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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第八十三話 「未確認生物探索というものは、“人類がまだ世界へロマンを残していたい本能”なので、カワウソ一匹で大人が本気になります」


 午前九時十四分。



 高知県。


 大月町。


 晴天。


 川。


 山。


 蝉。


 透明な水。



 夏だった。



 対策部一行は、山道を歩いていた。


 今回の任務。


【ニホンカワウソ目撃情報調査】



 佐伯は、紙資料を見ながら半目だった。


「いやもう絶対UMA案件じゃないですかこれ……」



 ノベェンタは、静かに頷く。


「日本人、“絶滅したかもしれない動物”かなり好きなので。ニホンオオカミ、ニホンカワウソ、ツチノコ。この辺、“まだどこかに居てほしい願望”込みで語られやすい。あとカワウソ、“顔が可愛い”のでロマン補正かなり強い。人類、“ちょっと笑ってる顔の動物”へ感情移入しやすい傾向あります」



 佐伯、川を見る。


「でもニホンカワウソって、絶滅扱いなんですよね?」



「最後の公式確認、かなり昔なので。ただ四国西部、“最後期目撃地帯”なんですよ。特に高知県西部、川と海と山が近く、生態系かなり独特。あとカワウソ、“夜行性”“警戒心高い”“水中移動得意”なので、普通に発見難易度高い。人類、“居ない証明”の方が難しい場合あります」



 キノピーは、猫耳を揺らしていた。


「にゃ〜、カワウソ会いたいにゃ〜♡」



 リゼは、川辺で目を閉じていた。


「この辺、“水の記憶”が柔らかいわね。山の気と海の気が混ざってる。“探す”より、“居てもいいよ”って空気を作る方が近づいてくる気がする。生き物って、“敵意の周波数”かなり読むのよ。引き寄せって、“欲しがる”じゃなく、“もうある前提で穏やかになる”感覚に近いの」



 佐伯、遠い目。


「最近ほんと自然精霊側へ進化してません?」



 アインは、静かに川面を観察していた。


「水流異常なし。足跡反応微弱」



 佐伯が振り向く。


「アイン先輩そういうの分かるんですか!?」



 アインは、少しだけ誇らしそうだった。


「佐伯より先に見つけます」



「競わないでくださいよ!?」



 その時だった。



 野村部長。


 川へ突撃。


「うぉぉぉぉぉ!! 冷たぁぁぁい!!」



 バシャバシャ。


 子供だった。



「部長何してるんですか!?」



 野村部長は、川の中で笑っていた。


「いやぁ! こういう綺麗な川見ると入りたくなるよねぇ!」



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「人類、“透明な水”見るとテンション上がるので。特に都市生活長いほど、“綺麗な自然”へ脳が報酬出す。あと川、“見るだけで副交感神経優位化する”研究普通にあります。水音、人類かなり安心する」



 野村部長。


 さらに奥へ。


 そして。


 転倒。


 バシャァァン!!


「ぶへぇっ!!」



「子供なんですよ!!」



 その瞬間だった。


 川奥。


 岩陰。


 小さな影。


 ぴょこ。



 全員。



 静止。



「……え?」



 茶色。


 細長い。


 丸い顔。


 水面から、こちらを見ていた。



 キノピー、目を輝かせる。


「にゃっ!!」



 しかし。



 次の瞬間。


 黒い文字列。


【発見】


【執着】


【撮影】


【拡散】


【消費】


 空気が、軋む。



 ノベェンタは、静かに目を細めた。


「……“観光消費型認識侵食”ですね」



 川面。


 揺れる。


 巨大な黒い影。


 現れる。


 スマホ。


 大量。


 腕みたいに生えてる。



「うわっ気持ち悪っ!?」



【撮れ】


【拡散しろ】


【バズれ】


【希少を消費しろ】



 スマホ怪物だった。



 リゼは、静かに川風を感じていた。


「人類、“見つけた瞬間に所有したくなる病気”あるのよね。本当は、“居る”だけで奇跡なのに、“写真”“証拠”“数字”へ変えた瞬間、世界ってちょっとだけ壊れる。でも自然って、“分からないまま大事にする”くらいが、一番綺麗に共存できる気がする。“全部触らない”って、かなり愛なのよ」



「九条さんが深すぎてスピラざるをえない!」



 スマホ怪物が、一斉に発光。


【映えろ】


【数字になれ】


【承認されろ】



 川が濁る。



 その時。



 野村部長。


 びしょ濡れ状態で立ち上がる。


「よぉぉぉし!!」


 何故か。


 テンション上昇。


「川遊びなら負けんぞぉぉぉ!!」



 部長。


 石投げ開始。


 水切り。


 異常に上手い。


 ピシャン!!

 ピシャン!!

 ピシャン!!



 水面反射。


 スマホ怪物のカメラ群。


 誤作動。



「なんで強いんですか部長!?」



 野村部長は、笑っていた。


「自然で遊ぶ時はねぇ!! ちょっとバカなくらいが楽しいんだよぉ!!」



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「人類、“楽しんでる大人”見るとちょっと救われるので。あと自然遊び、“効率”から離れる時間なんですよ。魚捕れなくてもいい。石綺麗でもいい。川冷たいでもいい。現代人類、“意味ないけど楽しい”不足しやすい」



 アインは、静かに術式展開。


「対象認識阻害術式」


 白い光。



「《静水秘匿結界・ミラージュリバー》」



 川面が光る。


 スマホ怪物。


 ノイズ化。


 消滅。



 静かな川だけ残った。



 そして。



 岩陰。


 小さな影。


 最後に一度だけ。


 こちらを見る。



 くるん。



 水へ消えた。



 静寂。



 リゼが、少し笑う。


「たぶん、“見つけない優しさ”ってあるのよね」



 佐伯は、川辺へ座り込んだ。


「……なんか今日、ちょっと癒やされました」



 野村部長。


 全身びしょ濡れ。


 満面の笑み。


「川遊び最高ぉ!!」



「風邪ひきますって部長ぉ!!」


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