↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『子供を助けたら、そこは異世界でした。~王子達に不当な扱いをされたので、この世界でも自立を目指します~  作者: 柘榴の雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

その日、私は異世界へ

私は、ただ呆然とその光景を見つめていた。

何が起こっているのか、まるで理解できない。

さっきまで私は、道路にいたはずだ。

トラックが目の前まで迫っていて。

自分は轢かれると思って、目を閉じた。


なのに――。


「……ここ、どこ?」


声に出してみても、答えてくれる人はいない。

私は恐る恐る自分の手を見た。


 右手。


 左手。


指を一本ずつ動かしてみる。


次に腕。


 肩。


 胸元。


 お腹。


そして、ゆっくりと足元へ視線を落とした。

靴もある。

服も、事故に遭う前と変わっていない。


「……怪我、してない」


どこにも血はついていない。

痛みもない。

身体を動かしてみても、特に異常は感じられなかった。


おかしい…。


あれだけ近くにトラックが迫っていたのだ。

普通なら、こんな無傷で済むはずがない。


「……どういうこと?」


混乱した頭を整理しようと、必死に記憶を辿る。

仕事を終えて。

帰り道を歩いて。

夕飯に何を食べようか考えていて。

信号待ちをしていた子供が、ボールを追いかけて道路へ飛び出して。

トラックが近づいてきて。


私は子供の腕を掴んで――。


「……そうだ」


あの子。

助かっただろうか。


そこまで考えて、私は周囲を見渡した。


「……」


見慣れた街並みは、どこにもない。

道路もない。

信号もない。

車もない。

街灯もない。

コンビニも、ビルも、電柱もない。


当たり前のようにそこにあったはずの日常が、跡形もなく消えている。


「……何、ここ」


どう見ても外ではない。

窓が一つも見当たらない。

天井も高く、壁も広い。


地下室……なのだろうか。


けれど、地下にいるにしては妙に広すぎる。


そして何より――暗い。


部屋のあちこちには、壁に取り付けられた古びた鉄製の松明立てがあり、そこに灯された炎がゆらゆらと揺れ、薄暗い室内をぼんやりと照らしていた。


「……松明?」


思わず呟く。

いや、今時そんなものを使う場所があるだろうか。

少なくとも、日本では見たことがない。


それに。


「なんで……こんなに人が?」


私はようやく、自分の周囲にいる人々へ意識を向けた。


魔法使いが着るローブのような服を着た人たち。

何かを手にしている人もいる。


杖……?


そして、そのさらに外側には――。


「……騎士?」


思わず目を疑った。


それは、私が小説やゲームで見たことのあるような甲冑だった。

全身を覆ってはいるものの、肩や肘、膝などは滑らかに動かせそうな造りになっている。重そうなのに、戦うために必要な動きを邪魔しないよう計算されているように見えた。


まるで、物語の中に出てくる騎士そのもの。


何人もの人がこちらを見ながら、興奮したように声を上げていた。


「成功したぞ!」


「召喚できた!」


「間違いない、召喚魔法は成功だ!」


「ついに……!」


召喚。


その言葉が耳に入った瞬間、頭の中で何かが引っかかった。


「……召喚?」


聞き間違いだろうか。

いや。そもそも、こんな状況自体がおかしい。

私はもう一度、周囲を見回した。


魔法陣。


松明。


ローブ姿の人々。


物語の中に出てくるような甲冑の騎士


そして、聞こえてくる「召喚」という言葉。


 まるで――。


「……まさか」


頭の中に、とある言葉が浮かぶ。


異世界。


「いやいや……」


すぐに否定する。


そんなわけがない。

異世界なんて、小説や漫画の中の話だ。

私は現実に生きている。

さっきまで普通に仕事をしていた。


明日は休みで、帰ったら肉を食べて、デザートを食べて、溜めていた小説を読む予定だった。


そんな自分が、突然ファンタジーの世界にいるなんて。


「……夢?」


頬をつねってみる。


「痛い」


夢ではない。


「……」


もう一度つねる。


「やっぱり痛い」


現実だった。

現実なのに、現実ではありえない。

その矛盾に頭が追いつかない。


何が起きた?


どうして私はここにいる?


トラックは?


あの子は?


私は死んだのか?


それとも、死ぬ直前に何かが起きた?

考えれば考えるほど、分からなくなる。


「……ん?」


ふと、人の気配に気づいた。

自分のすぐ近く。

少し離れた場所に、一人の女の子が座り込んでいた。


「女の子……?」


年齢は、高校生くらいだろうか。

制服を着ている。

長い髪が肩から流れ、彼女もまた、私と同じように周囲を見回していた。


顔には明らかな戸惑いが浮かんでいる。


そりゃそうだ。


こんな場所に突然連れてこられて、平然としていられる人間なんているはずがない。

女の子は自分の手を見たり、周囲を見渡したりしている。

どうやら、彼女も何が起きているのか分かっていないらしい。


「……私だけじゃない?」


その事実に、ほんの少しだけ安心した。

少なくとも、自分一人だけがおかしくなったわけではない。


私は彼女へ声をかけようとした。


「ねえ――」


その瞬間。


 ――ギィィィ……。


重たい音が響いた。


「……え?」


部屋の奥。

そこにあった大きな扉が、ゆっくりと開いていく。


重厚な造りの扉だった。


今まで誰も近づかなかった場所。

その扉の向こうから、複数の足音が聞こえてくる。


 カツ。


 カツ。


 カツ。


規則正しい靴音。

周囲にいた人たちのざわめきが、少しずつ小さくなっていく。


「誰か来る……?」


女の子も扉へ視線を向けた。

私も同じように見つめる。

何が起こるのか分からない。


ただ、嫌な予感だけが胸の奥で膨らんでいく。


そして――。


開かれた扉の向こうから、数人の男たちが姿を現した。


先頭に立つ男を見て、周囲の人々が一斉に頭を下げる。


「――殿下!」


その声が、静まり返った部屋に響いた。

私は思わず息を呑んだ。


殿下……?


いったい、何者なのだろう。


そして、この人たちが現れたことで。

私の人生は、さらに大きく変わることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。