自称サボりのプロ、逃げ場を失う
「……僕が欲しいのは、称賛じゃない。平穏と、あと、アイツの口を黙らせるくらいの気の利いた台詞だ」
運動神経ゼロの男前と、ギャグセンの高い野球部。
正反対な二人の、少しひねくれていて、けれどどこか涼やかな季節が始まる。
身長183㎝で野球部エースピッチャー。トークセンスもあるし、勉強は〃そこそこ”できる。その上顔も悪くないからそこそこモテる。
何より許せないのが運動神経抜群なところだ!
何をやらせても出来てしまう。運動部全員から助っ人として呼ばれる典型的な奴だ。運動だけ出来るただのゴリラだったら良かったのに。まぁ運動ができるゴリラはただのゴリラなのか?
そんな奴にこの憂鬱が伝わるわけがない。
リレーのアンカーになって喜んでいるなんて意味がわからない。
まぁ一旦こんなゴリラのことは置いておこう。今一番問題なのは、リレーの走順を決めるために全員絶対走らされることだ。
1人で走るのでさえ精一杯なのに、みんなの前であの醜態を晒すと思うと…もう…吐きそう…
前は体調不良ってことでサボ…休んでいたのが仇になった。みんなの前で1人で走ることになってしまったわけだ!ことごとく自分の馬鹿さと計画性の無さに呆れる。サボりのプロのはずなんだけどな…
そんな僕の気持ちをゴリラ並みの勘の鋭さで感じ取ったのか、阿久津は追い打ちをかけてきた。
「まあ凪冴って見るからに足速そうだし、アンカーには俺がいるんだから! そんな緊張しないでいいって」
何が「緊張しないでいい」だ。別に足が速い奴だって、一人で走る時は緊張するだろうが、このゴリラ。
しかも、今さらっと「見るからに足が速そう」だと言いやがったな。なぜこいつの勘は、僕が緊張しているという一点で止まるんだ。
今まで運動できないフラグは、これでもかというほど立ててきたはずなのに。それなのに、どいつもこいつも「凪冴のその顔で、運動音痴はないって~(笑)」なんて言ってくる。基本的にルッキズムは僕の味方をしてくれるはずなんだけどな‥
ここでも僕の計画性のなさが露呈した。恥を忍んで、もっと早くから「僕は救いようのない運動音痴だ」と堂々と宣言しておくべきだったんだ。
そんなことを考えながら、冷ややかな風が吹く校庭で、僕はクラウチングスタートの構えをとる。
……こんなにあっさり走ろうとするなんて、意外だろ? これには、北条政子も納得の深〜い訳があるんだ。
今まで体育の授業を休みすぎたせいで、体育教師から直々に宣告されてしまった。
「次休むか走らないかしたら、問答無用で成績は『1』な! お前は人を煽るのが上手いから、色んな手で逃げようとするだろうけど、次休んだらどうなるかよく考えて明日の体育に来いよ!」
言葉だけでも怖いのに、顔まで完全に脅しモードだった。……あんな性格だから結婚できないんだよ、あのおっさん。
そんなこんなで、もう逃げ場はない。
それならいっそ、全力で醜態を晒してこようと思う。
「期待」という名のルッキズムに裏切られ、周囲が失望するのにはもう慣れっこだ。
みんなはどんな反応をするのかな‥なんて考えながら先生が「用意」と言う。
僕は大きく息を吸い込み……それじゃあ、開き直って行ってきます。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
10年もサボりを極めたはずの凪冴が、なぜか一番目立つ「地獄」を自ら作り出してしまう……そんな彼の不器用なところが、書いていて少し愛おしくなってきました。
阿久津という「ゴリラ」に振り回される凪冴を、これからも温かく見守っていただけたら嬉しいです!




