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運動会は消えればいいのに‥

「……僕が欲しいのは、称賛じゃない。平穏と、あと、アイツの口を黙らせるくらいの気の利いた台詞だ」

運動神経ゼロの男前と、ギャグセンの高い野球部。

正反対な二人の、少しひねくれていて、けれどどこか涼やかな季節が始まる。

運動会なんて消えればいいのに。


……運動会って、拷問だよね?

何が楽しいのか、僕には一ミリも理解できない。

そりゃ足が速い人は活躍できて楽しいでしょう。でも、そっち側に立てなかった人間には「気を遣われる」か「罵倒される」かの二択しか残されていないんだ。気を遣われるのは惨めで恥ずかしいし、罵倒されるのは普通に傷つく。


別に、運動音痴の全員が楽しめていないなんて言わないけどさ。

確率的に言って、運動会を楽しみにしてない奴って大体足が遅いよね? っていう話。


しかも、同じクラスになって初めての行事だから、ここである程度の「格」が決められてしまう。別に陽キャになりたいわけじゃないけど、無能だと舐められるのはいけすかない。

……なんて毒づいてみたところで、足の遅さと天性の運動神経のなさは、どうしようもできないんだけど。


だから僕は、毎年運動会が近づくと「どうサボるか」だけを考える。

小学一年生から数えて、サボり歴は10年目。もうプロと言ってもいい。


僕が辿り着いた、究極のサボり方は……「足の骨を折る」!

……冗談です。間違っても真似しないでください。バカな僕は一度本気で実行しようとしたけれど、結局、恐怖心に打ち勝てませんでした。代わりに「捻挫した」と嘘をついて一週間休んだけど、運動会当日にはすっかり完治してしまい、かえって足を引っ張る羽目になった。

もうあんな体験はこりごりだ。運動できる勢からの刺すような視線が痛すぎて、体育の時間は心の方が疲弊する。


あぁ……そんな現実逃避をしている間に、地獄への鐘が鳴り出した。


さっき「運動会でカーストが決まる」と言ったけれど、もちろんそれ以前のスクールカーストだって存在する。うちのクラスはそこまで露骨じゃないけれど、やっぱりよく発言するグループと、一人でいる層には分かれている。

僕は運動ができない代わりにトークセンスには恵まれた方だから、クラスでの立ち位置は……まあ、今のところは悪くない。


じゃあ、なんでこんなに運動会に怯えているのかって?


……それは、いつか話すよ。

自分から振っておいて答えないなんて卑怯かもしれないけれど、あまり思い出したくないんだ。そこは許してほしい。


何の話だっけ? あぁ、つまり。

そんな僕にも、一応ちゃんと「友達」がいるってことが言いたかったんだ。


「おい、またそんな『ち〇かわ』みたいなツラしてんのかよ。せっかくの男前が台無しですよ、凪冴ちゃ〜ん(笑)」


噂をすれば、だ。

こいつの名前は阿久津あくつ 弦馬げんま

見るからに野球部、といった感じの短く刈り込んだ頭がいけすかない。席が隣なのだが、こいつの言うギャグが不覚にも僕のツボに刺さるせいで、授業中によく先生から睨まれる。

「喋らなければいいだけ」なんて正論、僕が一番よくわかっているから言わないでほしい。


「お前と違って、僕は運動バカじゃないんだよ! クソ野球部が!」


言い過ぎだと思うかもしれないけれど、こいつにはこれくらいの扱いじゃないと僕の気が済まない。

恵まれすぎてるんだよ、こいつは。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

運動神経が壊滅的な美少年・凪冴なぎさと、うざいけど憎めない野球部の弦馬げんま

そんな正反対な二人の温度感が、少しでも伝わっていたら嬉しいです。

続きも、なるべく早くお届けできるよう頑張ります!

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