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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第九十七話 「感情というものは“瞬間的に真似しても定着しない長期学習型波動現象”なので、人類は悩みながら少しずつ“誰かと生きる周波数”を覚えていきます」


 ベルタリュオン星。



 中央波動解析機関。


 白かった。


 静かだった。


 巨大球体演算炉。


 浮遊文字列。


 青白い液体槽。


 感情抑制光。



 全てが、整いすぎていた。


 だからこそ。


 少しだけ、死んでいた。



 中央観測室。


 オリジンは、静かに記録映像を見ていた。


 地球。


 東央マテリアル。


 特殊対策部。


 そこに映るのは。



 佐伯。


「なんでそうなるんですかぁぁぁ!!」



 ノベェンタ。


「人類、“意味不明な状況ほどツッコミ必要になる”ので」



 野村部長。


 量子焼きそばパンを持ちながら転倒。



 キノピー。


 笑っている。



 アイン。


 少しだけ。


 嬉しそうだった。



 オリジンは、静かに解析結果を見る。


【佐伯発声時】


【感情波動共鳴率上昇】


【周辺生命維持係数増加】


【アイン安定化確認】


【外側侵食抑制率上昇】



 沈黙。


 長かった。



 そして。


 オリジンは、静かに告げる。


「……やはり」


「“感情交流時”です」


 周囲のベルタリュオン人達は、無言で頷いた。


 彼らは理解していた。


 既に。


 問題は、DNAだけではない。



 ノベェンタ適性。


 それは。


 単なる遺伝情報ではなかった。


 “人類的感情循環”。


 それ自体が、重要だった。



 中央技術主任が、静かに報告する。


「モルモール由来波動同期装置、調整完了しました」


 空間中央。


 巨大リング装置。


 脈動。


 青白い光。



【疑似人類感情同期実験】


 被験者。


 ベルタリュオン人男性。


 感情変動極小個体。


 椅子へ座る。


 頭部へ、波動接続端子。


 モニターには。



 佐伯のツッコミ映像。


「だからなんでそうなるんですかぁぁぁ!!」



 瞬間。


 装置起動。


 白い波動。


 赤い波動。


 同期。


【感情波長模倣開始】


【ツッコミ反射同期】


【人類感情模倣率:89%】



 被験者。


 突然。


「なぜそこで焼きそばパンを量子化する必要があるのですか!!」



 観測員達、静止。


 成功だった。


 初めて。


 ベルタリュオン人が、自然なツッコミを行った。



 その瞬間。


【生命維持係数上昇】


【波動安定率増加】


【感情循環正常化】



 空気が、少しだけ柔らかくなる。


 観測員の一人が、小さく呟く。


「……温かい」



 だが。


 三秒後。


 波動崩壊。


【同期解除】


【感情定着失敗】


【生命維持係数低下】



 被験者の瞳から、光が消える。


「……無意味です」



 再び。


 静かな存在へ戻った。


 観測室。


 沈黙。


 オリジンは、静かに結果を見る。


【模倣のみでは定着せず】


【経験値不足】


【人格内部蓄積不足】



 その時。


 アインの記録映像。


 映る。


 最初の頃。


 感情理解不能。


 雑談拒否。


 効率重視。



 だが。


 現在。


 少し笑う。


 悔しがる。


 照れる。


 餃子で競争する。



 変わっていた。



 オリジンは、静かに分析する。


「……短期同期ではない」


「蓄積です」



 白い空間へ、地球記録が大量投影される。


 深夜ラーメン。


 遍路。


 川遊び。


 雑談。


 餃子。


 ギャル語。


 笑い声。


 どれも。


 非効率だった。



 だが。


 アインは、それによって変化した。



 観測員の一人が、静かに呟く。


「……何故」


「何故“無意味な会話”で安定するのですか」


 オリジンは、少しだけ沈黙した。


 そして。


 初めて。


 少し迷うように言う。


「人類は……」


「“正しさ”だけでは生存できないのでしょう」



 静寂。


 モニター内。



 佐伯が笑っている。



 ノベェンタが、静かにコーヒーを飲む。



 キノピーが寝ている。



 野村部長が、また何かこぼしている。



 リゼが笑う。



 アインも。


 少しだけ。


 笑っていた。



 オリジンは、その映像を見つめながら呟く。


「悩み」


「怒り」


「孤独」


「安心」


「誰かを大切と思う感覚」



「それら全てが」


「波動定着へ必要……?」


 誰も答えられなかった。



 ベルタリュオン文明は、長い年月を掛けて。


 苦しみを減らした。


 効率を極めた。


 争いを消した。



 だが。


 その過程で。


 “生きる温度”まで、薄れてしまったのかもしれない。



 その時。


 地球側映像。


 対策部。



 佐伯の声。


「だからなんで会議室で焼肉焼いてるんですかぁぁぁ!!」



 野村部長。


「換気すれば大丈夫ぅ!!」



 キノピー。


「にゃははは〜♡」



 アイン。


 小さく。


「……それは駄目です」


 だが。


 少し笑っていた。



 観測室。


 ベルタリュオン人達は、無言でその映像を見る。


 効率は悪い。


 意味も薄い。


 なのに。


 何故か。


 少しだけ。



 羨ましかった。


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