↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透ける約束は片結び  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)
【第三章】多方向からの片結び

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/47

<第四十七足>初めての浴衣


「へぇ……浴衣かぁ」


夏祭り当日。


ペチコート姿になるも、エアコンの風が当たって寒い。


既に着付けを終えた舞姫姉と愛姉が、浴衣を持って、キツネみたいに飛行機耳とブンブン尻尾が振っている。


「へぇ…仁愛ちゃん、色白で綺麗…」


「夢玖ちゃん、妹みたい」


「でも私達の義妹よ?」


仁愛のペチコート姿を見る。


「ううん…仁愛ちゃん、左の腕、包帯だらけやけど…」


「へへっ…これはね…た、タトゥーシールなの」


「へぇ…タトゥーまで仁愛ちゃんを引き立たせるん、さすがやなぁ」


仁愛の鎖骨に浮かび上がってる、鎖の黒い跡。


これも、仁愛の美しさを引き立たせている。


「福吉さんを誘惑するんだからぁ…♡」


「……香水もつけて…」


「わぁ…!絶対似合う!」


雑談をしながら、舞姫姉は着付けをした。


「夢玖ちゃん、ちゃんとご飯食べてる…?」


「食べてるけど…?」


「細いよ…もっと沢山食べないと!」


細いハチマキを腰に巻く。


舞姫姉曰く、私は細いらしい。


「沢山食べて…沢山お肉つけないと!」


「お腹にお肉付けたない…」


「そうじゃなくて…胸やお尻に付けるの」


「そうそう…それで廉命君を誘惑して…」


「……誘惑?」


私は、きょとんと首を傾げた。


「そう!いつもチベットスナギツネ…いや、狼みたいな顔してる廉命君を、今日はびっくりさせちゃおう!」


「チベット……?」


「舞姫、あんまり変なことを吹き込まないの」


愛姉が笑いながら、舞姫姉の肩を軽く叩いた。


「夢玖ちゃんは夢玖ちゃんのままで十分可愛いんだから。今日はその可愛さを、浴衣とメイクで引き出すだけよ」


「……ほんま?」


「ほんまよ」


愛姉がにっこり笑う。


その隣では、舞姫姉が既に化粧道具を並べていた。


ファンデーション、コンシーラー、アイシャドウパレット、アイライナー、マスカラ、チーク、リップ。


まるで小さな化粧品売り場である。


「さあ、夢玖ちゃん。こっち向いて」


「はい……」


舞姫姉が私の顔を覗き込む。


「今日は夜空の下だから、普段より少し色を濃くするね」


「濃くするん?」


「そう。お祭りの照明って意外と顔色が飛んじゃうの。だから、目元と唇にちゃんと色を乗せるの」


「へぇ……」


「でも、夢玖ちゃんの柔らかい雰囲気は残したいから、濃くしすぎないよ」


舞姫姉はまず、肌の状態を確認する。


下地を薄く伸ばし、気になる部分だけコンシーラーで整える。粉を重ねすぎないように気をつけながら、肌の透明感を残していく。


「うん。肌綺麗だしベースはこれでいいかな」


「もう終わり?」


「まだまだ。ここからが本番!」


舞姫姉がアイシャドウパレットを開いた。


「今日はね、赤みのあるブラウンと、少し深いローズを使うよ」


「ローズ……」


「浴衣の色にも合うし、夜空の下でも目元がぼやけないからね」


まぶたに淡い色を広げ、目尻に深いローズブラウンを重ねる。


細いアイラインを引き、目尻をほんの少しだけ長く。


下まぶたにも色を乗せ、目元に立体感を出していく。


「夢玖ちゃん、目を閉じてね」


「ん……」


「まつ毛も綺麗に上げて……よし!束感まつ毛似合うね!」


舞姫姉が満足そうに頷いた。


次はチーク。


頬の高い位置に、血色感のあるピンクをふんわりと乗せる。


「わぁ……」


私が鏡を覗き込もうとすると、舞姫姉にそっと止められた。


「まだ駄目!」


「ええ……」


「最後まで楽しみにしてて」


そして、唇には少し深みのあるローズピンク。


普段よりも色鮮やかで、けれど夢玖の柔らかな雰囲気を損なわない色だった。


「完成!」


舞姫姉が両手を広げた。


「ふぅ…お姉ちゃん、どう?」


「……あら」


愛が目を丸くする。


「いいじゃない。すごくいいわ」


「でしょ?」


「お姉ちゃんと同じブルベ夏だから、お姉ちゃんのコスメが合うね…ありがとう、お姉ちゃん」


舞姫姉は満足げに頷いた。


「夜の屋台の明かりでも、花火の光でも、ちゃんと顔が映えるようにしたの」


「へぇ……」


私はまだ鏡を見せてもらえていない。


「そろそろ見てもええ?」


「もちろん!」


舞姫姉が大きな手鏡を差し出した。


私はそっと鏡を覗き込む。


「…………」


ぱちぱち、と瞬きをする。


鏡の中には、いつもより少し大人びた自分がいた。


目元には深い色があり、頬にはほんのりとした血色。唇も、普段より鮮やかだ。


「……わぁ」


小さく声が漏れた。


「どう?」


「なんか……私やないみたい」


「夢玖ちゃんだよ」


舞姫姉が優しく笑う。


「いつもの夢玖ちゃんを、ちょっとお祭り仕様にしただけ」


「……すごいなぁ」


私は鏡を近づけたり、遠ざけたりしている。


「目ぇ、きらきらしてる」


「ふふ。そこはラメを入れたからね」


「舞姫姉、すごいなぁ……」


「もっと褒めていいよ?」


「舞姫姉、天才やなぁ」


「これだけ可愛くしたら、あの子も喜ぶこと間違いなしねぇ…ふふっ」


「そうね…クククッ」


愛姉が笑う。


「二人とも…悪戯狐みたいに笑うね…夢玖ちゃん、綺麗だよ」


「おおきに…夜海ちゃんも綺麗やで」


愛姉も舞姫姉も、悪い顔をする。


悪戯狐のように。


その横で、仁愛も着付けを終えていた。


艶のある黒髪をまとめ、浴衣に合わせた髪飾りをつけている。白い肌に浴衣の色がよく映えていた。


鎖骨に覗く鎖の模様も、彼女らしい印象を作っている。


「仁愛ちゃんも素敵ね」


愛姉が声をかける。


「ほんと?ありがとうございまーす♡」


仁愛はくるりと回ってみせた。


「福吉さん、気づいてくれるかなぁ……♡」


「気づくんちゃう?」


私が素直に答える。


「仁愛ちゃん、いつもと雰囲気違うもん」


「……夢玖ちゃん」


「ん?」


「そういうことを無自覚に言うから、男の人が勘違いするんだよ?」


「勘違い?」


「ううん、なんでもない♡」


仁愛は楽しそうに笑った。


「ところで、香水は?」


「つけたよぉ」


「どれどれ……」


舞姫姉が近づいて確認する。


「うん、いい感じ。つけすぎてないのもいいね」


「福吉さんの近くに行ったら、気づいてくれるかなぁ」


「仁愛ちゃん、今日ほんまに楽しそうやなぁ」


「そりゃあね」


仁愛は少しだけ頬を赤くした。


「好きな人に会えるかもしれないんだもん♡」


その言葉に、愛姉と舞姫姉が同時に顔を見合わせる。


そして。


「「かわいい……!」」


二人の目が輝いた。


「ねえ舞姫」


「うん、お姉ちゃん」


「今日の夢玖ちゃんと仁愛ちゃん、最高に可愛いわね」


「分かる。これはもう、写真を撮りまくらないと」


「待って、二人とも。私たちも一緒に撮りましょう」


「もちろん!」


私は二人の会話を聞きながら、少しだけ不思議そうにしていた。


「……写真?」


「そうよ。せっかくだもの」


愛がスマートフォンを取り出す。


「皆、並んで」


「はーい」


皆で並ぶ。


愛姉がスマホのカメラでカウントダウンをする。


「はい、笑って」


ぱしゃり。


「もう一枚!夜海ちゃんも笑って!」


ぱしゃり。


「今度は夢玖ちゃん、少しだけこっちを向いて」


「こう?」


「そうそう!」


舞姫姉も隣からスマートフォンを構える。


「待って、私も撮る!」


「舞姫姉、写真何枚撮るん?」


「百枚!」


「多いよ!」


仁愛が笑いながら突っ込んだ。


その後も、浴衣の柄を見せたり、髪飾りを整えたり、義姉たちの撮影会は続いた。


そして、ようやく準備が整う。


「よし。完成!」


舞姫が最後に私の帯を整えた。


「苦しくない?」


「大丈夫やで」


「歩きにくくない?」


「うん」


「下駄は履けそう?」


「……たぶん」


「たぶん?」


「まだ分からへん」


「そこは練習しようね」


舞姫姉が苦笑する。


私は鏡の前に立ち、浴衣姿の自分を改めて眺めた。


いつもの服とは違う。


髪も、メイクも、浴衣も。


少しだけ背筋が伸びるような気がした。


「……へぇ。浴衣かぁ」


ぽつりと呟く。


その声は、どこか嬉しそうだった。


「夢玖ちゃん」


愛姉が声をかける。


「今日は楽しんでおいでね」


「うん!」


「写真もいっぱい撮ってきてね」


「うん!」


「廉命君にも、ちゃんと見せるのよ?」


「……?」


私は首を傾げた。


「みんなに見せるんやないの?」


「そうね。みんなにも見せるの」


愛は笑顔を崩さない。


「でも、廉命君には一番に見せてあげて」


「なんで?」


「なんでって……」


愛姉と舞姫姉が顔を見合わせる。


二人の耳が、ぴんと立った。


「……夢玖ちゃん」


「ん?」


「今日の目標はね」


舞姫姉がそっと夢玖の肩に手を置く。


「お祭りを楽しむこと!」


「うん!」


「それから、好きなものをいっぱい食べること!」


「うん!」


「そして、廉命君に浴衣を褒めてもらうこと!」


「……?」


私は数秒考えた。


「廉命さん、褒めてくれるかなぁ」


その瞬間。


愛姉と舞姫姉の表情が変わった。


「「褒めさせるわ」」


「えっ」


二人の背後に、再びキツネのような気配が立ち上る。


仁愛はそれを見て、くすくす笑った。


「夢玖ちゃん、今日は大変だねぇ」


「……そうなん?」


「うん。たぶん廉命君の方がもっと大変」


夜海がそう言う。


すると愛姉と舞姫姉は、互いに頷いた。


―夏祭り当日。


この日、最も試されるのは、花火でも下駄でもなく。


日出廉命の平常心だった。


……To be continued


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。