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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第九十三話 「言語文化というものは“時代ごとの感情圧縮技術”なので、ギャル語を分析すると現代人類の寂しさと優しさが見えてきます」


 午後六時十一分。



 東央マテリアル。


 地下第三層。


 特殊対策部。



 平和だった。


 珍しく。


 だが。


 平和は、突然終わる。



「やばたにえんなんですけどにゃ〜♡」



 静寂。



 全員。


 止まる。


 声の方向。


 そこに居たのは。



 キノピー。


 ただし。


 ギャルだった。


 黒猫耳。


 盛られた髪。


 ラメ。


 ルーズソックス。


 スマホ。


 ネイル。



 完全に。



 ギャル。



「この空間エモ散らかしてるにゃ〜♡ ビジュ優勝すぎてしんどいにゃ♡」



 沈黙。



 佐伯、深呼吸。


「……説明を要求します」



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「人類、“若者言語”を定期的にアップデートするので。特にギャル文化、“空気共有速度”極端に速い。“短時間で感情伝達する”へ特化してるんですよ。“やばい”一語で、“嬉しい”“怖い”“美味い”“終わった”“尊い”全部処理してる。つまりギャル語、“情報圧縮率”かなり高い言語文化なんです」



 キノピー、スマホ掲げる。


「ノベェンタ、それガチそれなにゃ〜♡」



 佐伯、小声。


「猫がSNS世代に侵食されてる……」



 アインは、明確に距離を取っていた。


 かなり。


「……苦手です」



「えぇ〜!? アインち陰キャムーブ出してるにゃ〜♡」



 アイン。


 固まる。


「い、陰……?」



 リゼは、水晶を撫でながら頷いた。


「ギャル文化って、“自己肯定の共同体”なのよね。“かわいいじゃん”“盛れてる”“今日ビジュいい”。あれ全部、“存在肯定を言葉にする文化”なの。現代人類、承認不足で乾燥しやすいから、“褒め合う言語体系”へ進化した側面あると思う。あとネイルとかメイクって、“自分自身へ魔法掛ける儀式”に近いのよ」



 佐伯、なれてきた。


「九条さんの説明だけ聞くとギャル文化が精神文明の到達点みたいになるんですよ」



 その時。


 空間が揺れた。


 黒い文字列。


【映え】


【承認】


【バズ】


【同調圧力】


【盛れ】


 空間侵食。


 認識汚染。



 佐伯、顔引きつる。


「嫌なSNS案件来ましたよこれ!」



 大量のスマホ。


 空中浮遊。


 通知音。


 自撮り。


 比較。


 数字。


【もっと評価されたい】


【もっと見てほしい】


【もっと“いいね”】


 空気が重い。



 ノベェンタは、静かに前へ出た。


「人類、“他人と比較できる環境”入ると普通にメンタル削れるので。SNS、“世界中の上澄み”だけ視界へ流し込み続ける装置なんですよ。本来、人類比較対象って“村の数十人”くらいだった。なのに現代、“世界一可愛い人”“世界一成功した人”“世界一人生楽しそうな人”が常時流れてくる。脳容量追いつかないんです」



 キノピー、頷く。


「それなみざわにゃ〜♡」



 佐伯、諦め顔。


「もう普通に使いこなしてる……」



 空間振動。


 黒い存在。


 現れる。


 巨大スマホ型認識獣。


 リングライト付き。



「終わってるデザインセンスなんですよ!!」



【評価されねば価値は無い】


【数字こそ存在証明】


【映えぬ者に意味は無い】



 リゼが、静かに目を閉じた。


「違うのよ。“見てもらえない不安”って、本当は“愛されたかった記憶”なの。人類、“誰かに肯定された感覚”を探し続けてるだけなのよね。だからギャル文化、“かわいいを言い合う”へ進化した。否定より、“盛れてる!”って言った方が世界ちょっと優しくなるの知ってるから」



 アイン。


 混乱。


「理解不能です……なぜ初対面同士で“かわいい”を共有するのですか……」



 キノピー、アインへ近づく。


「アインち今日ビジュ良すぎにゃ〜♡」



 アイン。


 停止。


「……び、ビジュ……?」



 耳。


 少し赤い。



 佐伯、小声。


「効いてる……」



 その瞬間。


 巨大スマホ認識獣。


 暴走。


【承認欲求飽和開始】


 空間が、SNSみたいに歪む。



 ノベェンタは、静かに前へ出た。


 黒い粒子。


 空間へ拡散。


 そして。


 両手。


 闇が収束する。


 黒い量子文字列。


 紫電。


 猫耳みたいな因果波形。



【対外側統括監査責任者専用観測武装】


【《因果観測黒剣・ネオアカシック》】



 二本同時顕現。


 右の剣。


 ギャルネイルみたいに、

 ラメ状の量子文字列が走る。



 左の剣。


 SNS通知みたいに、

 ピコンピコン黒い光が点滅してる。



 キノピー、超テンション高い。


「にゃははは〜〜〜♡ 二刀流バチ盛れ解禁にゃ〜〜〜♡」



 佐伯、目を見開く。


「……来た」



 アインも、静かに構える。


「ノベェンタ統括……ついに」



 リゼが、少し嬉しそうに微笑む。


「人類って、“新しい力を初めて使う瞬間”好きなのよね。たぶんあれ、“進化を見てる感覚”に近いの。昨日まで出来なかったことが出来るようになる瞬間って、人類みんな少しだけ未来を信じられるから」



 ノベェンタは、二本の黒剣を静かに構えた。


「人類、“二刀流”へ異常なロマン感じる文化あるので。実戦性議論は昔からありますが、“左右で別概念を制御してる感覚”そのものが厨二病へ直撃するんですよ。あと黒剣二刀、“最終形態感”“禁術感”“主人公覚醒後感”を同時成立させるので、認識的威圧効果かなり高い。特に日本人、“片方だけでも危険そうな武器が二本ある”状況へ弱い傾向あります」



 キノピー、剣の中から笑う。


「にゃはは〜♡ ついにお披露目にゃ〜♡」



 黒い量子文字列。


 空間展開。


 認識圧縮。


 感情波動。


 情報干渉。



 二本の黒剣。


 共鳴。


 空間そのものが、低く唸る。



 佐伯、鳥肌。


「うわっ……なんか今回ガチ感すごいのにラメ……」



 ノベェンタ、二刀を交差させる。



「《双因果観測共鳴型認識肯定術式・ネオアカシック・ブラックパラドックス・ギャラクシー卍エモーション・インフィニティ・オーバードライブ》」



 閃光。


 黒いラメ。


 紫電。


 大量のハート。


 意味不明なエモ波動。


 二本の黒剣から放たれた斬撃が、空間ごと認識汚染を切断する。



【理解……された……?】


 巨大スマホ認識獣。


 崩壊。


 消滅。



 静寂。



 そして。


 アインが、小さく呟く。


「……それな」



 全員。


 止まる。



 佐伯、感情爆発。



「アイン先輩までギャル語インストールされてるじゃないですかぁぁぁ!!」


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