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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第九十八話 「異世界とは“現実から逃げた空想”ではなく、“人類が妄想へ感情を流し込み続けた結果、別宇宙として実在化した認識領域”なので、ファンタジーは文明末期の逃避先であり、同時に生存本能です」


 ベルタリュオン星。



 中央深層観測区画。


 最上位封鎖領域。


【多世界線感情観測炉】


 白かった。


 静かだった。


 だが。


 この場所だけは、少し怖い。


 巨大球体。


 その内部には。


 宇宙。


 文明。


 滅亡。


 感情。


 歴史。


 全てが、光点として浮いていた。


 ベルタリュオン文明。


 数万年。


 進化。


 統合。


 合理化。



 その果て。


 彼らは、多世界線観測へ到達した。



 だが。


 未だ理解できない領域がある。


 地球由来世界線。



 特に。


【NT-0001】


 ノベェンタ存在世界線。



 オリジンは、静かに観測炉を見上げていた。


 周囲には、上位観測官達。


 誰も喋らない。


 今日の議題。


【ノベェンタ適性解析】



 それは。


 ベルタリュオン文明でも、未解明だった。


 観測官の一人が、静かに問う。


「……何故」


「何故あの個体だけが」


「外側へ適応できるのですか」



 静寂。



 オリジンは、ゆっくり観測炉へ触れる。


 瞬間。


 無数の宇宙が展開された。


 剣と魔法。


 終末世界。


 学園。


 宇宙文明。


 怪異。


 勇者。


 魔王。


 転生。


 大量。


 無数。


 全て。


 地球由来。



 観測官達が、僅かにざわつく。


「……異常です」


「派生量が多すぎる」


「文明進化方向が統一されていない」



 オリジンは、静かに告げた。


「ベルタリュオン人も」


「想像は行います」


 空間へ、映像が流れる。


 未来予測。


 文明設計。


 理論仮説。


 可能性演算。


 技術シミュレーション。


 合理的だった。


 整っていた。


「それらは正常な知性活動です」


「文明とは、本来そう進化する」



 静寂。



 だが。


 オリジンは、少しだけ声を落とした。


「しかし」


「地球人類は違った」


 空間中央。


 大量の映像。


 小説。


 漫画。


 神話。


 ゲーム。


 深夜の妄想。


 逃避願望。


 救済幻想。


 転生願望。



「彼らは」


「“妄想”した」



 静寂。



「存在しない英雄」


「救ってくれる誰か」


「魔法」


「異世界」


「やり直せる人生」


「理解してくれる仲間」


「そして」


「そこへ感情を流し込み続けた」


 観測炉が、脈動する。


 無数の異世界群。



 それらは。


 ただの創作ではなかった。


 人類の。


 逃避。


 願望。


 後悔。


 孤独。


 救済欲求。



 感情そのものだった。



「本来、文明は現実へ適応します」


「しかし地球人類は」


「現実へ耐え切れなくなった時」


「“妄想側”へ世界を増設した」



 観測官達が、静止する。


「……概念宇宙」



 オリジンは、頷いた。


「感情総量が一定値を超えた時」


「妄想は実在化します」



 静寂。



 ベルタリュオン文明ですら、未解明。


 それが。


 地球人類だった。



 その時。


 観測炉中央。


 一つの世界線が拡大される。


【NT-0001】


 ノベェンタ世界線。



 高知。


 東央マテリアル。


 対策部。


 ラーメン屋台。


 遍路道。


 一見。


 普通だった。


 だが。


 数値が異常。


【感情共鳴密度:測定不能】


【概念接続率:異常】


【人格重層反応確認】



 観測官達が、止まる。


「……人格重層?」



 オリジンは、静かに禁域情報を開示した。


【ノベェンタ人格解析】


 空間展開。


 大量の人格光。


 重なる。


 融合。



 そして。


 一つになる。


 野部遠汰。


 ノベェンタ。



 観測官達が、理解不能で沈黙する。


「……転生情報?転移?」


「複数……?」



 オリジンは、静かに告げた。


「ノベェンタは」


「単一人格ではありません」



 静寂。



「無数の妄想世界線で生きた人格」


「願望」


「知識」


「後悔」


「孤独」


「優しさ」


「救済欲求」


「それらが奇跡的整合を起こし」


「現在の人格として統合されている」



 観測官の一人が、微かに震える。


「理論上」


「人格崩壊するはずです」



 その通りだった。


 普通なら。


 自己境界が消える。


 発狂する。


 存在維持できない。



 だが。


 ノベェンタは違った。


 何故なら。


 “全部受け入れてしまった”。


 だから。


 知識量が異常。


 感情理解が深い。


 他者否定が少ない。


 異常耐性が高い。



 そして。


 “物語”へ強い。


 ファンタジー。


 異世界。


 概念存在。


 それら全てを。


 “理解できてしまう”。



 観測官達は、静かに戦慄していた。


「……では彼は」


「地球人類妄想文明の」


「統合人格……?」



 オリジンは、否定しなかった。



 その瞬間。


 観測炉が揺れる。


【警告】


【ファンタジー概念波動上昇】


 空間歪曲。


 竜。


 魔法陣。


 王国。


 勇者。


 聖剣。


 魔王。


 大量発生。



 観測官達が硬直する。


「概念実体化……!?」



 オリジンは、静かに解析する。


「……まだ危険です」


「ベルタリュオン文明は」


「“物語”を理解しきれていない」


 ファンタジー。


 それは。


 非合理。



 だが。


 地球人類は。


 何千年も。


 救済を妄想し。


 英雄を妄想し。


 愛を妄想し。


 異世界を妄想し続けた。


 その積み重ねが概念化し。


 宇宙化している。



 つまり。


 異世界とは。


 地球人類妄想文明の結晶だった。



 その時。


 地球側映像。


 対策部。



 佐伯。


「だからなんで社内冷蔵庫にドラゴン肉入ってるんですかぁぁぁ!!」



 野村部長。


「焼けばなんとかなるかなってぇ……」



 キノピー。


「にゃははは♡」



 アイン。


 真顔。


「食品管理法違反です」



 ノベェンタ。


 静かにコーヒーを飲みながら呟く。


「人類、“現実だけだと苦しい時”に妄想するので。英雄、魔法、異世界。この辺、“逃避”だけじゃなく、“明日も生きる理由”として機能してる場合あるんですよ」



 ベルタリュオン観測室。


 誰も、喋れなかった。


 彼らは今。


 初めて理解し始めていた。



 “妄想”とは。


 未熟な幻想ではなく。



 文明そのものを、生き延びさせる本能だった事を。


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