第八十二話 「ストレス発散というものは、“脳が溜め込んだ処理不能感情を安全に外へ逃がす行為”なので、人類は定期的に叫ぶか走るか素振りしないと壊れます」
午後八時十一分。
⸻
高知県。
バッティングセンター《量子重力偏向式フルスイング宿毛研究所》
カキィィン!!
金属音。
白球。
夜風。
⸻
そして。
⸻
佐伯。
限界だった。
「っっっだぁぁぁぁもう!!!」
⸻
フルスイング。
打球。
天井直撃。
⸻
「最近ずっとツッコミで脳焼けてるんですよ私はぁぁぁ!!」
⸻
最近。
対策部。
自由人が多すぎる。
ノベェンタは長文。
キノピーは猫耳メイド。
リゼは引き寄せの法則へ到達。
野村部長は羊羹で悟る。
⸻
結果。
⸻
ツッコミ担当。
佐伯。
胃袋消費量、増加。
⸻
アインは、静かに球速表示を見ていた。
「百三十五キロ。悪くありません」
⸻
「アイン先輩その冷静さどうなってるんですか!?」
⸻
アイン。
無言。
カキィィン!!
ホームラン。
ネット最上段直撃。
⸻
「フォーム綺麗すぎません!?」
⸻
アインは、静かに頷いた。
「バッティング、“破壊衝動を合法的に解放できる装置”として優秀です。人類、“何かを強く叩く”とストレス軽減されやすい。太鼓、薪割り、スポーツ。この辺、原始的発散行為と近い」
⸻
佐伯は、汗だくで息を吐く。
「たしかにちょっとスッキリしますけど……!」
⸻
アインは、静かに佐伯を見る。
「ですが」
白球セット。
「本日の飛距離は私が上です」
⸻
「張り合ってたんですか!?」
⸻
アインは、真顔。
「当然です。佐伯は対策部でも上位火力枠なので」
⸻
「戦闘力評価みたいに言わないでください!」
⸻
その時だった。
空間が、揺れる。
打席奥。
黒い亀裂。
【蓄積】
【疲労】
【抑圧】
【発散不足】
⸻
「またですかぁぁぁ!?」
⸻
亀裂。
拡大。
次の瞬間。
⸻
佐伯とアイン。
吸い込まれた。
⸻
⸻
異世界。
辺境城塞都市。
⸻
夜。
鐘。
悲鳴。
炎。
⸻
「えっ」
⸻
城壁外。
モンスター。
大量。
⸻
スタンピード。
起きていた。
⸻
「いや数多ぉ!!」
⸻
ゴブリン。
オーク。
スケルトン。
巨大蜘蛛。
⸻
衛兵達が叫ぶ。
「冒険者か!?」
「助けてくれ!!」
「城壁が持たん!!」
⸻
佐伯。
沈黙。
そして。
ゆっくり前へ出た。
「……はぁ」
ビキニアーマー展開。
赤い光。
「ちょうど良かったです」
笑顔。
怖い。
「最近ずっと我慢してたのでぇぇぇぇ!!!」
⸻
爆走。
⸻
「《超爆裂回転式紅蓮全方位粉砕スマッシュ・バーサークフルスイング》!!」
⸻
ゴブリン十体。
消し飛ぶ。
⸻
「《対ストレス特化型超振動流星バット・インパクトクラッシャー》!!」
⸻
オーク吹き飛ぶ。
⸻
「《深夜残業怨念蓄積式メテオバスター・フルドライブ》!!」
⸻
地面爆発。
⸻
「《会議五時間耐久型アルティメット肩こり粉砕ホームラン》!!」
⸻
スケルトン軍団蒸発。
⸻
「《理不尽クレーム完全粉砕デストロイ・フルコンボ》!!」
⸻
巨大蜘蛛、空の彼方。
⸻
完全に無双ゲーム。
⸻
衛兵達。
ドン引き。
「赤い人が怖い!!」
⸻
佐伯、止まらない。
「《ツッコミ過労限界突破ギガント・スパイラルバースト》!!」
「《糖分不足緊急補給式カロリークラッシュ》!!」
「《腹ペコ超新星グランドスラム》!!」
「《情緒不安定爆裂メンタルフルバースト》!!」
「《食べ放題終了五分前ラストオーダー・インフェルノ》!!」
⸻
モンスター軍。
壊滅。
⸻
アインは、静かに前へ出る。
白銀外套。
蒼光。
「対群体制圧術式展開」
空間へ。
幾何学魔法陣。
⸻
「《絶対静謐広域殲滅術式・アークライトセレスティアルレイド》」
⸻
閃光。
⸻
モンスター軍団。
⸻
一列消滅。
⸻
「《高位因果断裂式多重収束砲撃・ルミナスブレイク》」
⸻
城壁前。
⸻
更地。
⸻
衛兵。
⸻
震える。
⸻
「白い人も怖い!!」
⸻
だが。
⸻
アインの視線。
⸻
佐伯へ向いていた。
⸻
「……まだです」
⸻
「え?」
⸻
アイン。
⸻
術式追加展開。
⸻
「《超高密度広域制圧終局術式・ルミナスヴァルキリー・ジャッジメント》」
⸻
蒼白閃光。
山一つ。
消える。
⸻
静寂。
⸻
アインは、少しだけ満足そうだった。
「これで討伐数は私が上です」
⸻
「競う場所そこなんですか!?」
⸻
その後。
完全勝利。
辺境城塞都市。
大歓声。
⸻
「英雄だ!!」
「救世主だ!!」
「宴会を開けぇぇ!!」
⸻
夜。
宴会場。
肉。
酒。
パン。
シチュー。
巨大ローストモンスター。
⸻
香り。
強い。
⸻
佐伯。
固まる。
「…………」
⸻
実は最近。
少し痩せていた。
ツッコミ激務とバッティングで。
だが。
目の前。
異世界飯。
⸻
「……これは……仕方ないやつ……」
⸻
アインは、静かに肉を切っていた。
「高タンパクです。筋肉修復効率も悪くない」
⸻
「アイン先輩そうやって食べる理由与えるのやめてください!!」
⸻
その時。
背後から、抱きつかれた。
⸻
「きゃっ!?」
⸻
金髪。
青いドレス。
エリシアだった。
「佐伯お姉様〜♡」
⸻
「なんでいるんですか!?」
⸻
エリシアは、笑顔。
「英雄の宴って聞いたから来ちゃいました♪」
⸻
そして。
⸻
佐伯の皿へ。
山盛り肉追加。
「はい、お姉様、あーん♡」
⸻
「増やさないでぇぇぇぇ!!」
⸻
アインは、静かにその様子を見ていた。
「……人気では、佐伯が上ですね」
⸻
「そこ張り合うんですか!?」
⸻
その夜。
⸻
佐伯。
三キロ。
リバウンドした。
⸻
翌朝。
⸻
佐伯は、宿のベッドで天井を見ていた。
「……人類って、ストレス解消したあと油断すると食べるんですね……」
⸻
アインは、静かにお茶を飲む。
「反動です」
⸻
「シンプルに現実!!」
⸻




