第八十四話 「お遍路というものは、“歩きながら人生のノイズを削っていく移動式内省システム”なので、人類は八十八ヶ所も歩くと少しだけ優しくなります」
高知県。
土佐清水市。
午前五時三十八分。
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まだ薄暗かった。
潮風。
蝉前の静けさ。
白み始める空。
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そして。
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野部遠汰。
ノベェンタ。
一人。
立っていた。
背中には、大型バックパック。
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だが。
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異常に薄い。
軽い。
歩行特化型。
東央マテリアル製。
社内開発コード。
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【巡礼行脚支援型軽量統合野営装備】
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中身。
超軽量テント。
防水寝袋。
全天候ジャケット。
浄水ボトル。
折りたたみ調理器具。
携帯マット。
非常食。
簡易医療セット。
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全部入ってる。
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なのに。
軽い。
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ノベェンタは、静かに歩き始めた。
「人類、“荷物軽いだけで人生かなり楽になる”ので。特に徒歩旅、“一キロの重さ”が数十キロ後に人格攻撃してくる。登山、遍路、バックパック旅。この辺、“軽量化”がそのまま精神安定へ繋がる場合ある。あとアウトドア用品、人類の“文明を小さく折り畳む技術”なので。“家機能”を数キロへ圧縮してる」
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背中から。
黒剣の声。
「にゃ〜……」
キノピーだった。
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今回は。
歩き拒否。
剣形態で同行。
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「歩きたくないにゃ〜……」
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「猫、“楽な場所へ収束する生物”なので」
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朝日。
山道。
遍路道。
静かだった。
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ノベェンタは、白衣姿の遍路とすれ違う。
「おはようございます」
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「おはようございます」
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それだけ。
だが。
少し安心する。
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「お遍路、“知らない人同士が自然に挨拶する空間”なので。現代社会、人類かなり“他人へ話しかけない文化”になった。だから逆に、“お疲れ様です”だけ飛び交う空間、妙に心へ効く。あと遍路、“競争じゃない移動”なのも大きい。“早く着く”より、“ちゃんと歩く”方が重要なので」
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さらに。
外国人遍路。
多い。
金髪。
青い目。
大型バックパック。
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普通にいる。
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キノピーが驚く。
「にゃ? 海外の人いっぱい居るにゃ」
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ノベェンタは、静かに頷いた。
「四国遍路、ヨーロッパ巡礼マニア界隈かなり人気なので。特にスペインの“カミーノ・デ・サンティアゴ”経験者、“次は四国行きたい”へ流れやすい。理由、“歩ける”“祈れる”“人優しい”“飯うまい”“治安良い”“自然深い”。あと日本、“静かな異世界感”として海外巡礼勢へ刺さる場合かなりある」
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外国人遍路が、笑顔で頭を下げる。
「オハヨーゴザイマス!」
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「おはようございます」
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少し不思議で。
少し嬉しい。
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「あと四国遍路、“宗教強制感が薄い”のも海外人気理由ですね。“信仰してなくても歩いていい”。この緩さ、かなり特殊。ヨーロッパ巡礼、“信仰色強い歴史”ありますが、四国遍路、“人生疲れたから歩く”でも許される。人類、“意味分からないけど救われる旅”を求める時あるので」
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山道。
暑い。
蝉。
坂。
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そして。
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地味に長い。
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「遍路、“地図だと近く見えるのに歩くと遠い”問題かなり発生するので。あと四国、“平地少ない”。人類、坂道で無言になりやすい」
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キノピー。
剣状態で、背中から喋る。
「にゃ〜……お腹空いたにゃ〜……」
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「まだ朝六時です」
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「遍路、“お接待文化”あるから期待してるにゃ」
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ノベェンタは、静かに頷いた。
「四国遍路、“お接待”かなり特殊文化なので。地元住民が飲み物、お菓子、果物、時には宿泊まで提供する。“巡礼者を弘法大師の同行者として扱う感覚”ある。つまり“旅人そのもの”へ徳積みしてる文化なんですよ。あと遍路、“人の優しさで泣く率”かなり高い」
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その時。
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道端。
おばあちゃん。
「お遍路さん、暑いやろ〜」
差し出される。
冷えた麦茶。
塩飴。
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キノピー。
剣なのに感動。
「にゃぁぁぁ……」
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ノベェンタは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
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おばあちゃんは、笑う。
「気をつけて行きや〜」
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静かな風。
山の匂い。
麦茶。
冷たかった。
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ノベェンタは、少しだけ目を細める。
「人類、“知らない人の優しさ”でかなり回復するので。あと遍路、“助けてもらう側”を経験しやすい。現代人、“迷惑掛けない”へ寄り過ぎて、“助けられる感覚”忘れやすい。でも人類、本来かなり“支え合い生物”なんですよ」
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その頃。
対策部。
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佐伯。
机へ突っ伏す。
「野部さん居ないと逆に静かすぎて怖いんですけど!?」
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リゼは、窓辺で水晶を太陽へ透かしていた。
「旅って、“今いる場所から少しだけ魂を剥がす儀式”なのよね。人って同じ場所に居続けると、“自分が何者か”を環境へ固定されるから。でも歩くと、“ただの人間”へ戻れる。遍路ってたぶん、“肩書きのデトックス”なのよ」
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アインは、静かに地図を見ていた。
「……徒歩移動。非効率です」
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だが。
少しだけ。
羨ましそうだった。
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そして。
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ノベェンタの遍路は続く。
山。
海。
寺。
坂。
汗。
蝉。
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ゆっくり。
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人間へ戻るみたいに。
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