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透ける約束は片結び  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)
【第三章】多方向からの片結び

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<第四十九足>君だけに見せる夏


「ほんまに人多いねんな……」


「はぐれんなよ。お前、小せぇし探すの大変だから」


花火大会当日。


花火が打ち上がるまで、まだ時間がある。


ケバブを買い終えた俺は、如月さんと並んで屋台を回っていた。


一つ、問題がある。


「えぇ……冷たいなぁ……」


その小さな足で。


百五十センチにも満たない背丈で、人混みの中を歩いている。


しかも、浴衣を身にまとい、いつもとは違う化粧までしている。


普段より大人びて見えるその姿に、どうにも目のやり場に困る。


「…………」


隣を歩いている。


いつもなら、愛さんや夜海、舞姫さん、仁愛が如月さんの隣にいる。


だから、今なら許されるだろう。


如月さんは、まだ恋を知らないはずだから。


「っ」


「あ……手……」


「……こうして見ると、お前、本当にちっちゃいな」


俺は空いている片手で、如月さんの手を握った。


思っていた以上に小さかった。


「赤ん坊みてぇ……」


「何回言うねん」


どうして俺が、こんなことをしないといけないのだろう。


──いや、違う。


どうせなら、このまま手を繋いでいたい。


「あ、たこ焼きある……!」


「買うぞ」


「ええの?」


「らっしゃい!」


たこ焼きの屋台が目に入り、足を止める如月さん。


店主と楽しそうに話している。


「ねぎたこ焼き……最高やんか! 絶対美味いやつやん!」


「嬢ちゃん、たこ焼き好きなの?」


「はい! 自分、大阪出身で……あ、醤油たこ焼きも捨て難いなぁ」


結局、ねぎたこ焼きと醤油たこ焼き、それからチーズたこ焼きを注文した。


─買い過ぎた。


でも、歓迎会兼誕生日会で見た、あの顔が忘れられなかった。


お好み焼きを食べて、頬が落ちたかのように蕩けた顔。


どうか、たこ焼きでもあの顔を見せてほしい。


できれば、俺だけに。


「そんで……兄ちゃんたち、付き合ってんのかい?」


「は?」


「冗談だよ! 嬢ちゃん可愛いし、兄ちゃんもイケメンだから、おまけしといたよ!」


気まずかった。


傍から見れば、俺たちは付き合っているように見えるらしい。


たこ焼きを受け取り、別の屋台へと足を進めた。


「うわぁ……! なぁ、金魚すくいあるで!」


「……取れなくて泣くなよ」


「泣かんで!」


金魚すくい。


水槽の中を泳ぐ金魚を見つめる如月さんは、まるで魚を狙う猫のようだった。


「取れんかってん……」


「金魚はな……お前が猫に見えて怖くて逃げたんだと思う」


「なんでやねん!」


如月さんが笑う。


俺も笑う。


恋を知らない如月さん。


それでも、愛しい。


どうか、この時間が永遠に続いてほしい。


「わぁ……! トルネードポテト……?」


「親父、フリフリポテトのバーベキュー味、一つ」


「あいよ!」


ポテトの屋台。


トルネードポテトを珍しそうに眺めている如月さんを横目に、俺は注文した。


「バーベキュー味派なんや……うちは海苔塩派やねん」


「うるせぇ。ポテトはバーベキュー味って決めてんだよ」


「……あんたたち、付き合ってる?」


「違うっ!」


咄嗟に否定した。


……何で今日に限って、こんなことばかり聞かれるんだ。


「あと、ダージーパイに唐揚げ、フランクフルトも」


「兄ちゃん……よく食うねぇ」


それから、俺たちは屋台を回った。


「冷やしパイン美味しかったなぁ……次、クレープ食べへん?」


「お前……太るぞ」


「太る……? なら、廉命さんの方が太るやんか」


「……俺は筋肉あるから、すぐ脂肪にならねぇだけ」


「ふぅん……?」


しかし、この機会を逃すわけにはいかない。


クレープの屋台を見つけたとき、俺はあることを思いついた。


「……クレープ、何食う?」


「うーん……焼きリンゴにします。あ、タピオカも美味しそう!」


「お前な……」


さっきから、かなりの量を食べている。


冷やしパインに唐揚げ、牛ハラミ串にフランクフルト、トルネードポテトに綿あめ。


それでも、まだ食べられるらしい。


小さい身体のどこに、そんなに入るんだか。


「俺は苺ミルフィーユ。タピオカも飲むのか?」


「杏仁ミルクティー……廉命さんは?」


「俺はピーチティー」


「廉命さん、フルーツ系好きなんやね」


「まあな。カシスも好きなんだけど……屋台じゃあまり見かけねぇし」


「へぇ……大人」


「お待たせしましたー!」


クレープとタピオカを受け取る。


「美味しい……もちもちや」


「クレープ、食ったことねぇの?」


「初めてやで。タピオカも……んんっ! もちもちで、杏仁ミルクティーも美味しい!」


タピオカを噛みしめる彼女は、まるで小動物みたいだった。


─可愛い。


「あ、廉命さんのタピオカピーチティー、一口頂戴?」


「ぶふーっ!」


あまりに予想外の言葉に、思わず飲みかけたものを吹き出した。


「はぁっ! てめぇ、頭沸いたか!」


「味見したいだけやで……? ほな、うちのクレープもタピオカも一口あげるから……」


「〜っ!」


なんなんだ。


どれだけ俺をドキドキさせれば気が済むんだ。


如月さんは気づいていない。


自分から間接キスをしようとしていることに。


「……仕方ねぇな。ほら」


「やったー! おおきに〜」


如月さんの唇が、俺のタピオカのストローに触れる。


その瞬間、ストローに彼女の口紅がほんの少し残った。


「ピーチティー……飲みやすいわぁ」


「……お前、こういうの、誰にでもするの?」


「何のことや……?」


「……俺以外の男に対しても、平気でこういうことするのか?」


「……廉命さんにしか、せえへんけど」


本当に、彼女は何も分かっていない。


如月さんの白い肌と黒髪が映えるように計算されたかのような、紺と桜色の浴衣。


桜の花柄に、猫の模様。


さらに、緑とオレンジのオッドアイが引き立つように施された化粧。


今日の彼女は、いつも以上に目を引く。


「……なら、俺以外の男にこういうことするの、禁止な」


「……どういうことや?」


「……あー、もう!」


クレープを頬張っていたせいか、口元にクリームがついていた。


俺はそれを指先で拭い、彼女に見せるように指を引いた。


「……覚悟しろよ。他の男の前で無防備にしてたら、こんなことになるからな」


「………はい」


何を理解したのかは分からない。


ただ、素直に返事をする彼女を見て、また調子が狂った。


「……ほら、希望さんたちと合流するぞ」


それからも、俺たちは屋台を回った。


「……おばちゃん、りんご飴一つ」


「はいよ。わぁ……お嬢ちゃん可愛いねぇ。何か一つサービスしようかな」


「ほら、好きなの選べよ」


りんご飴の屋台に立ち寄る。


如月さんは、フルーツ飴を珍しそうに眺めていた。


「うーん……オレンジは苦手やから……パイン飴にします」


「ありがとねぇ。毎度!」


このときの俺は、りんご飴をあげる意味なんて分かっていなかった。


パイン飴は、りんご飴と比べると小さい。


だから、大きい方のりんご飴と交換すればいい。


ただ、それだけだった。


「ほら……やるよ」


「え……?」


「……俺、パイン飴食いたくなってきたし。代わりにりんご飴、やるよ」


如月さんにりんご飴を渡す。


「わぁ……! おおきに、廉命さん!」


その笑顔を、俺は一生忘れないだろう。


「あのさ……浴衣、似合ってる」


「……おおきに」


「ほら……その射的で取った指輪も……やるよ」


「おもちゃの指輪やん。でも、大事にするわ」


「別に……可愛いとか、独り占めしたいとか思ってねぇし……」


「……?」


「ほら! お好み焼き、焼きそば、ポテト、ケバブ買って希望さんとこ戻るぞ!」


「……うん!」


花火が打ち上がるまで。


この時間が永遠に続いてほしい。


改めて、そう思った。


「……来年も、花火大会行こうな……廉命さん」


「……勝手にしろ」


もちろん、来年も一緒に行くつもりだった。


ただ、このときの俺はまだ知らなかった。


好きな人にりんご飴をあげることが、どれほど特別な意味を持つのか。


それがまるで。


『あなたが好きです』


そう伝えているのと同じようなものだなんて。


……To be continued


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