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透ける約束は片結び  作者: 檻 依舞 (おりーぶ)
【第三章】多方向からの片結び

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<第四十六足>モテる男の㊙︎


「………何すか?」


勉強会をしていた時、俺は愛さんと舞姫さんにリビングへ呼び出された。


夜海も一緒に。


「…………廉命君、幾つか聞くわね」


「何すか?」


愛さんが、鬼の形相―いや、飢えたキツネのような顔でこちらを見てくる。


「夢玖ちゃんと、どこまで行ってるの?」


「は?」


如月さんと、どこまで関係が進んでいるのか。


要するに、そういう話だった。


「……LINEは交換したらしいじゃない」


「だったら何すか?」


「来週末の花火大会で……夢玖ちゃんと二人きりになってみなさい」


「は?」


「廉命君、聞いたよ〜?夢玖ちゃんに恋してるんだってねぇ……希望君から色々聞いたよ〜?」


「……今、俺たちが呼び出された意味あります?」


舞姫さんまで一緒になって、俺をからかい始めた。


「………本当に夢玖ちゃんのこと、好きなのね?」


「好きなんでしょ?」


「どうなの、廉命君?」


「なんで夜海も一緒になってんだよ!」


「いや、面白そうだから?」


「ふざけんな」


夜海まで、完全にこちら側ではなくなっていた。


「別に……見てて飽きねぇっていうか……ほっとけないだけっすよ」


俺がそう答えると、愛さんと舞姫さんはぴたりと動きを止めた。


そして、二人そろって真顔になる。


─チベットスナギツネみたいな目で見てくるんじゃねぇ。


「今の全然だめ!キュンとしない!やり直し!」


「何すか……?」


「あのねぇ……あなた、自覚してないかもしれないけど、顔良し、性格ツンデレ、ガタイ良し。あなたが女性に近づくだけで、女性は百パーセント恋に落ちるの!」


「そうだよ!しかも浴衣姿だよ?ここで進展しないとねぇ……?」


「三十分でもいいから、二人きりになって可愛いって言えばいいのよ!」


「廉命君……逃げ場ないよ。諦めな」


夜海が呆れたように言った。


─もしかして、如月さん以外には俺の気持ちがバレているんじゃないだろうか。


いや、希望さんに知られている時点で、もう手遅れか。


言い逃れができない。


「私たちね、夢玖ちゃんの義姉であるうえに、夢玖ちゃん推しなの!」


「だから何すか?」


「どんなお洋服を着せたら可愛いか考えてたら、涎が出てきちゃってさ……」


「水着、浴衣、セーラー服、学ランとか色々……あとスク水、バニーガール、猫耳……メイド服にナース服……ふふっ」


「あんたたち……シスコンの敵ですよ」


愛さんと舞姫さんは、如月さんに色々な服を着せてみたいらしい。


─いや、最後のほうはさすがに予想外だ。


正直ちょっとキモい。


「可愛くて、色々させたいのは分かりますけど……如月さんは着せ替え人形じゃなくて……一人の女の子なんすよ」


「「「…………」」」


その一言で、場の空気が静まり返った。


「えっ?廉命君……あなた、こんな言葉が言えるのね……?」


「恋愛だけポンコツだと思ってたけど……ねぇ?」


「廉命君、そういうとこだよ」


「なんでだよっ!」


****


「あなたいつも口が悪いんだから、こういう時くらい褒めなさい」


「さっき、七五三みたいって言ってたけど……本当はそんなこと思ってもないんでしょ?」


その通りだ。


本当は、そんなこと思っていない。


「まあ……そうですけど……てか、呼び出された意味……」


「……特訓よ」


「……あ?」


「夢玖ちゃんに『可愛い』と言うための特別特訓を行います!」


そして―愛さんによる特別特訓が始まった。


「まずは舞姫を夢玖ちゃんだと思って、可愛いって言ってみて?」


「可愛いよ」


「全然だめ!お手本を見せるわよ!」


「……何が違うんすか」


愛さんは俺の疑問を無視して、舞姫さんの前に立った。


「夢玖……浴衣、似合ってる。この後……二人きりにならない?」


「…………」


「……ってね。分かった?」


「分かるかっ!」


愛さんが、如月さん役の舞姫さんの顎をそっと持ち上げて言った。


─第三者から見たら、レズと勘違いされるに決まってる。


「いい?アメリカでは、好きな人にはストレートに言葉で伝えるの。愛情も不満も、言葉にしてはっきり伝えるのよ」


「…………」


「そうだよ。仁愛ちゃんを見習わないとダメだよ、廉命君」


「お前なぁ……そもそも、浴衣って着物だろ……?」


浴衣は着物。


俺がそう言うと、舞姫さんまで威嚇するキツネのような顔になった。


「いい?浴衣の魅力はね、普段との違い、髪型の変化、伝統的な肌の見せ方……うなじや首筋、足首がちらっと見えるところにもあるんだよ?」


「舞姫さん……?」


「普段とのギャップ萌え!非日常!控えめな色気! これが浴衣姿で見られるの!しかも女子高生よ?」


「あんた達……本当に看護師を目指す人と教師なんすか?」


「ぐるるる……!」


「あーあ……廉命君がポンコツなせいで、二人とも凶暴なキツネみたいになっちゃったじゃん……」


「なんで俺のせいなんだよ!」


「はいはい、言い訳しない!」


愛さんがパン、と手を叩いた。


「次!廉命君、夢玖ちゃんを想像して!」


「……は?」


「浴衣姿の夢玖ちゃんよ。髪をいつもと違う感じにまとめて、いつもよりちょっと大人っぽくなった夢玖ちゃん」


「…………」


「そこで、ひと言!」


「……何を」


「可愛いって言うの!」


「…………」


「廉命君?」


「…………」


「……え、ちょっと。なんで黙るの?」


「うるせぇな……」


俺は顔を背けた。


想像するなと言われても、勝手に頭に浮かんでくる。


浴衣を着て、いつもより少しだけ髪をまとめた如月さん。


普段はふわふわしていて、何を考えているのか分からないくせに、好きな食べ物を見つけると目を輝かせる。


笑うと、こっちまで気が抜ける。


─そんな奴が、いつもと違う格好をしていたら。


「…………」


「……廉命君?」


「…………似合うだろうな」


ぽつりと呟いた。


「え?」


「……浴衣。あいつ、似合うだろうなって言ったんすよ」


愛さんと舞姫さんが顔を見合わせる。


夜海まで目を丸くしていた。


「……何だよ」


「いや……」


愛さんが口元を押さえた。


「……思ったより、重症ね」


「うん。これは重症だねぇ……」


「何がだよ!」


「だって、まだ浴衣姿を見てもいないのに、そんな顔するんだもの」


「どんな顔だよ!」


「好きな子のことを考えて、どうしようもなくなってる男の顔」


「…………は?」


「廉命君、分かってないの?」


夜海が呆れたように息を吐いた。


「さっきからずっと、夢玖の話になると反応が違うんだけど」


「…………」


「本人には絶対言わないくせにね」


「……うるせぇ」


否定できなかった。


そもそも、あいつに可愛いなんて言ったことがあっただろうか。


……いや、ない。


少なくとも、まともな形では。


「よし!」


愛さんが勢いよく立ち上がった。


「決めた! 花火大会までに、廉命君を夢玖ちゃんに『可愛い』って言える男にするわ!」


「勝手に決めんな!」


「舞姫、協力して!」


「もちろん!」


「お前ら、俺の話を聞け!」


「じゃあ、まずは練習ね!」


「まだやんのかよ!?」


「当たり前でしょう?」


愛さんが満面の笑みを浮かべた。


─この人、絶対に教師向いてるだろ。


いや、もう教師だった。


そして俺は、今さらながらに気づいた。


この場にいる全員が、俺の恋愛事情を面白がっている。


唯一、何も知らない如月さんを除いて。


「…………」


─花火大会まで、あと一週間。


本当に大丈夫なのか、俺。


……To be continued


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