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『子供を助けたら、そこは異世界でした。~王子達に不当な扱いをされたので、この世界でも自立を目指します~  作者: 柘榴の雫


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(閑話)宰相の仕事はまだまだ終わらない

栞奈が倒れた後。


ヴァンキッシュは、しばらくその場に立ち尽くしていた。


目の前には、氷に閉じ込められた騎士たちと魔法士たち。


そして、その中心で意識を失った異世界人。


「…………」


静寂が広間を支配している。


「……まずは」


ヴァンキッシュは、ゆっくりと息を吐いた。


「救出だ」


いつまでも眺めているわけにはいかない。


「水魔法を使える者を集めろ。炎魔法を使える者もだ」


「はっ!」


「厨房にも声をかけろ」


「厨房、ですか?」


部下が目を丸くする。


「料理人には火魔法を扱える者が多い。事情を説明して、可能な者を連れてこい」


「……料理人まで?」


「緊急事態だ」


有無を言わせぬ声に、部下は慌てて走っていった。


それから。


氷漬けになった者たちを、一人ずつ救出する作業が始まった。


炎魔法で氷を少しずつ溶かし。

水魔法で溶けた氷を処理する。


強引に溶かせば、中にいる者たちまで傷つけてしまう。


慎重に。


慎重に。


一人ずつ。


「もう少し火力を落とせ!」


「はい!」


「急ぐな! 氷だけを溶かせ!」


「分かっています!」


「……こちら、呼吸を確認!」


「よし!」


氷が溶けるたびに、倒れ込む騎士や魔法士を別の者が受け止める。


幸いなことに、ほとんどの者に命の兆候があった。


だが。


「この人数を、神殿へ」


ヴァンキッシュは救出された者たちを見渡した。


「治療を要請しろ」


「はい!」


「それと……」


一瞬、言葉に詰まる。


神殿に治療を頼めば、それ相応の費用がかかる。


ましてや、この人数だ。


「……寄付金の額については、こちらで用意する」


「かなりの額になるかと」


「分かっている」


ヴァンキッシュは眉間を押さえた。


「今は金の話をしている場合ではない」


そして。


次の問題へ。


「召喚の儀について、関係者から話を聞く」


魔法士たちを集める。


誰が儀式を準備したのか。


誰が指示を出したのか。


なぜ二人の異世界人が召喚されたのか。


そして――。


「誰が、許可を出した?」


「…………」


魔法士たちの間に、重い沈黙が落ちる。

ヴァンキッシュの眉間の皺が、さらに深くなった。


「……王子殿下方は、許可を得ていると仰っていたのだな?」


「はい……」


「では、その許可を出したのは誰だ?」


「それが……」


「…………」


「……分かりません」


「…………そうか」


ヴァンキッシュは天井を仰いだ。


三王子への対応。


召喚の儀の確認。


地下室の復旧。


負傷者の治療。


そして――。


「陛下への緊急報告を」


「はっ!」


陛下は現在、他国との定例会議に出席中。

帰還を待っている余裕などない。

すぐに知らせなければならない。

ヴァンキッシュは執務室へ戻ると、机の前に座った。


ペンを手に取る。


「…………」


まずは簡潔に。

事実だけを。

感情は入れない。


宰相として当然のことだ。

さらさらと文字を書き進める。


『本日、王宮地下室にて――』


そこまで書いたところで。


一度、ペンが止まった。


『なお、三王子殿下による召喚の儀につきましては――』


「…………」


ヴァンキッシュは、その一文をじっと見つめた。


そして。


紙を一枚、横へ避ける。

新しい紙を取り出した。


『なお、三王子殿下が独断で召喚の儀を行い――』


「…………」


また筆が止まった。

しばらく考える。


そして。


『なお、三王子殿下が独断で、勝手に、何の報告もなく――』


「…………」


ヴァンキッシュはペンを置いた。


「……いかん」


額を押さえる。


「私情が混ざっている」


深呼吸。


書き直す。


『なお、三王子殿下が事前の報告なく召喚の儀を実施したことが判明しております』


「……よし」


これなら宰相として問題ない。


……たぶん。


ヴァンキッシュは、そのまま報告書を書き続けた。


三王子の召喚。


異世界人が二名。


そのうち一名への不適切な対応。


魔力の暴走。


地下室の凍結。


騎士、魔法士の多数負傷。


そして現在行われている救出活動。


書けば書くほど。


「…………」


胃が痛くなる。


「……なぜだ」


思わず呟く。


陛下が不在。


王弟たちも不在。


よりによって、こんな時に。


しかも。


「……召喚の儀だと?」


そもそも、そんな重大な儀式をなぜ事前に知らされていない。


三王子が独断で行ったのであれば。

帰ってきた陛下が、どんな顔をするのか。


想像しただけで胃が痛い。


ヴァンキッシュは、ゆっくりと椅子の背にもたれた。


窓の外を見る。

すでに夜も深い。


それでも。


廊下からは、部下たちの走り回る音が聞こえてくる。


救出作業はまだ終わっていない。


神殿への連絡もある。


召喚に関わった者への聴取も。


地下室の復旧も。


三王子への対応も。


やることは山積みだ。


「…………」


ヴァンキッシュは再び机へ向き直った。

そして、静かにペンを握る。


「……陛下がお戻りになったら」


一つ。


「絶対に」


二つ。


「休みをいただく」


固く。


固く。


心に誓った。


――何が何でも。


絶対に。


休みを勝ち取る。


「……そのためにも」


ヴァンキッシュは、積み上がった書類を見た。


「……まずは、これを終わらせるか」


深夜の執務室に。


再び、ペンを走らせる音が響き始めた。


――なお。


ヴァンキッシュの仕事は、まだまだ終わらない。

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