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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第九十九話 「妄想というものは“現実逃避の副作用”ではなく、“人類が現実へ押し潰されないため脳内へ増設した第二生存領域”なので、物語を失った文明は静かに死に始めます」


 ベルタリュオン星。



 中央深層観測区画。


 観測炉稼働率。


 上昇。


 異常値。


【地球由来妄想世界線群】


【感情波動増加】


【概念宇宙干渉率上昇】


 白い観測室。



 オリジンは、静かに記録を見つめていた。


 そこへ映るのは。


 地球人類。


 笑う。


 泣く。


 怒る。


 妄想する。


 非合理。


 効率性皆無。



 なのに。


 何故か、滅びなかった。


 ベルタリュオン文明は、ずっと理解できなかった。


 感情はノイズ。


 争いの原因。


 文明停滞要因。



 だから削った。


 整理した。


 統合した。



 その結果。


 戦争は減った。


 飢餓も減った。


 苦痛も減った。



 だが。


 文明は、少しずつ“生きる理由”を失った。



 観測官の一人が、静かに問う。


「……何故」


「地球文明は崩壊しないのですか」


「非合理です」


「矛盾しています」


「情報汚染量も多すぎる」



 オリジンは、静かに地球記録を開いた。


 戦争。


 災害。


 差別。


 貧困。


 孤独。


 SNS。


 長時間労働。


 終わらない比較。


 酷かった。


 かなり。



 観測官達ですら、微かに沈黙する。


「……生存環境として非効率です」



 だが。


 次の瞬間。


 映像が変わる。


 深夜アニメ。


 ゲーム。


 漫画。


 配信。


 推し文化。


 創作。


 同人誌。


 異世界転生。


 大量。


 終わらない。



 観測官の一人が、困惑した。


「……何故」


「苦しい環境ほど」


「妄想生成量が増加している?」



 オリジンは、静かに答える。


「人類は」


「現実だけでは耐久できないのでしょう」



 静寂。



「だから」


「脳内へ“第二生存領域”を構築した」


 観測炉。


 脈動。


 異世界群。


 大量展開。


 勇者。


 魔法。


 冒険。


 やり直し人生。


 救済。


 愛される主人公。



 全部。


 人類妄想。



 だが。


 それらは。


 単なる逃避ではなかった。


 “生存補助機能”。



 観測官が、静かに呟く。


「……文明規模精神安定装置」



 オリジンは、頷いた。


「地球人類は」


「現実へ絶望するたび」


「妄想側で“希望”を増設していた」



 その時。


 観測炉中央。


 一つの人格波形。


 拡大。


【ノベェンタ】



 観測官達が、静かに息を呑む。


 人格波形が、異常だった。


 複数。


 いや。


 無数。


 勇者。


 賢者。


 社畜。


 学生。


 孤独な誰か。


 救われたかった誰か。


 誰かを助けたかった誰か。


 それら全てが。


 一人へ統合されている。



 観測官が、小さく震える。


「……何故」


「壊れないのですか」



 オリジンは、静かに答えた。



「彼は」


「“妄想を否定しなかった”」



 静寂。



 普通なら。


 妄想人格は、排除される。


 現実へ矯正される。



 だが。


 ノベェンタは違った。 


 全部。


 受け入れた。



「だから」


「他者否定が少ない」


「感情耐性が高い」


「異世界適応率が異常」


「外側へ理解を示してしまう」



 その瞬間。



 観測炉警告。


【感情過負荷】


【概念宇宙実体化開始】


 空間歪曲。


 巨大城。


 竜。


 魔王軍。


 聖女。


 空飛ぶ大陸。


 ファンタジー群。


 実体化。



 観測官達が硬直する。


「危険です!!」


「概念侵食発生!!」



 だが。


 オリジンは、静かにその光景を見ていた。


 理解し始めていた。


 地球人類は。


 弱かった。


 脆かった。


 すぐ傷つく。



 だから。


 妄想した。


 救われる話を。


 愛される話を。


 頑張った誰かが報われる世界を。



 そして。


 その妄想が。


 文明を延命させていた。



 その時。



 地球側映像。


 東央マテリアル。


 対策部。



 佐伯。


「だから会議室で異世界転生ランキング議論しないでくださいよぉぉぉ!!」



 野村部長。


「でもぇ、“追放されたけど実は最強”系ちょっと読みたくなるよねぇ……」



 キノピー。


「にゃははは♡ ざまぁ展開大好きにゃ〜♡」



 アイン。


 真顔。


「……何故“追放された側”が人気なのですか」



 ノベェンタは、静かにコーヒーを飲みながら答える。


「人類、“ちゃんと評価されなかった経験”かなり多いので。だから“本当は凄かった”って物語へ救われやすい。あと現代社会、“頑張っても報われない感覚”蓄積しやすいんですよ。だから妄想の中くらい、“最後に認められたい”願望が強くなる」



 ベルタリュオン観測室。


 誰も、喋れなかった。


 彼らは今。


 初めて知り始めていた。



 妄想とは。


 未熟な逃避ではなく。



 “絶望した文明が、それでも生き延びるため最後に作った希望”だった事を。


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