第七十九話 「恋愛感情未満の距離感というものは、“人類がまだ言語化できていない好意”なので、猫と青春が混ざると時々戦争になります」
午後四時四十八分。
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高知県西部。
四万十川支流。
土手。
草原。
夏風。
青空。
遠くでセミ。
平和だった。
本来なら。
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「ご主人様ぁ〜♡」
キノピーが、ノベェンタへ抱きついていた。
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猫耳メイド姿。
黒白フリル。
しっぽ。
鈴。
かなり破壊力が高い。
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ノベェンタは、普通に撫でている。
「ネコ、“安心圏認定した個体”へ物理接触増やすので。あと人類、“懐かれてる光景”見ると脳内で保護欲起動しやすい。“自分だけに甘えてくる存在”へ弱いの、かなり哺乳類的反応なんですよ。あとメイド+猫耳、“世話焼き”と“自由気まま”という矛盾属性を両立できるので、オタク文化史的にかなり完成度高い。“従順そうなのに自由”って、人類かなり好きなので」
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リゼの笑顔が、ぴくりと揺れた。
「属性分析で火力増やすのやめて」
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キノピーは、ノベェンタの腕へ頬擦りする。
「ノベェンタあったかいにゃ〜♡」
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ゴゴゴゴ……。
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リゼの背後で、紫黒色魔力が噴き上がる。
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「……なんか今、“にゃ〜”へ殺意混ざってましたよ」
佐伯が後ずさる。
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アインは、静かにメモを取っていた。
「興味深いですね。“恋愛感情ではない親密さ”が第三者へ嫉妬誘発している」
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「分析しないでください!」
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ノベェンタは、草原を見ながら頷く。
「人類、“好意の種類”そんな綺麗に分類できないので。“恋愛ではないけど特別”“家族ではないけど落ち着く”“ずっと一緒に居たいけど説明できない”。この辺かなり曖昧なんですよ。あと嫉妬、“奪われた”より“自分だけ知らない距離感ある”時に発生しやすい。“なんか二人だけ空気違う”が一番脳へ刺さる。つまり人類、“関係性の解像度”へ弱いので」
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リゼが杖を持つ。
「アンタ、そう言う話にも理解度高いくせに…もうっ…」
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キノピーも、猫耳ぴこぴこさせながら構える。
「ノベェンタは渡さないにゃ♡」
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「べっ別に渡すとかじゃないのよ!」
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その瞬間。
風。
魔力爆発。
土手の草が、一斉に揺れた。
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「始まったぁ!?」
野村部長が叫ぶ。
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第一ラウンド。
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リゼが杖を掲げる。
「《紫銀月蝕境界感情過剰干渉術式・トワイライト・ジェラシー・テンペスト》!!」
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紫銀の嵐。
ハート型魔法陣。
無駄に綺麗。
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キノピー、回転回避。
「《超絶猫耳給仕永久甘味空間創造術式・にゃんにゃんメイドパラダイス∞》にゃーー♡」
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空間へ、大量の猫型クッション召喚。
土手が急にコンカフェ。
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「戦闘フィールドが狂ってる!」
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リゼが跳ぶ。
「《深淵紫電感情暴走封鎖魔導・エクリプス・ハートブレイカー》!!」
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紫雷。
草原が吹き飛ぶ。
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キノピー、くるんと回転。
「《銀河級超時空もふもふ完全幸福無限抱擁結界・コズミックにゃるんフィーバー》♡」
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もふもふ結界展開。
攻撃が全部ぷにぷに吸収される。
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「もふもふ防御を攻略出来る気がしない!」
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ノベェンタは、静かに見守っていた。
「ネコ、“攻撃性”と“甘え”同時存在する生物なので。急に噛むし急に喉鳴らす。つまりキノピー現在、“縄張り主張”と“安心行動”が混線してる状態ですね。あと人類、“自分だけ特別扱いされたい欲”かなり強い。“あの人、自分には見せない顔してる”って、理性より先に情緒へ刺さるので。青春作品、“窓際で誰と喋ってたか”だけで事件起きますし」
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リゼが地面を叩く。
「くっ…鈍感が青春を語るな!」
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第三ラウンド。
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「《終末紫銀魔界断層感情崩壊波動砲・ラグナロク・エモーション・バースト》!!」
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キノピーも叫ぶ。
「《ご主人様お昼寝永久保証超絶快眠肉球結界・にゃるふわドリーミング》〜♡」
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激突。
ドゴォォォォン!!
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なぜか。
タンポポだけ無事だった。
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「自然に優しい?」
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第四ラウンド。
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リゼ、少し顔を赤くしながら叫ぶ。
「《紫銀終焉月下独占欲暴走魔導極式・ルナティック・クイーン・カタストロフ》!!」
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キノピー、猫耳全開。
「《超銀河級完全無敵全自動おかえりなさいませ永久保証にゃんこメイドアルティメット》♡」
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結局、土手が吹き飛ぶ。
川の魚が跳ねる。
鳩が避難する。
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「町役場から苦情来るって!」
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第五ラウンド。
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両者。
空中。
魔力最大。
風が巻き上がる。
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夕焼け。
草原。
夏の匂い。
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リゼが叫ぶ。
「《超位紫銀深淵永久境界感情干渉封印術式・トワイライト・ノクターン・エンドロール》!!」
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キノピーも叫ぶ。
「《究極超時空銀河猫耳メイド永久幸福おひるね次元展開奥義・にゃんこパラダイス・フォーエバー》にゃーーー♡!!」
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激突。
光。
轟音。
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そして。
静寂。
数分後。
土手の野原。
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リゼとキノピーが、並んで大の字になっていた。
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夕焼け。
風。
川音。
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「……疲れた」
リゼが呟く。
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「にゃ〜……」
キノピーも転がる。
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しばらく沈黙。
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その後。
キノピーが、ぽつりと言った。
「ご主人様、好きにゃ」
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リゼの眉が、ぴくりと動く。
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だが。
キノピーは続けた。
「でも、“ずっと遊んでくれる人”って感じにゃ」
静かな風。
「にゃーは、ご主人様と昼寝したり、お魚食べたり、撫でられたりしたいだけにゃ」
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リゼは、少しだけ空を見る。
「……ずるいわねぇ」
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「にゃ?」
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「そういう“まっすぐ好き”って、強いのよ」
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キノピーは、ころんと転がり黒猫にもどる…。
「リゼも好きにゃ」
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沈黙。
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リゼ、少し吹き出した。
「なんかもう、怒るの馬鹿らしくなるわね」
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ノベェンタは、少し離れた場所で川を見ていた。
「人類、“独占したい愛”と“ただ一緒に居たい愛”を混同しやすいので。でも案外、“隣で笑ってるだけで安心する”くらいの感情が、一番長持ちする場合あります。あと青春、“誰かと無駄な時間過ごした記憶”が後から人生支えるので。土手で寝転がってた日とか、帰り道の会話とか、“特に意味なかった時間”が一番消えない。人類、意味より温度で生き延びる時あるんですよ」
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リゼが笑う。
「もうっわかってるわよ…」
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夕焼け。
草原。
夏風。
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土手には、笑い声だけが残っていた。
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