が、この村に災いを招いている。ユアン、お前はどう申し開きをするつもりか」


 ユアンは深く息を吸い込み、村人たちを見回した。


 前世の種苗会社時代、農家に損害を出してしまった時の記憶が蘇る。あの時、自分は会社の方針と農家への責任の間で揺れ、明確な答えを口にすることができなかった。


 だが、今は違う。ここで取り繕えば、北辺から未来の食料が永遠に失われる。


「言い訳はしません」


 ユアンの声は、教会の隅々にまではっきりと響いた。


「ニアが倒れたのは、完全に俺の責任です。ヤーゴ芋は、土から掘り出されて日光に長く当たると、皮が緑色に変色します。そして、その緑色の部分と、伸びた芽の根元には、強い毒が作られる。俺はそのことを知っていました」


 堂内がどよめいた。「知っていたのか!」「毒をわざと村に持ち込んだのか!」という怒声が飛ぶ。


 ユアンは逃げずに言葉を続けた。


「俺は、芽が出過ぎたものや傷んだものを『種には適さないから』という理由だけで、倉庫の脇に無造作に捨てた。村の誰もが、極限まで腹を空かせているというのに。子どもがそれを見つければ、色がおかしくても口にしてしまうかもしれないという危険を、まったく考えていなかった。……これは、俺の管理怠慢が引き起こした『人災』です」


 ユアンが自らの過失をはっきりと認めると、バルドが冷笑した。


「毒があると自ら認めたな。ならば結論は出ている。そのような危険なものを、飢えた村に置いておくわけにはいかん。セリカ様が封鎖してくださった試験畑の苗も、倉庫の中身も、すべて今すぐ引き抜いて焼き払うべきだ!」


「そうです!」「地の毒を燃やせ!」


 村人たちがバルドに同調し、松明でも持ち出しかねない熱を帯び始めた。


「待ってくれ!」


 ユアンは必死に声を張り上げた。


「確かに緑化した皮や芽には毒がある。だが、適切に土の中で育て、日の当たらない冷暗所で保存した芋の果肉には、一切の毒はない! 作物が悪いんじゃない、人間の扱い方が間違っていただけなんだ!」


「誰がそんな戯言を信じるものか! 実際に子どもが死にかけているのだぞ!」


 バルドの怒声にかき消されそうになった時、教会の重い木の扉が軋み音を立てて開いた。


 冷たい春の風とともに、代官代理のセリカが従者を伴って入ってきた。彼女は騒然とする村人たちを冷ややかな一瞥で沈黙させると、ユアンとバルドの間へと歩み出た。


「代官代理殿。我々は今、この村の安全のために……」


「感情で騒ぐのはやめなさい、バルド助祭。私は行政の責任者として、事実と対策の確認に来ただけよ」


 セリカは帳簿を開き、ユアンを鋭く見据えた。


「ユアン・ケルド。あなたは自らの管理責任を認めた。その上で問うわ。その『地の毒』とやらは、手順さえ守れば確実に防げるものなのね?」


「……はい。防げます」


 ユアンは力強く頷いた。前世の実務における、事故後の追跡管理と再発防止のノウハウ。それをここで提示できなければ、技術者失格だ。


「では、その手順を具体的に示しなさい」


 セリカの要求に、ユアンは村人たち全員に聞こえるように明確なルールを口にした。


「第一に、用途の分離です。倉庫の中の芋を『種用』『食用』『廃棄用』の三つに厳密に分けます。これらを決して同じ場所に混在させません。第二に、色札による視覚的な区別。誰が見ても分かるように、用途ごとに色の違う木札を箱につけます。第三に、倉庫の施錠と管理者の限定。俺か、責任を負える人間以外は立ち入らせません。そして最後に……」


 ユアンは言葉を切って、バルドを見た。


「調理の規則です。もし食用の中に芽が出ているものがあったら、芽の根元を刃物で深くえぐり取る。皮が少しでも緑色になっていたら、厚く剥き捨てるか、食べずに廃棄に回す。これを村の全員に徹底してもらいます」


「馬鹿な!」バルドが唾を飛ばした。「そんな面倒な決まり事、飢えた人間が守れるはずが……」


「守らせるのが、上に立つ者の仕事よ」


 セリカが冷たく言い放った。


「危険があるなら、危険を排除する『手順』を作ればいい。人間が間違える前提で、間違えようのない仕組みを構築する。それが行政というものよ。作物を焼いて今日の不安を消しても、明日の飢えは消えないわ」


 セリカは村人たちを見渡し、凛とした声で宣言した。


「ユアンの提示した管理規則を正式に採用する。この規則が守られる限りにおいて、試験圃場と倉庫の封鎖解除を認めるわ。バルド助祭、あなたには村人への調理規則の指導を手伝ってもらうわよ。教会の権威で『ここをえぐらなければ毒になる』と教えれば、誰もが従うでしょうからね」


「なっ……私が、悪魔の作物の手伝いをしろと言うのですか!」


「領主の命令に逆らう気かしら?」


 セリカの静かだが絶対的な威圧の前に、バルドは顔を赤くしたり青くしたりしながら、ついに押し黙った。村人たちも、代官代理の裁定に異を唱えることはできなかった。


 集会が解散し、人々が散っていく中。


 教会の入り口に、ガーヴに手を引かれた小さな影が立っていた。


 ニアだった。顔色はまだ悪く、足元もおぼつかないが、それでも自分の足で歩いている。


「ニア……!」


 ユアンは弾かれたように駆け寄り、彼女の前に膝をついた。


「すまなかった。俺が、毒のあるものをその辺に捨てておいたせいで、お前にあんな苦しい思いを……本当に、すまない」


 ユアンは泥の床に額をこすりつけるようにして頭を下げた。自分の傲慢さが招いた過ちへの、心からの謝罪だった。


 しばらくの沈黙の後、ニアの細い手が、ユアンの頭にそっと触れた。


「ユアンのお兄ちゃん」


 かすれた、けれどしっかりとした声だった。


「私、お腹ぺこぺこで、緑色のお芋、食べちゃった。すごく、すごく苦しかった」


「……ああ」


「でもね、おじいちゃんが言ってた。あれは、お兄ちゃんが村のみんなにご飯を食べさせるために作ってるお芋だって」


 ユアンが顔を上げると、ニアは大きな瞳で真っ直ぐに彼を見つめていた。その目に、憎しみや恐怖はなかった。


「だから、教えて。どれが食べちゃ駄目なお芋で、どれが食べてもいいお芋なの? 私、もう間違えたくないの」


 技術を恐れるのではなく、正しく知ろうとする子どもの純粋な強さ。


 ユアンは胸の奥が熱くなるのを感じながら、強く頷いた。


「……教える。絶対に間違えないように、一緒に目印を作ろう」


 その日の夕刻。


 ケルド家が使う古い倉庫の前に、ユアン、セリカ、そしてニアの三人が集まっていた。


 ユアンの手には、薄い木板が握られている。彼はニアと一緒に、木板に顔料で色を塗っていた。


「いいか、ニア。この『赤』く塗った札は、絶対に食べちゃ駄目な『廃棄用』だ。危ないから近づかない。分かったな?」


「うん。赤い札は、食べちゃ駄目」


「そして『青』い札は『種用』だ。これも、春に土に埋める大事なものだから食べちゃ駄目だ。食べるのは、札がついていない普通の箱のものだけ。それに芽が出ていたら、深くえぐる。約束できるか?」


「うん! 私、わかるよ。赤と青だね」


 ニアが一生懸命に頷きながら、赤い顔料を小さな指で木板に塗りつけていく。その様子を、セリカが帳簿に書き留めながら静かに見守っていた。


 ユアンは出来上がった赤と青の札を、倉庫の中の指定された場所へ明確に打ち付け、用途の分離を完了させた。


 個人の頭の中にしかなかった前世の知識が、「失敗」という痛みを経て、村の誰もが共有できる『安全規則』へと生まれ変わった瞬間だった。


「管理体制の構築を確認したわ」


 セリカは帳簿を閉じ、傍らに控えていた従者に顎でしゃくった。


「封鎖を解除しなさい」


 従者が進み出て、倉庫の扉に打ち付けられていた木の札を引き抜き、南京錠を開けた。


 ギィ、と重い音を立てて扉が開き、薄暗い倉庫の奥に、安全に分けられた種芋たちの姿が再び現れる。


「これで事業再開ね。……ただし、もう二度と失敗は許されないわよ、ユアン」


 セリカの厳しい言葉に、ユアンは真っ直ぐに頷き返した。


 自らの失敗を隠さず、規則として残した。その代償として得た再出発の権利を、彼はもう決して無駄にはしないと心に誓っていた。

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