第九十話 「肩書きというものは、“ただの記号”だと分かっていても人類の自己認識へ異常に影響するので、認定証一枚で急に自信が増えます」
東央マテリアル。
地下第三層。
午前九時十三分。
⸻
対策部。
珍しく。
拍手が起きていた。
壇上。
⸻
佐伯。
赤い新型ビキニアーマー。
大型ハルバード。
ドヤ顔。
そして。
額縁入り認定証。
⸻
【観測整合維持局正式認定】
【監査官補佐資格保有者】
【佐伯美咲】
⸻
キラキラしていた。
⸻
無駄に。
⸻
「いやぁ〜〜〜〜♡」
佐伯。
満面の笑み。
「“正式認定”って響き気持ちいいですねぇ〜〜〜♡」
⸻
野村部長、拍手。
「すごいねぇ〜!」
⸻
キノピー。
黒猫状態。
認定証の上で寝る。
「にゃ〜」
⸻
リゼは、水晶を磨きながら微笑む。
「人類って、“私はここに居ていい”を証明する札みたいなもの欲しがるのよね。本当は呼吸してる時点で存在許可出てるのに、“資格”“肩書き”“フォロワー数”“役職”へ安心を預けちゃう。でも逆に言えば、“認められた”って感覚、人類かなり回復する。だから卒業証書とか免許証って、紙なのに泣けるのよ。“誰かに存在を肯定された記憶”って、それだけで人類しばらく生き延びられるから」
⸻
佐伯、感動。
「九条さん、スピリチュアルだから人生へ刺さるんですよね……」
⸻
その横。
ノベェンタ。
静かだった。
かなり。
⸻
だが。
⸻
少しだけ。
悔しそう。
⸻
佐伯、気づく。
「……野部さん?」
⸻
ノベェンタは、静かに認定証を見る。
「人類、“ラベル”へかなり影響受けるので。“正式”“限定”“公認”“監修済み”。この辺、内容同じでも認識価値跳ね上がる。あと肩書き、“他人へ説明するため”だけじゃなく、“自分自身へ納得するため”にも機能する場合あるんですよ」
⸻
静寂。
⸻
そして。
「……ちょっと受けたくなりましたね」
⸻
佐伯、吹く。
「えぇ!?」
⸻
アイン。
止まる。
嫌な予感。
かなり。
「……おすすめしません」
⸻
「何故です?」
⸻
「あなたの場合、“試験側が壊れる”可能性があります」
⸻
ノベェンタは、静かに眼鏡を上げた。
「やるなら全力で行きます」
⸻
その瞬間。
黒猫キノピー。
ぴょん。
ノベェンタの肩へ飛び乗る。
「にゃ〜」
黒い光。
変形。
収束。
⸻
そして。
⸻
黒い剣。
空間へ現れる。
禍々しい。
⸻
しかし。
⸻
ちょっと猫っぽい。
「にゃふふ〜♡」
⸻
「武器が喋ってるんですよ!」
⸻
⸻
数時間後。
⸻
観測整合維持局。
【第七補正執行室】
白い回廊。
浮遊文字列。
無限階段。
⸻
ノベェンタ。
妙に馴染んでいた。
⸻
「もう古株職員みたいな顔なんですよ!」
⸻
試験開始。
【認識適性試験】
白い空間。
大量の問題。
【現実とは何か】
【観測者依存理論を説明せよ】
【量子論的人格連続性について述べよ】
【人類が猫動画を好む理由を証明せよ】
⸻
ノベェンタ。
静かに座る。
そして。
書く。
止まらない。
「人類、“意味分からないけどかわいい”へ極端に弱いので。猫、“赤ちゃん的特徴”と“予測不能性”両立してる。つまり脳内報酬系と観察欲求を同時刺激してるんですよ。まず目が大きい、顔が丸い、動きが読めない。この辺、“幼体保護本能”へ直結する。さらに猫、“完全服従しない”ので。犬みたいに常時こちらへ最適化されず、“気まぐれに寄ってくる”からこそ、人類側が“関係性を観測したくなる”。つまり猫動画、“かわいい”だけじゃなく、“次どう動くか見たい”まで含めて中毒性成立してるんです。あとインターネット、“知性”より“癒し”を求め始める瞬間あるので、文明疲労高い時代ほど猫コンテンツ増殖しやすい。実際、長時間労働社会ほど“短時間で脳を回復させる無害コンテンツ”需要増える傾向ある。だから人類、限界近づくと最終的に“猫”“柴犬”“ラッコ”“カワウソ”へ回帰し始めるんですよ。文明極まるほど、人類むしろ“モフモフ”を求める」
⸻
【回答速度:異常】
【思考密度:危険】
【情報量:多すぎ】
⸻
佐伯、遠い目。
「試験官の顔が疲れてるんですよ……」
⸻
次。
【必殺技適性試験】
空間展開。
超巨大認識獣。
千体。
⸻
ノベェンタ。
静かに前へ出る。
黒い剣。
握る。
瞬間。
空間全体へ、黒い量子文字列が走る。
⸻
キノピーの声。
「にゃはははは♡ いっぱい居るにゃ〜♡」
⸻
ノベェンタは、静かに目を閉じた。
「“人類は観測によって世界を固定している”という前提を踏まえた場合、認識圧縮領域へ存在する外側由来情報体は、“理解される前”が最も脆弱なんですよ。つまり“意味不明なまま殴る”のが合理的です。あと黒猫、人類史的に“災厄”“魔女”“幸運”“夜”全部背負わされがちなので。情報密度高い存在ほど、逆に認識干渉耐性強くなる傾向あります」
⸻
黒い剣が鳴く。
「にゃおぉぉぉぉん♡」
⸻
右手を上げる。
空間振動。
黒い因果律。
量子崩壊。
認識圧縮。
⸻
「《超次元観測収束型量子因果律連鎖崩壊術式・黒猫終焉記録剣アカシック・ニャルラト・オーバーロード・パラドックス》」
⸻
閃光。
黒い斬撃。
空間。
縦に裂ける。
敵。
概念ごと蒸発。
⸻
【戦闘能力:測定不能】
【危険度:監査対象外】
【推定:管理職適性】
⸻
アイン。
頭抱える。
「……やはり」
⸻
最終結果。
白い文字列。
【ノベェンタ】
【統合適性:SSS】
【特例昇格処理開始】
【第七補正執行室・統括監査責任者権限付与】
⸻
沈黙。
⸻
佐伯。
固まる。
「……え?」
⸻
アイン。
もっと固まる。
「…………え?」
⸻
文字列追加。
【アイン直属上位権限者認定】
⸻
静寂。
⸻
アイン。
人生初レベルで、悔しかった。
「……納得できません」
⸻
胸。
ざわつく。
感情。
イライラ。
悔しい。
負けたくない。
全部。
⸻
人類的だった。
⸻
その瞬間。
空間崩壊。
黒い裂け目。
【感情発生確認】
【修正係汚染開始】
【排除】
⸻
外側。
大量出現。
⸻
白空間が揺れる。
⸻
佐伯、叫ぶ。
「アイン先輩!!」
⸻
その時。
⸻
アインは、静かに前へ出た。
白銀外套。
だが。
以前と違う。
瞳。
温度がある。
「……理解しました」
黒い裂け目を見る。
「感情はノイズではない」
⸻
光。
白銀。
蒼。
赤。
混ざる。
「怒りも」
「悔しさも」
「誰かを大切と思う感覚も」
空間震動。
「“生きている側”の力です」
⸻
術式展開。
⸻
「《統合感情共鳴型現実固定術式・ヒューマンレゾナンス・アイン・オーバーライト》」
⸻
白い光。
世界全体を包む。
外側。
消滅。
⸻
静寂。
⸻
佐伯は、息を呑んでいた。
アイン。
綺麗だった。
かなり。
少しだけ。
⸻
ドキッとした。
⸻
その時。
アインが振り返る。
「……どうしました?」
⸻
佐伯、慌てる。
「い、いや!? なんでもないです!!」
⸻
アイン。
首を傾げる。
⸻
まだ。
⸻
恋愛感情だけは、理解していなかった。
⸻




