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『子供を助けたら、そこは異世界でした。~王子達に不当な扱いをされたので、この世界でも自立を目指します~  作者: 柘榴の雫


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なんで私が?

閉じられた扉を見つめたまま、私はしばらく動くことができなかった。


「…………」


何だったのだろう。


あの人たちは。


殿下と呼ばれていたからには、この国の王族なのだろう。


それくらいは分かる。

けれど、それ以外は何も分からない。


ここがどこなのか。


なぜ自分がここにいるのか。


あの少女は誰なのか。


どうして王子たちは、私たちをここへ連れてきたのか。


何一つ説明されていない。


 それなのに――。


「……なんで」


ぽつりと声が漏れた。


なんで私は、こんなところにいるのだろう。


 ――そもそも。


私は何も悪いことをしていない。

仕事を終えて、家に帰ろうとしていただけだ。

今日だって、いつもと変わらない一日だった。


 ……いや。


いつもより、少しだけ楽しみな一日だった。

連日続いていた残業。

ようやく今日は、久しぶりに定時近くで帰れそうだった。


時計を確認したときの、あの解放感。

今日は何を食べようか。

頑張った自分へのご褒美に、少し奮発してお肉を買おう。


それからデザートも。


明日は休みだから、夜更かししたっていい。

積んでいた小説を読んで。

好きなお菓子を食べながら、だらだら過ごして。

誰にも急かされず、自分の好きなことをして過ごす。


そんな休日を楽しみにしていた。


それなのに。


(……私、死んだんじゃなかったの?)


あの瞬間を思い出す。


道路へ飛び出した小さな子供。


迫ってくるトラック。


子供の腕を引いた瞬間、自分の身体が道路側へ飛び出した。


トラックが近づいてくる音。


周囲から聞こえた悲鳴。


 そして――。


私は目を閉じた。


あの瞬間。

確かに、死を覚悟した。

怖くなかったわけではない。

もちろん怖かった。


けれど。


もし死ぬのなら、あの子を助けて死ねるのなら。


それなら、それでいいと思った。


家族はいない。


けれど、友達はいた。


仕事にも恵まれていた。


毎日がものすごく楽しかった、とまでは言わない。

残業は嫌だったし、仕事で疲れることもあった。


それでも。


私なりに、ちゃんと毎日を生きていた。

好きな小説を読んで。

資格の勉強をして。

美味しいものを食べて。

友達と話して。


明日の休日を楽しみにして。


 ――それなりに、満足していた。


だから。


あの子を助けて死んだのなら。

私はきっと、それを受け入れられた。


なのに。


(……生きてる)


私は死んでいなかった。


傷一つない。


こうして立っている。

ならば、どうしてここにいる?


答えはまだ分からない。


けれど、一つだけ確かなことがある。


私は――勝手にここへ連れてこられた。


(……私、何もしてないのに)


誰かに頼まれたわけでもない。

この世界へ行きたいと願ったわけでもない。

召喚されることを了承したわけでもない。


それなのに。


突然、知らない場所に放り出された。


周りには魔法士。


騎士。


魔法陣。


挙げ句の果てには、王子と呼ばれる人たちまで現れて。


もう一人の少女には、まるで大切な客人のように笑いかける。


なのに私には


年増だと。


結婚適齢期を過ぎているだの。


そんなことを平然と言った。


「…………」


胸の奥で何かが込上がってくるのを感じる。


最初は、ただ驚いていただけだった。

何が起きているのか分からなかったから。


次に、不安になった。


元の世界へ帰れるのか。


ここで何をすればいいのか。


そもそも、ここはどこなのか。


分からないことだらけだった。


でも。


今は違う。


少しずつ。


本当に少しずつ。


「……なんで?」


私は自分の手を見つめた。


「なんで私が、こんな目に遭わないといけないの?」


声が震える。


怒っている。


そう気づいた。


でも、何に対して怒っているのか。

それすら整理できない。


勝手に呼び出した人たち?


何も説明してくれない状況?


私を見下した王子たち?


 それとも――。


全部。


「……私、帰りたかっただけなのに」


その言葉を口にした瞬間。

胸の奥が、きゅっと締め付けられた。


帰りたい。


家に帰りたい。


自分の部屋に帰って。

今日買うはずだった肉を食べて。


デザートを食べて。

明日は好きなだけ寝て。


読みかけの小説の続きを読んで。

また月曜日になったら、仕事へ行く。

そんな、当たり前の日常に。


「……帰りたい」


ぽつりと呟いた。


その言葉を口にした瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


悔しい。


悲しい。


腹が立つ。


自分でも驚くほど、次から次へと感情が込み上げてくる。


身体の内側が、どんどん熱くなっていく。

まるで血液まで沸騰しているようだった。


「……なんで」


ぎゅっと拳を握る。


「なんで私が……」


声が震える。

目の奥が熱い。

頭まで熱くなっていく。


 それなのに――。


ふわり。


栞奈の足元から、白い冷気がこぼれ落ちた。


本人は気づかない。


自分の身体が熱を帯びていく一方で、その周囲だけが異様なほど冷え始めていることに。


冷気は足元からゆっくりと広がり、床を這うようにして周囲へ流れていく。


近くにいた魔法士の一人が、ふと腕をさすった。


「……寒くないか?」


別の騎士も首を傾げる。


「地下だからじゃないのか?」


「いや……さっきまで、こんなに寒くは――」


誰も、その中心にいる栞奈を見てはいなかった。


 ――いや。


見ていたとしても、気づけなかっただろう。


栞奈自身が、ただひたすらに自分の感情と向き合っていたからだ。


身体は熱い。


頭も熱い。


胸の奥は、燃えるように熱い。


なのに。


その身体から漏れ出すものだけが――異様なほど冷たかった。


「……私は……」


唇を噛む。


「何も、悪いことしてないのに……」


その呟きとともに。


また一筋。


白い冷気が、彼女の身体から静かにこぼれ落ちた。


普通に王子達ぶっ飛ばしたいと思うの私だけですかね?

綺麗な顔ボッコボコに歪めたいと邪な気持ちが出てきます(王子達超逃げて!!)

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