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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第九十五話 「適性というものは、“偶然生まれた才能”ではなく、“文明が失ってしまった何か”への接続点だったりするので、ベルタリュオンはノベェンタを必要としていた」


 観測整合維持局。



 中央深層。


 第一原初観測領域。


 白い。


 どこまでも。


 静かだった。


 巨大空間中央。



 オリジンは、無数の観測記録を見つめていた。


 地球。


 東央マテリアル。


 高知県。


 そして。



 野部遠汰。


 ノベェンタ。


【観測適性:異常値】


【認識汚染耐性:測定不能】


【感情共鳴安定率:極端に高い】


【位相固定能力:確認済】


【外側干渉適応:成功】



 沈黙。



 ベルタリュオン文明でも、ここまでの数値は存在しなかった。


 理由は、未解明。



 だが。


 結果だけが、存在していた。


 オリジンは、静かに記録を遡る。



【第一次地球接触実験】


 失敗。


 ベルタリュオン人は、最初。


 “交流”を試みた。


 地球人との接触。


 文化観測。


 感情解析。


 結果。


 一定の効果確認。



 特に。


 笑い。


 会話。


 共同食事。


 睡眠。


 触覚交流。


 この辺りで、波動周波数安定率が僅かに上昇した。



 だが。


 微弱。


 文明全体を救うには、足りなかった。



 次。



【第二次認識侵食実験】


 侵食。


 認識改変。


 感情誘導。


 世界線接触。


 外側技術を用い、地球文明へ干渉した。



 結果。


 成功。


 感情波動変化。


 世界線変動。


 認識共鳴。


 研究価値は、高かった。



 だが。


 問題発生。


【侵食過多】


【研究対象世界線崩壊】


【比較観測不能】



 地球側が、変わり過ぎる。


 人類が、“ベルタリュオン化”し始める。


 それでは、意味が無かった。


 必要なのは、原種性。


 未完成性。


 不安定なまま、感情を維持する生物。



 つまり。


 “人類らしさ”。



 侵食し過ぎれば、研究対象そのものが壊れる。


 加減が、極端に難しかった。



 そして。


【第三次生体培養実験】


 ノベェンタDNA。


 培養開始。


 結果。


 失敗。



【人格定着失敗】


【波動共鳴消失】


【感情定着不能】


 肉体だけでは、意味が無かった。



 ノベェンタ適性。


 それは、単なる遺伝子ではない。


 感情。


 環境。


 記憶。


 人間関係。


 雑談。


 孤独。


 優しさ。


 それら全てが、複雑に絡み合って成立している。



 つまり。


 “生き方”そのもの。


 培養槽では、再現できなかった。



 さらに。


 別案。


【対象拉致計画】


 ノベェンタ本人を、ベルタリュオンへ移送。



 しかし。


 これも、実行不能。


 理由。


【ベルタリュオン環境下】


【感情波動急減衰】


【適性消失予測】



 ノベェンタは、地球環境だから成立している。


 高知の空気。


 雑談。


 食事。


 人間関係。


 猫。


 プリン。


 疲労。


 笑い声。


 その全て込みで、適性が維持されている。


 現在のベルタリュオンへ移送した瞬間。


 “人類らしさ”が減衰する。



 意味が無い。



 必要なのは、地球側との共鳴。


 その中で、自然発生する適性。


 人工再現不能。



 オリジンは、静かに呟く。


「……我々は」


 白い空間。


 静かに揺れる。


「生命を理解したつもりで」


「生きるという現象を、失っていたのですか」



 その時。


 観測窓。


 東央マテリアル。


 地下第三層。



 佐伯。


 机へ突っ伏していた。


「も〜〜〜〜〜〜無理ですぅ〜〜〜〜……」



 書類。


 山。



 キノピー。


 その上で寝ている。


「にゃ〜♡」



「そこで寝ないでくださいよぉ!!」



 野村部長、カップ麺を持ってくる。


「はい夜食ぅ〜」



 リゼは、お茶を淹れていた。


「疲れてる時って、“誰かが居る音”だけで少し救われるのよね」



 アイン。


 静かに、その光景を見ていた。


 以前なら。


 非効率と判断した。


 だが。


 今は違う。


 胸部位相。


 安定。


 感情波動。


 正常。


 アインは、小さく呟いた。


「……温かい」



 オリジンは、その数値を見る。


 そして。


 長い沈黙の後。


 初めて。


 本当に初めて。


 ベルタリュオン文明は、理解し始めていた。



 滅びかけた理由を。


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