↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透ける約束は片結び  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)
【第三章】多方向からの片結び

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/49

<第四十八足>何よりも違う夜


「よし……待ち合わせして行こう!」


「いやぁ……舞姫、頑張ったわねぇ」


「夢玖ちゃん、すっごく綺麗……!なんだけど……」


花火大会当日。


私は舞姫姉にメイクをしてもらった。


鏡を覗き込むと、そこには見慣れない自分がいた。


「舞姫……あなた、メイクが上手すぎるわ。仁愛ちゃんがいつもの倍輝いてるじゃない……!」


「えへへ……♡」


けれど、見違えるほど綺麗になったのは仁愛も同じだった。


普段から十分に麗しい仁愛だけど、舞姫姉のメイクによって、さらに華やかになっている。


思わず眩しいと思ってしまうほどだった。


「今年は、いつもと違う夏が始まるわねぇ」


「うん。お酒が飲めないのは悔しいけど……」


「それは高校を卒業してからだからね?」


「ちぇ……」


愛姉の言葉に、夜海が頬を膨らませる。


「そうだった……一緒にいすぎて、夜海ちゃんが二十歳だって忘れてた……」


「分かる。私もたまにお姉ちゃんと双子だと間違えるもん」


「舞姫?間違えるのと忘れるのは違うのよ……?」


愛姉が呆れたように訂正した。


そんな他愛もない会話を交わしながら、私たちは花火大会の会場へ向かった。


今年は、いつもと違う春を過ごした。


そして今度は、いつもと違う夏がやってきた。


****


「おーい!こっちだぞー!」


「福吉さん!店長!皆!」


花火大会の開始まで、まだ二時間ほどある。


会場近くにある巨大スロット専門店の駐車場には、場所取りをする人々や、カップル、家族連れが大勢集まっていた。


「如月、舞姫……!浴衣似合ってんぞ!」


希望さんが手を振ってくれる。


「希望君、ありがとう!あ、途中で皆の飲み物も買ってきたの!」


「ありがとな……めっちゃ可愛いな、本当に」


「二人とも……イチャつくのは座ってからにしろ」


福吉さんが呆れたように言った。


大きなブルーシートが敷かれ、その上には福吉さんたちが場所を確保してくれていた。


舞姫姉と希望さんは、相変わらず仲がいい。


そういえば、この二人が付き合っていて、同棲までしていることをすっかり忘れていた。


「ふふっ。あれ、廉命君は?」


「便所だ。あいつ……如月ちゃんが来るのが緊張して、逃げやがった」


「違いますよ。お腹が空いて、屋台の食料を空にしに行ったんじゃないんですか……?」


夜海が周囲を見回しながら尋ねた。


加堂さん曰く、廉命さんは私が来ることに緊張して、席を外したらしい。


「そうだよね……去年、焼きそばの屋台の食料を全部食べ尽くして、俺たちが謝る羽目になったのに……」


希望さんが遠い目をした。


「ふぅ……電話も繋がらねぇ。煙草が切れたから買ってくる」


福吉さんが立ち上がった。


「福吉さん、話聞いてた?屋台で煙草なんて売ってないよ?」


店長が呆れたように言う。


「分かってる。近くのコンビニに寄るだけだ。すぐ戻ってくる」


「じゃあ、仁愛も行く〜♡」


「……君も何か買うのか?」


福吉さんが靴を履き、財布を手に取る。


その隣に、仁愛がさりげなく並んだ。


「タバスコと、わさびと……カラシ。手持ちのデスソースを忘れちゃって……♡」


「変わった子だな……それじゃ、すぐ戻る」


仁愛は、どうやら持参するはずだったデスソースを忘れてしまったらしい。


福吉さんは特に気にする様子もなく、玄関へ向かった。


「ふふっ♡二人きり……♡」


仁愛が小さく呟き、福吉さんの後を追っていく。


「…………」


その場に、何とも言えない沈黙が流れた。


「よ、よし!花火大会が始まるまで、まだ二時間あるからさ……皆で屋台を回ろうよ!」


店長が慌てて仕切り直す。


「そうだな。綿あめに、チョコバナナ、りんご飴……クレープも全種類食べよう」


院長が楽しそうに言った。


「院長……屋台でクレジットカードは使えませんからね?」


雷磨さんが冷静に指摘する。


「そうだな……最近、若者が使う決済アプリを始めたんだ。クレジットカードと連携できて便利だぞ。現金は……これくらいあれば大丈夫か?」


「現金……なんぼなん?」


院長が財布を開いた。


中から出てきたのは、一万円札が五枚。


「五万円あれば足りるか?」


「「「そういうとこっ!」」」


愛姉、舞姫姉、希望さんの声が重なった。


「院長……そこは千円札と小銭です。今日は僕が立て替えますから」


雷磨さんが苦笑しながら申し出た。


「雷磨君、悪いな。では、福吉君には焼きたてのメロンパンでも買っておこう」


「院長、そういう問題じゃないんですよ……」


雷磨さんが小さくため息をつく。


どうやら、病院の理事長という立場もあって、お金の使い方が少し独特らしい。


「如月ちゃん……覚えときな。院長は病院の理事長兼医師で、大金持ちだ。でもその分超多忙で金を使う暇がねぇ」


「……つまり?」


「金の使い方が変わってるんだ……」


加堂さんの説明に、私は何となく納得した。


「あ、廉命君、今ケバブの屋台にいるらしいですよ」


夜海がスマートフォンを見ながら言った。


─やっぱり食べていたらしい。


私たちは最低限の荷物だけをシートに置き、屋台巡りへと向かった。


いつもと違う夏。


大阪で過ごしていた頃とは違う、福島での夏。


今年は、今までとは違う夏だった。


****


「はぁ……はぁっ……!」


「…………何も、食べるもんない……やんか」


大阪にいた頃。


両親は、私をいないものとして扱っていた。


「クソっ!また負けた……!」


「……おとん」


「うるせぇな、クソガキ!女ってだけで細くて可愛げもねぇ……ほんまに俺の子やないやろ」


父は、ギャンブルに依存していた。


パチンコ、スロット、カジノ、競馬、競艇。


勝っても負けても機嫌が悪くなり、その苛立ちを私にぶつけた。


「……ぐすっ」


「あいつ……また男と飲みに行きやがった。俺より若いホストに貢ぎやがって……借金までして」


父は母への不満を、私に聞かせるように吐き捨てた。


「元はと言えば、お前が産まれたからや……堕ろせと散々言ったのによ」


母は、ホストに依存していた。


毎日のように朝帰りし、夕方まで眠り、夜になるとまた家を出ていく。


私のことを気にかける人はいなかった。


「お前なんか……産まれてこなけりゃ良かったのに」


母はそう言って、ため息をついた。


産まれてこなければ良かった。


私は、物心ついた頃からそう言われ続けていた。


「おい!返済日過ぎてるで!はよ返さんかい!」


「……お腹、空いた」


「居るんやろ?居るんやなぁっ!」


両親には借金があり、取り立てに来る人間が家を訪れることも珍しくなかった。


「…………暑い」


家にいても、安心できる場所なんてなかった。


だから私は、ときどき心斎橋や梅田に出かけていた。


「わぁ……たこ焼き美味しぃー!さすが大阪!」


「やっと推しのポップアップ行けたあ!」


「これ、ずっと食べてみたかったんだよねぇ!」


街を歩けば、楽しそうな人たちがたくさんいた。


たこ焼きを頬張る人。


推しのポップアップに足を運ぶ人。


友達と写真を撮る人。


周りを見渡せば、観光客で賑わっていた。


「楽しそうやなぁ……」


私は、その光景を少し離れたところから眺めていた。


みんな、楽しそうだった。


みんな、自分の好きなことをしていた。


私とは、別の世界の人間みたいだった。


「いらっしゃいませー!今なら一個おまけするでー!」


たこ焼きの屋台から、威勢のいい声が聞こえてくる。


ソースの香り。


生地が焼ける香ばしい匂い。


その場に立ち止まって、しばらく眺めていた。


このときの匂いを、私は今でも覚えている。


****


「……おい。チビ助」


「……あ、廉命さん」


気がつけば、私は人混みの中で皆とはぐれてしまっていた。


そんな私を、たまたま見つけたのが廉命さんだった。


「〜!ついてこい!」


「えっ?」


次の瞬間、廉命さんは私を片腕で抱き上げた。


「わっ……!」


視界が一気に高くなる。


驚いて、思わず廉命さんの服を掴んだ。


「暴れんな! 大人しくしろって!」


「私……猫ちゃんやないで……?」


「赤ん坊と変わんねぇぐらい小せぇな……」


「…………」


何を言っているんだろう。


私は猫でも赤ん坊でもないのに。


けれど、廉命さんは私を抱えたまま、人混みを抜けていく。


その横顔は、いつもより少しだけ険しかった。


「……クソ」


「?」


「たかが化粧と浴衣だけなのに……色気づきやがって」


「……?」


「どれだけ我慢するのが難しいと思ってんだよ……」


何を言っているのか、私にはよく分からなかった。


ただ、普段とは違う浴衣を着ていることも、いつもより綺麗にメイクをしてもらったことも、廉命さんには何か違って見えたらしい。


人混みの中、皆とはぐれてしまった私。


そして、偶然私を見つけてくれた廉命さん。


二人きりになったのは、まだ花火も打ち上がっていない、夏祭りの始まりだった。


この夏は、今までとは違って見えた。


……To be continued


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。