秒間十五発の死神と、拡張された鉄の胃袋
シエルから「手付金」として受け取った50万円。
少女はその全額を、新たな兵器の召喚コストに突っ込む決意を固めていた。
「……セレナ。ハウンドみたいな装甲を持った群れを、一瞬で制圧できるやつを出せ。ただし、私のこの細い腕でも反動を抑え込めて、動きを阻害しないサイズのものだ」
『条件に合致する最適解を算出。……こちらのパッケージはいかがでしょうか』
視界に展開されたウィンドウに、黒く洗練されたフォルムの銃器が浮かび上がる。グロックよりは大きいが、それでも驚くほどコンパクトなサブマシンガンだ。
『旧世代軍事規格、近接防衛用火器(PDW)。ヘッケラー&コッホ社製・MP7A1。お値段は35万円となります』
「……これのどこがいいんだ」
『第一に、貫通力です。専用の4.6ミリ×30弾は、反動が極めて少ないにも関わらず、機械獣のチタン装甲すら容易く貫通します。マスターの現在の筋力でも、フルオート射撃でのコントロールが十分に可能です』
セレナのホログラムが、銃の構造を分解しながら得意げに解説を続ける。
『第二に、圧倒的な制圧力。発射速度は毎分950発。一秒間に約15発の弾丸を吐き出します。引き金を引いたまま銃口を横に振れば、その射線上にあるものは文字通り「削り取られる」ことになります』
「一秒に、15発……」
少女は一瞬目を輝かせたが、すぐに持ち前の合理的な思考で計算を走らせた。
「待て。標準の弾倉には何発入る」
『20発です』
「……一秒ちょっとで弾切れじゃないか。この前と同じ死に方をするのは御免だ。もっとたくさん弾が入る箱はないのか」
『……さすがはマスター、学習能力が極めて高いですね。ではオプションとして、40発装填の拡張マガジンを二つと、予備弾薬、タクティカル・スリングを追加しましょう。総額48万円です』
「……買え」
手首のデバイスが熱を帯び、光の粒子が収束する。
少女の手に収まったMP7は、拡張マガジンが突き出している分少し重かったが、折りたたみ式のフォアグリップを握り込むと、驚くほどしっくりと構えることができた。
「……悪くない」
◇ ◇ ◇
第4セクター深部、『地下変電施設』跡。
そこは、通常のハンターなら小隊規模で挑む危険地帯だ。
暗闇の中から、カサカサという無数の金属音が響いてきた。現れたのは、四本足の多脚機械獣『スクラップ・クローラー』の群れ。その数、ざっと二十以上。
先日のハウンドなら、グロックと刀でチマチマ処理するしかなかった圧倒的な物量だ。クローラーたちが、一斉に少女へ向かって壁や天井を這いずりながら突撃してくる。
『マスター。敵の群れ、一斉掃討のチャンスです』
「……ああ」
少女はMP7のストック(銃床)を肩にしっかりと当て、フォアグリップを握る左手に力を込めた。そして、最も敵が密集しているポイントへ銃口を向け、引き金を――引いたまま固定した。
――ビィィィィィィィィィィィィッ!!
それはもはや「ダダダダッ」という銃声の連続ではなく、空間を切り裂く一本の巨大なノイズ(布を裂くような音)だった。
一秒間に15発。40発の拡張マガジンから吐き出された熱い鉄の暴雨が、暗闇をオレンジ色の閃光で染め上げる。
「くっ……!」
連続する反動はグロックとは比べ物にならなかったが、両手でしっかりとホールドされたMP7は、少女の細い体でも十分に抑え込めるレベルだった。
4.6ミリの特殊弾は、クローラーの強固な装甲をまるで薄い紙のように貫通し、内部の電子頭脳を次々と破裂させていく。
銃口を左から右へ、ただなぞるように動かすだけ。
それだけで、空中に飛びかかってきた機械獣の群れが、見えない壁に激突したかのように次々とバラバラになって床に叩きつけられていく。
――カチッ。
約二秒半。40発を撃ち尽くし、ボルトが後退して止まる。
だが、少女はもう怯えない。左手で空になった長いマガジンを捨て、腰のポーチから新しい40発マガジンを引き抜き、叩き込む。
チャキッ、とボルトリリース・ボタンを押し込み、再び引き金を引く。
ビィィィィィィッ!!
「……凄い。これが、旧世界の力」
二本目のマガジンを撃ち尽くした時、戦闘は終わっていた。
周囲に立ち込めるむせ返るような硝煙の匂い。
床に転がっているのは、文字通り「ハチの巣」にされて沈黙した二十体以上の機械の残骸と、チャリンチャリンと音を立てて転がる80発分の薬莢の山だった。
『制圧完了。無傷での掃討、お見事ですマスター。……それにしても、一瞬で80発。シエルが買い取ってくれるとはいえ、弾薬費だけで大変な額になりますね』
「……問題ない」
少女は熱を持った銃身を下げ、暗闇の奥に眠る旧世界の巨大なサーバー・ラック(お宝の山)を見据えて、冷たく笑った。
「ここに落ちてるゴミを全部シエルに売り捌けば、一生お湯に浸かって暮らせる額になる。……薬莢、残さず拾うぞ」
スラムの底辺を這いずっていた少女が、札束と火力でディストピアを蹂躙する『死神』へと覚醒した瞬間だった。




