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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第八十七話 「人生相談というものは、“人類が誰かへ答えを求めているようで、本当は安心して悩める場所を探している行為”なので、雑談だけで救われる夜があります」


 午後八時四十一分。



 高知県。


 高知市。


 夜だった。


 湿った風。


 路面電車。


 赤提灯。



 そして。



 ひろめ市場。


 人。


 酒。


 笑い声。


 カツオ。


 完全に。


 高知だった。



 対策部一行は、市場中央を歩いていた。



 佐伯。


 すでに串焼き三本目。


「高知、“飲め”圧が強いんですよ……!」



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「高知県、“酒文化がコミュニケーション装置化してる地域”なので。特に“返盃文化”、かなり特殊。“お前の杯を受ける=関係受け取る”感覚ある。つまりアルコール、“飲料”というより“距離短縮儀式”寄りなんですよ」



 その瞬間。



 知らないおじさん。


「兄ちゃん飲めぇ!!」



 返盃。


 発生。



 佐伯、硬直。


「来たぁ!!」



 ぐい。


 飲む。


 返す。


 また来る。



「無限ループなんですよこれ!!」



 リゼは、日本酒を月みたいに見つめていた。


「高知の酒文化って、“酔う”より、“境界線を溶かす儀式”なのよね。“他人”だった人が、“まぁ一緒に飲んだ人”へ変わる。アルコールって本来、“本音を引きずり出す液体”じゃなく、“孤独を少しだけ薄める霧”だった気がする」



 佐伯、真顔。


「九条さん、スピリチュアルだから人生相談強いんですよね最近……」



 アインは、静かに佐伯へ水を差し出した。


「水分補給です」



「アイン先輩だけ妙に保護者なんですよ!」



 その時。



 市場奥。


 空気が揺れる。


【疲労】


【孤独】


【承認】


【寂しさ】


【飲め】


 黒い文字列。


 天井付近へ浮かぶ。



 ノベェンタは、静かに目を細めた。


「……“共感依存型認識汚染”ですね」



 市場中央。


 現れる。


 巨大な盃。


 異常にデカい。


 酒が渦巻いている。


【飲め】


【語れ】


【寂しいと言え】



 周囲の客達が、泣きながら肩を組み始めた。



「うわっ、情緒が居酒屋深夜二時なんですよ!!」



 ノベェンタは、静かに市場を見回す。


「人類、“酔った時だけ本音出せる”状態、結構危険なので。本来、“弱音”ってシラフでも吐けるべきなんですよ。あと現代社会、“迷惑掛けるな”圧強すぎて、“助けて”言えない人増えやすい。“寂しい”を言語化できず、酒だけ増える現象かなりある」



 リゼは、揺れる酒面を見ながら呟く。


「人って、“分かってほしい”より、“否定されずに存在したい”のかもしれないわね。“そのままでいい”って言葉、解決じゃないのに、人類かなり救われる。でも、“依存”になると、“寂しさを埋める穴”がどんどん広がる。“誰かと居る”と“誰か無しで立てない”は、似てるようで違うのよ」



 その時。



 野村部長。


 ふらっと消える。



「部長?」



 数分後。


 駐車場。


 屋台。


 餃子。


 煙。


 鉄板。



 そして。



 野村部長。


 ビール。


 完全に馴染んでいた。


「うまぁぁぁ……」



「なんで自然に屋台へ吸い込まれてるんですか!?」



 高知の有名餃子屋台だった。



 夜。


 駐車場。


 並ぶ人。


 餃子の匂い。


 背徳感。



 最高だった。



 ノベェンタは、静かに頷く。


「高知、“飲み後に餃子屋台行く文化”かなり強いので。あと屋台、“偶然隣になった人と喋る余白”残ってる。チェーン店より、“少し不便な店”の方が人類会話しやすい場合あります。あと深夜餃子、“罪悪感込みで美味い”」



 佐伯。


 餃子一口。


 無言。


 そして。


「……これ人類の正解です」



 アイン。


 対抗して餃子。


 真顔。


「……かなり旨い」



「アイン先輩が餃子で対抗心燃やしてる!」



 その時。



 巨大盃。


 市場上空から降下。


【寂しい】


【苦しい】


【もっと繋がれ】


 黒い波動。


 広がる。



 しかし。



 野村部長。


 餃子食べながら言う。


「まぁでもさぁ」



 全員が見る。



「人生ってぇ、“誰かと飲んで笑ってる日”あるだけで、結構なんとかなる時あるよねぇ」



 静寂。



 風。


 屋台の湯気。



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「人類、“大問題が解決したから幸せ”じゃなく、“小さい楽しい”積み重ねで生存継続してる場合かなりあるので。飯うまい、風呂気持ちいい、猫かわいい、誰か笑ってる。この辺、“生きる理由”として普通に強い」



 リゼは、月を見上げる。


「幸せって、“特別な奇跡”じゃなく、“今日ちょっと安心できた”の連続なのかもしれないわね。魂ってたぶん、“壮大な成功”より、“帰れる場所ある感覚”の方で回復する」



 巨大盃。


 静かに揺れる。


【……温かい】



 そして。



 消滅。



 夜風だけ残った。


 その後。



 佐伯。


 餃子追加三人前。


「……ダイエットってなんでしたっけ」



 アイン。


 真顔。


「今の勝負、私の方が多く食べました」



「競う場所そこなんですか!?」


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